第六話
「……死…体?」
「…あぁ。大量の血の跡があるのに、死体がまったく無い」
「あっ…そういえば」
「…こりゃ、まずいぞ!全員、撤退するぞ!周囲に警戒配れ!」
私以外は、その意味に気づいたのか、武器に手を掛け警戒する。
「えっ、あの…」
「嬢ちゃん、しっかりしろ!冒険者の端くれなら、こんな結果くれぇ、覚悟してたんだろぉが!」
「ッ!…はぃ。」
『冒険者は、一般人より死に近い。仲間が死んでも悲しむのは帰ってからだ。常に冷静でなければ自分も死ぬ』
そんな事、冒険者になる時に、散々言われた。それでも、冒険者になったんだ。だから…
「…はい。大丈夫です。今は、悲しむ時じゃないですね」
「…よし。よく持ち直した。手短に説明するぞ。」
「はい!」
「この、戦闘跡を見る限りパーティーは全滅と考えていい。だが、死体が全く無い。そこから考えられるのは、魔剣に操られている」「ッ!?…魔物に喰われた可能性は?」
「魔剣に操られているのは死体。食事は必要ない。迷いの森に近いから、動物や魔物はここら辺に近寄らない」
「…そう、ですね」
「この事をギルドに報告するため、ひとまず撤退って事だ」
「はい。わかりました」
「それじゃあ、撤退する……チッ!お出ましだ。」
「えっ…」
そこには、一つの人影があった。それが、ゆっくりと近づいて来る。
「…ケイン」
それは、体の至るところに切り裂かれた跡があった。
それは、右手に黒い剣を持っていた。
それは、私と同じオレンジの髪だった。
それは、兄の顔をしていた。
「兄さん…」
本当に、操られているのか。少しでも意識は残ってないか。私を見たら何か反応しないか。
そんな考えは、消え去った。
兄は完全に死んでいる。
切り傷から血が流れる事はなく、左腕は肩口から千切れかけ、目は濁っている。
あれは、魔剣だ。
周囲に目をやると、私達を囲う様に魔物やヒトが地面から出てきたが、全て死体だった。
「おい、嬢ちゃん。戦えるか?」
「はい。あれは、敵です」「いい返事だ」
魔物は私も見たことがあるもの、迷いの森からの死体は無いようだ。
「相手は死体だ!前衛は、四肢を切り取れ!魔法職は火系統!弓は本体を縫い付けろ!」
私は近くに来た狼に似た魔物、ローウルフを切り付けながら魔剣を見る。魔剣は矢が刺さっても、引き抜いて向かってくるが、魔法は避けるか、周囲の死体で防いでいる。
(…しかし、妙だ。云われるほど、手強くない?)
そんな考えがよぎる。いくらランク上位の冒険者ばかりとはいえ、手応えが無さ過ぎる。
「魔剣は、死体の補充が出来てない?」
「なるほど。この辺りは、迷いの森の所為で人も魔物も近寄らないからな。こりゃ、ケインの野郎の作戦だな」
「兄の?」
「あぁ。万が一、失敗しても被害が少なくする。あいつの考えそうなことだ」
「それじゃあ、せっかく兄が場を整えてくれたんです。負けるわけには……、いかないですね!」
「あぁ!野郎共!ケインの弔い戦だ!派手にブチかませ!」
「「「「「応!!」」」」」
全員の士気が上がった。不覚にも、視界が滲む。こんなにも兄は慕われてたのだ。それが、嬉しかった。
戦闘が始まって一時間は経っただろうか。こちらの士気は最高潮。
順調に死体を刈り取っていると、突如、死体が距離をとりはじめた。
突然動きが変わり、全員が一瞬戸惑い、動きが止まる。
そして…
魔剣が逃げ出した。
皆が呆気にとられたが、直ぐ様、気を取り直し追いかける。
しかし、死体が包囲し邪魔をする。今までは私達を殺そうと攻撃ばかりだったが、今は徹底的に防御する。魔法を撃っても避け、その隙に魔剣を追おうとすると、自ら魔法に突っ込み防ぐ。
何とかならないかと、周りを見ても、防御に徹した死体は厄介過ぎた。
ようやく包囲網を抜けた時には、魔剣は影も形もなかった………