001
始まりのシンワ
あたたかい光に包まれた世界の隅で
一つの陰が静かだった。優雅に佇む彼は遠い昔、
死神と呼ばれていた。彼の眷属ー鬼などーは
光に戻っていた。
光は来るものも行くものも平等に包んだ。
戻ってこなかった者をいつも遠い目で見ていた。
そうしておいて、新たに来たる者を優しく
包んだ。彼女は儚い存在であったから。
一方で、死神は何もしなかった。
彼の眷属や配下、まだ見ぬ人々までもがいづれは
ここへ来ることを知っていたからだ。
それが、この世界の規則だ。
光はそれを嫌った。 悲しかった。
抵抗する彼女にも、彼は何もしなかった。
それ自体も、彼の規則だったからだ。
少しずつ陰が大きくなる。
同時に光は小さくなっていく。
今日も彼は静かに佇んでいた。そんな彼を
彼女は悲しげに見ていた。