第八話
コジローの恐怖からなんとか逃れたタローは、家の奥にある工房の隣、作業場兼素材置き場に逃g…来ていた。
ミラはコジローに任せてある。部屋を出るとき、ミラの目が、行かないでくれ!と必死に訴えていたが、ぐうたら生活を潰された腹いせに、爽やかな笑顔で華麗にスルーした。…今のコジローには近づき難いのだ。
「さて。剣を打て、と言われたものの… 素材が足りん…」
素材置き場の棚には、鉄のインゴットが数個と魔物の爪や牙らしきものしかなかった。
「あ~、リリアのにかなり使ったからなぁ。流石にマニュデット相手に、鉄の剣に毛が生えた程度じゃ勝てないだろうな… 誰かに採って来てもらうか?いや、また小言を言われるだろうしなぁ… 後、何かあったっけ?」
そう言って、何やら棚の隅々まで探る。
…決して自分で採りに行こうとしない辺りに、タローの性格が出ている。
そこに、ミラの看病をしていたコジローが来た。
「マスター何してるにゃ?」
「おぉ、ミラはどうした?」
「魔剣の詳しい情報話した後、果物食べて寝たにゃ。妙に寝苦しそうだったけど、尻尾で撫でてたら、おとなしくなったにゃ」
「あぁ、コジローのプレッシャーでか…」
「マスター?」
「い、いや!?なんでもない!!それより、何してたかだったな!」
「?」
「リリアの依頼で素材を粗方使ったからな、何か使えるもんが無いか探してるんだよ」
「まったく。考え無しにポンポン使うから、いざという時、素材が足りなくなるにゃ」
「いや、そもそも俺に依頼する奴等は少ないし、素材持込が多いからなぁ」
「普通の鍛治師じゃ活かしきれない素材だからマスターに依頼するにゃ。そして、そういう素材を採れない奴は、此処には辿り着け無いにゃ」
「まぁ、そうなるように迷いの森に家を建てたんだけどな。凡百な武具なんぞ、造ってたまるか!ッと、何だ?」
タローが棚と床の隙間を覗くと何かが落ちていた。
「何か役立つ物でありますようにっと」
「何にゃ?その袋」
タローが引っ張り出したのは、小さな布袋だった。
「さて中身はっと…」
そう言って袋を開けるタロー。コジローも気になるのか顔を寄せて来た。
そして、その袋の中には…
「何だコリャ?えらく小っさい…爪?牙?」
中には、2~3mm程の牙と、爪がいくつも入っていた。
「マスター。これ、オレの匂いがするにゃ」
「コジローの? …あぁ~!思い出した!お前がまだ子供の時に切ってやった爪と、抜けた乳歯だ!懐かしいなぁ。まだ、掌サイズでミーミー鳴いて俺の後ろついて来てさぁ」
「だ、黙るにゃ!?」
「おっ?照れてるのかな?」
「にゃっ!?誰が照れてにゃんかッ!?」
「あぁ~。そっか。恥ずかしかったんだね~。ほ~ら、よしよし、い~こい~こ」
タローは、コジローが子猫だった頃を思い返して悦に浸っているが、コジローにとっては黒歴史を暴かれている様なもの。
必死に黙らせようとするが、タローは意に返さず、あろう事かコジローを抱えて撫で始めた。
タローにしてみれば、普段しっかりしているコジローが、珍しく慌てているギャップに萌えているだけだが、コジローの堪忍袋の緒は、いとも容易く千切れた。
ザクッ
ガブッ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
コジロー、怒りの二連撃。
痛さに転げ回るタローを、ガラス球の様な目で見下しながら、コジローは照れ隠しも混じった折檻を続けた。