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第一幕 吟遊詩人と戦乙女

 ──僅か二十年の程前の話。

 人間達が穏やかに暮らすこの世界に、異界の魔物を従えた暗黒大魔王が突如として現れ、世界を蹂躙していった。

 そんな中、四人の英雄達が立ち上がる。

 聖騎士──カーネル。

 僧侶──ロッテ。

 召喚士──ドナルド。

 拳闘士──モス。

 後に伝説のパーティと呼ばれる、この四人の英雄達の活躍によって、暗黒大魔王とその軍勢は異世界への撤退を余儀なくされた。

 ただ、問題も残る。

 結局魔王討伐に至らなかったわけで、今後またいつ襲来してくるかわからない。

 失敗を踏まえ、おそらく前回以上の軍勢を率いてくるのだということも予測される。

 それを懸念したパーティの軍師も担っているドナルドは、四の軍事国家建国を提案した。

 一つの国に一人の王。

 魔王討伐において活躍した四人の英雄達全員がそれぞれ自分の後継者を育てるための国で、今日もまた新たな伝説が生まれている。

 

 ○ ○ ○


 ──四月の初頭。

 この時期は、この国──聖剣王国グロウリーキングダム直属の部隊である聖剣部隊の入隊試験が行われていた。

 聖剣王国国王は聖騎士カーネル。

 王国としての特色も、また彼のジョブに合わせて、剣士系が多いのが特色だ。

「名前は?」

「はい! ジパング国から来ました、ヤマダタローといいます! 現在剣士のジョブを習得中です!」

「…………」

 この世界の人間は職の神──働蟻ワーカーからジョブを受け取り、それに殉じる。剣士のジョブなら可能な限り剣を振り続ける必要があるし、魔導師なら魔法書を読み続けなければいけない。

 また、一定以上の功績を収める(例えばタローのジョブ剣士なら、必殺剣を習得する等)ことを、マスターするといい、その時にのみ働蟻から別のジョブを受け取ることができる。

 また、ジョブには各種決められたランクというのがある。

 現在は暗黒大魔王の再来に備えている状況であり、戦士系や魔法使い系のジョブは多く必要とされているが、農家や漁師等のジョブの必要性は殆どない。

 現在、面接に来ているタローのジョブ、剣士のランクは10──であるけれども、マスターはしていないので、その半分の5が、彼の兵士としての価値だ。これはそこまで悪い数値ではないけれど、飛び抜けて良いわけでもないといったところだろう。因みに、攻撃魔法の得意な黒系の魔法使いは8〜20、反対に防御の得意な青系は15〜30、回復が得意な白系は18〜35。といったところだ。剣士等の戦士系に比べてランクは高めだが、その分習得までかなりの時間を要し、実際に戦場で使えるレベルとなると、10〜20年程度の修行が必要となる。マスターしようとすればその倍だ。

 更にあの伝説のパーティの一員であり、この聖剣王国国王のジョブである聖騎士のランクは500。また、彼はそれ以外のジョブも幾つかマスターしているので合計1000を超えるランクの持ち主であり、そんな理由から彼は『サウザンド・ナイト』なんて呼ばれている。

「あの……」

 ヤマダタローと名乗った少年は、黙り込む試験管を、心配そうに上目遣いで覗き込む。

「ああ、君は合格だ。三番部隊の『ナイト』となって、明日から演習に参加しなさい」

 試験管がそう言うと、少年はぱあっと顔を明るくした。

 なんというか、幼い外見だ。身長は低いし童顔。ジパング国は閉鎖的な国で、滅多に人が来ないのだけれど、皆こんな感じなのだろうか。

 『ナイト』というのはこの国家における階級の一つだ。

 階級は全部で6つ。

 上から、キング、クイーン、ルーク、ナイトとビショップが同立で、一番下がポーン。

 戦闘につかえるジョブ持ちはとりあえず、ナイトとビショップに振り分けられる。戦士系はナイトで魔導師系はビショップ。この国では王が戦士系なので、自然と志願者の殆どは戦士系となり、ナイトに配属される。

 ポーン系は上記の、農家や漁師等の、志はあるが実力が伴っていない志願者向けで、させられることは雑用ばかり。自称誇り高き決意というのが一週間もせず錆びていく輩が殆どだ。そういうのを見ると、やはり神は適材適所なジョブを割り振っていると思う。

「次の志願者、入れ」

「はいはーい」

 そんな軽率な声と共に入って来たのは──

「な!?」

 化物──否、馬鹿者だった。

 黒いマントで身を包み、おそらく黒系の魔導師であることが伺える。それなら良くある服装だ。

 だが、その頭についているのは明らかに異様である。

 無駄にコミカルな目、鼻、口が彫られたオレンジ色のカボチャを被っているのである。

 しかもなんか内側から黄色い光が漏れてる。中にいる頭が発光でもしているのだろうか。

「お前は……」

「HAHAHA!! ミーの名前はパンプキン☆ヘッド、世界で最も愉快なカボチャSA! 習得したジョブは吟遊詩人! ミーに弾けない楽器はナッシング!!」

「あ……ああ……」

 パンプキン☆ヘッドを名乗る志願者の、あまりのハイテンションに試験管は思わず及び腰になる。

 一応これでも毎年何百人もの志願者と顔を合わせてきたのだが、これ程までにテンションの高い人間は初めてだ。

 また、彼の語る吟遊詩人というのもまたあまり見慣れないものではある。

 確かに、この世界には歌というものは存在する。

 だが、そんなものは、いつ魔王軍が攻めてくるかわからない昨今、この世界で必要なものでは決してない。この軍事国家では尚更だ。歌は勿論呑気に口笛でも吹こうものなら、地下の監禁部屋で最悪数週間の粛清が行われる。

 このように、吟遊詩人のような明らかにTPOをわきまえていないジョブはランク0となり、どれだけマスターしても価値などない。農家や漁師の方が、多少は身体を鍛えていたりする分だけまだマシだ。

「他にマスターしているジョブはあるか?」

「HAHAHA!! んなわけナッシング!! ミーの人生は踊るオタマジャクシに捧げられているのSA!!」

 ダメだこいつ。

「そうか。なら不合格だ。とっとと出て行け」

 常に人材不足気味ではあるけれど、時折こんなポーンにもなれない輩は存在する。

 窒素は有っても無くてもいいが、塩素はいらない。

 つまりはそういうことだ。

 こんな奴が、この国家に入っても有害にしかならない。

「Eeeeeeeeeee!? そんなBANANA!?」

 カボチャ男はそんなことを言いながら、膝と両手を地に着け、これ見よがしに落ち込んでますよ、というポーズをとる。鬱陶しいことこの上ない。あと、地味にギャグが寒い。

「あとがつっかえる。とっとと出て行け」

「う、ウェイト!! とりあえず、ミーの曲を聴いてくれYO!! きっと君もミーのソングにメロメロになるはずSA!」

「ええい! 摘み出されたくなければ、早く帰らないか! 貴様の曲なんぞ聴きたくないわ!!」

 ここは命を賭してこの世界を護らんとする勇者のための国であって、こんな見るからにふざけた奴の来る場所ではない。

 どうやらカボチャ男もようやく空気を察したらしく、

「OH。しょうがないNA」

 なんて言いながら後ろを向く。

「ウサギちゃん。ゴーホームだYO」

 こちらからは見えないが、どうやら彼の後ろに並んでたやつも、彼の仲間らしい。どうせ碌な輩ではないだろうし、帰って貰って全然構わない。

 試験管が、そんなことを思っていた時だった。

「おぉおおおおおおおおい!! 皆逃げろぉおおおおおおおおお!!」

 そんなことを叫びながら遠方からボロボロになった男が駆けてきたのは。

「どうした!?」

 40くらいの男は、試験管の同僚である。同じ飯を食い、戦友である彼の余りに取り乱した様子に、状況が決して穏やかではない事を悟る。

 男は息を切らせながら、それでも冷静になって言った。

「魔獣が出た!! しかも、俺の剣が通じない!!」

「何だと!?」

 ──魔獣。

 暗黒大魔王の配下で、人ならざる化物。

 魔王軍は撤退したものの、全ての兵が異界へと戻ったわけではない。多くはないけれど、この世界に置き去りにされ、時折町などを襲ったりする。

 戦友の階級はルークでジョブのランクは確か60だったはず。

 そんな彼の剣技で刃が立たず、敗走を強いられるということは、余程の魔獣に違いない。

 少なくともクイーンクラスの戦闘力が必須だ。

 入隊試験なんてやってる場合ではない。

「私は受験生を安全な場所まで逃す! 足の速いお前はこの事を国王様に──」

 そこまで言って。

 試験管長年の友は。

 不意に、赤い噴水へと姿を変えた。

「なっ!?」

 消えた胴体。

 断面から飛び散る血液。

 そして、その背後には、全長5メートルはありそうな、巨大な何かがあった。

 全身を茶色の体毛に覆われた、哺乳類のような姿。それが二足歩行で立ち上がっている。子供の時に動物図鑑で見た、カピバラという生物に似ているが、当然こんなに大きくはない。

「くそっ!」

 試験管は腰に携えた獲物を抜く……が、

 がぁああああああああああびぃいいいいいいいいい!!!

 そんな重低音の鳴き声を出しながら、しかし目に止まらない速度で、魔獣は拳を放つ。

「ぐぅおおおおおおおお!?」

 なんとか。

 なんとか、剣で受けられた。

 受身もとった。

 …………だが。

「あああああああああああああ!?」

 両腕があり得ない方向に曲がっていた。

 ダメだ。

 殺される。

 それだけではない。

 このままだときっと被害は数百では済まない。

 でも、自分には何も──

 その時だ。

 ズンチャカ☆ ズンチャカ☆

 そんな、あまりにTPOを無視した、気味の悪いくらいに陽気な曲が、その場に鳴り響いたのは。


 ○ ○ ○


 マイ=サンクチュアリは、自身が俗にいうエリートであることを理解していた。

 理由は多々ある。

 齢16にして、マスターしたジョブは5、ランクは235。これは、総勢3000人の兵がいる国内において、ナンバー2である。

 一番初めの剣士をマスターしたのが9歳の頃で、その時点で階級はルーク。最も手間取ったのが白魔導師だが、それも3年でマスター。どのパーティにも白系の魔法というのは重宝されるもので、同時に兵士系のジョブを複数マスターするという、異例のことをやってのけた自分はすぐにクイーンの階級を得た。

 現在習得中のジョブは戦乙女。兵士系でも聖騎士に次ぐ最上位級のジョブである。そして、このジョブも自分の経験上、あと一月もあればマスターできる。

 戦乙女をマスターしたら、次は国王──自分の父と同じ聖騎士をマスターしてみせる。

 この国に来る人間の多くは、父、カーネル=サンクチュアリの後継者となることを目指しているが、それはとても残念なことだ。

 その条件を満たせるのは、彼の血を引き、神から愛された自分だけなのだから。

「メイ様!」

 そんな声が聖剣王国、聖剣城にあるメイの部屋に響く。

 声の主は、メイの付き人であるセツナだ。

「どうしたの、セツナ? そんなに慌てて」

 いつも冷静沈着な彼女が珍しい。彼女がここまで取り乱す時と言えば──

「また男にフられたの?」

「また、ってなんですか!?」

 この娘は実力もあってとてもいい子なのだが……なんというか、異性関係が凄く残念なのだ。

 ホレやすい、というのもなんか違って、好きになる人がことごとくアレな感じ、有り体に言えば男運が無いのである。

 この間なんか、好きになった人がガチホモだったり。

「って、そんな場合じゃありません! 王国内に魔獣が侵入しました!」

「え!? それ本当!?」

 あいつらは、頭が良いわけではないが、野生の勘に優れている。少なくとも自分の父親のいるこの国に喧嘩売るなんて馬鹿なことをするなんてまずない……はずだが。

「はい!ルーククラスの狩人から連絡があったのでまず間違えありません」

「場所は?」

「ナイト宿舎の門前です。現在入隊審査が行われていたのですが、既に試験管数人を含んだ数人の被害者が」

「──ッ」

 この国には、白系魔導師は数百人程いるが僧侶はいない。というか、僧侶自体世界に10人くらいしかいないのだ。更に完全な蘇生ができるような人間だと、思い浮かぶのは、伝説のパーティの一人であるロッテくらいしかいない。

 勿論、彼女も一国の国王として多忙の身である。おいそれと、他国まで来てもらうわけにはいかない。つまり、死んだらそれまでということだ。

 しかも、試験官も苦戦しているということは、ルーククラスではかなり厳しいほどの相手。

 なら、クイーンクラスである自分が行かなくてはいけない。

「私が出ます」

 言って、収納の魔法を発導する。軽装だった服が瞬時に戦乙女の鎧と変わり、武器であるランスとシールドを装備する。兵士系は常に重い武装を持ち運ばなくてはいけないが、殆どの兵士系は魔法が使えない。逆に、比較的軽装でいい魔導師系はこの収納の魔法が使えるという、ちょっとしたジレンマがあるのだけれど、両方をマスターした自分は、兵士系でありながら、常に鎧兜を身につける必要がない、というちょっとした利点があったりする。

「ご武運を」

「ありがと」

 そう言って、メイは城の広間から大空へと跳ぶ。

 戦乙女。

 兵士系でも、女性にしかなれない比較的イレギュラーなジョブで、その最も大きな利点は、飛行能力である。

 竜騎士なんかも高く跳べたりするが、それは結局ただのジャンプに過ぎない。戦乙女はそうではなく、まるで鳥のように──否、それ以上に自由に空を舞うことができる。

 99.99%の金髪、サファイア色の目、陶器のように光る肌──そんな希代の美少女である彼女が大空を駆ける姿を見た人間達は、いつしか彼女を『天穿の女神ヴァルキリースワロー』と、そう呼ぶようになった。

「見えた」

 空を駆ける彼女はまだ数キロも離れた場所にいる魔獣を黙認するのはそう手間ではなかった。目がいいというよりも、魔獣が大きいのだ。

 少なくとも、自分が目にした中では二番目くらいに大きい。

 単純な物理的攻撃力は重さ×速さであり、あの質量の物が暴れているのだから、確かにルーククラスでは荷が重いだろう。

 それにしても、なんだろう。

 確かに暴れている。

 暴れているのだが、どこか規則的というか、逆に不規則的というか。

 少なくとも何かを壊したりしているような動きには見えない。

 それどころか──どこか楽しそう?

 メイが眉をひそめ、首を捻った時だった。

 ──ズンチャカ☆ ズンチャカ☆

 そんな、どうしようもなく、TPOをわきまえていない、音が耳に届いたのは。

「────っ!?」

 メイは驚き、空中で一時停止する。

 なんだこの音は?

 音系の攻撃?

 ……だか、攻撃にしては、多少なりと音を聴いたはず(仮に攻撃を受けたとしても、この程度なら、すぐに回復できる)なのだが、別段身体に異常は見られない。

 じゃあ、なんなんだこれは。

 何にしても、ここで立ち止まっているわけにはいかない。

 気を取り直し、メイは再び魔獣の元へと駆ける。

 すると、ドップラー効果を伴いながら、だんだんと、音の正体が明らかになっていく。

 

 ウィッチと

 カボチャの

 愉快☆ な

 パーティ!!


 ズンチャカ☆ ズンチャカ☆

 

 カボチャさーん

 今日のオヤツは何にしようかな?

 ウィッチさーん

 僕のオススメは甘い甘いパンプキンパイです

 それって、共食いじゃん?

 オーマイガー


 ズンチャカ☆ ズンチャカ☆


 これは、歌?

 暗黒大魔王に襲われる前まで、この世界に溢れていたという。

 今の世界には全く必要の無い物。

 ただ、それだけ。

 それだけの物である筈なのに。

 身体が、勝手に──

 

 一方の試験会場では、大混乱が巻き起こってる。

 先程まで、超弩級の魔獣が現れ阿鼻叫喚の嵐だったが、現在は別の意味で阿鼻叫喚の嵐である。

 嵐の真ん中にいるのは、2人。

 1人は黒くて大きく、ウサギの耳のようなものがついたとんがり帽子をつけ、巨大な懐中時計を携えた13くらいの小柄な少女。その表情は何故か酷く無表情である。

 もう1人は、あのパンプキン☆ヘッドだ。右手にタンバリンを持って自分の尻を叩き、左手で器用にクラリネットなどを吹いている。

 その二人が、陽気な曲調で、交互にお喋りするように歌っている姿はかなりシュールだった。カボチャの方は口元も見えないので、なぜ笛を吹きながら、あんなにはっきり歌えるのかもわからない。

 そして、その周りでは、志願者は勿論、試験官、魔獣までもが、彼らの歌に合わせて踊っているのだ。

 別に、その歌を知っていたわけでもない。

 ただ、そんな陽気な歌を聴いてると、身体が勝手に音楽に合わせて動き出すのである。

「HAHAHAHA!! じゃあ、ラストスパートだ!! 歌姫、ウサギちゃんシクヨロ!!」

「………………」


 パンプキン☆ パンプキン☆

 パンプキン☆ パンプキン☆

 今夜はなんて素敵なパーティかしら

 パンプキン☆ パンプキン☆

 パンプキン☆ パンプキン☆

 カボチャとウィッチの愉快☆ なパーティ


 音楽の消えた世界に、楽しげな歌声が響き渡る。

 音楽の消えた世界で、人々は笑顔で踊る。

 音楽の消えた世界を、おたまじゃくし達が蹂躙する。

 ──曲が終わり、そこにいた殆ど全員に蓄積された疲れが襲って、次々と倒れていく中、一番愉快に、本当に愉快に、タンバリン叩きながら、クラリネット吹きながら、歌いながら、ダンスするという狂人じみた行動をしていたパンプキン☆ヘッドは、

「すっげえいいダンスだったYO!! ユーなかなかやるジャン☆」

 とか言いながら、巨大な魔獣の足にハイタッチする。

 魔獣の方も

 ぐぉおおおおぉぉぉ!

 とか、吠えながら、心無しか楽しそうに、その場で足踏みをする。その度に起きる地響きに、周りの人間はあまり生きた心地がしない。

「HAHAHA!! ミーはパンプキン☆ヘッド! 世界で一番愉快なかぼちゃSA!! ユー、ミーとソウル☆フレンドになろうYO」

 グゥゥウウウウゥゥォオオォォ。

 それは、伝説のパーティ召喚師ドナルド以外成し得なかった、人間と魔獣が音楽の力で心を通わせた、歴史的と十二分に言える瞬間だった。

 ──そして、その瞬間を破壊する美しき流星が一つ。

聖之槍セイント・スピア!!」

「!?」

 上空から現れたそれが、

 グゥゥゥオオオオオォォオオオオオォォ!!

 巨大な魔獣の胸を貫いた。

 苦しげに呻く魔獣。

 それは、もう、悲しいまでの急所。

「ふぅ」

 そんな、魔獣を横目に、全身を紫色の体液で染めた戦乙女は息をつく。

 息を──

「HAHAHAHAHAHA!!」

「っ!?」

 ギィィィィイイイイィィィン!!

 笑い声と共に、戦乙女を襲ったのは、一つのタンバリンだった。それをメイは盾で受ける。

 その威力は、並ではない。

 少なくとも、ルーククラス。

「あなた、何者なの!?」

 けれど、メイはクイーンクラス。

 その程度、軽く防いで弾きかえす。

「HAHAHA!」

 それが二人の出会い。

 これから訪れる果てしない運命の物語が、今始まる。


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