第一話
初心者の稚拙な作品です。
とある晴れた日の昼下がり。【迷いの森】と呼ばれる数Kmにおよぶ深い森の端にある一件の小屋の前に一人の女性がいた。
オレンジ色の髪は後ろで綺麗にまとめられ、同色の切れ長の目。体は動きを妨げないよう、手甲と脚甲。胸部から腹部を覆う鎧でつつまれ身長は175cmほどで女性としては高い。
「こんにちは〜」
ドアに付いているカウベルを鳴らしながら小屋に入った女性が、まず見たものはカウンターの上で丸まっている真っ白い猫。
猫は、窓から差し込む日差しを浴びて気持ちよさそうにねむっている。
女性はその猫を見て頬を弛ませながら近づき、抱き上げ自分の頬を擦り寄せる。
「おぉ〜。相変わらず、いい毛並みだね〜コジロ〜。癒される〜」コジローと呼ばれた猫は、薄く目を開き、腕の中からカウンターの上に逃げ出す。「あぁ〜…」と哀しそうな声をあげる女性には目もくれず、体を大きく、ゆっくりと伸ばして解した後、ようやく女性に顔を向け口を開いた。
「ミラ!そこに正座!にゃん度言えばわかるにゃ!オレを抱く時は、そのゴツゴツした鎧を脱ぐにゃ!」
気持ち良く寝ていたところを起こされたせいか、鎧が痛かったせいか、この場合両方だろう。いつもは細くゆったりと揺れている【二本の】尻尾もピンッと立ち、右前足でカウンターをタシタシと叩き、怒る。が、ミラと呼ばれた女性は、そんなコジローを見てデレデレとだらしのない顔をして何やらブツブツと呟いている。
「うふふ… にゃん度… にゃん度だって。かわいいにゃ〜」
ブチッ
「…」
サクッ
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」キレたコジローが反省の色がないミラの額に、自慢の爪を刺した。
「コホン。それで?今日はどんなご用件かにゃ?」
「うぅ〜痛い。コジローの爪は立派な凶器なんだから、手加減してよ〜」
「黙るにゃ。用が無いなら帰るにゃ。そのまま出禁にゃ」
「はい。すみませんでした。出禁は勘弁してください」
見事な最敬礼をみせるミラ。
「はぁ〜もういいにゃ。それで?」
「うん。今日は、全装備の点検とコレでナイフでも作ってもらおうかと」
そう言ってミラは腰に下げている袋から、掌大の大きさの鉱石を十個出した。明らかに袋の大きさと、出した鉱石の量が釣り合わないが、コジローも気にしていない。
この袋は、この世界で一般的に普及している。ボーリング玉ぐらいの大きさの袋だが、容量は外見の数倍〜数十倍。中に入る容量と値段は比例しているが、重さはどれも変わらないので、子供から大人まで、様々な職業で愛用されている。
特に冒険者は食料用やアイテム用、魔物から獲れる素材用、貴重品用等と複数の袋を使い分けている。
貴重品用の袋は買う時に、登録した者しか取り出せない個人認証の魔法をかけるので、同じ容量の袋の倍の値段だが利用者は多い。
〜閑話休題〜
「それで、タローは?」
「マスターは、まだ寝てるにゃ」
「まだ寝てるの!?もう、昼過ぎてるのに!?」
「最近、依頼が無かったからダラけてるにゃ。起こして来るから、その間に装備を外してカウンターに置いとくにゃ」
そう言ってコジローは奥の生活スペースへと進んで行く。ミラはさっさと装備品を外し、カウンターに置いていく。
すると、コジローが向かった方向から男の叫びが響いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」しかし、ミラは気にもせず鎧で凝った体を解していた。
そして5分後、コジローを引き連れて、一人の男が出てきた。額には大きな絆創膏が貼ってある。彼も、コジローの爪をくらったようだ。
「おう、ミラ。久しぶりだな」
「えぇ、久しぶりね。こんにちは、タロー。相変わらず暇そうね」
ミラは、先ほどの叫びと絆創膏から、何があったのか察した。何しろ今、自分も同じように額に絆創膏を貼っているのだ。あえて額の事にはふれず、にこやかに挨拶をした。
男の名前はタロー。24歳。黒髪黒目で身長は180cmほど、細く引き締まった体に、なかなか整った顔つき。町に住んでいればモテそうな要素は持っているのだが、ぼさぼさの髪と覇気の無さ、そして住んでいる場所が致命的に台無しにしている。
タロー達が住むこの小屋は、冒頭で述べたように【迷いの森の端】にある。ただし、端は端でも森の最深部の端。
小屋の裏手には、高レベルの魔物たちが住み着いた山がそびえている。
そんな場所に、普通の女性が来ることなど有り得ないのだ。なぜ、こんな場所に住んでいるのか、ミラも理由は知らない。
「んで?今日はフルメンテか?それと、これは… ふむ、なかなか上質な鉄鉱石だな。ショートソードでも作るか?」
カウンターに置かれた物から推測したらしい。視線を手に取った鉄鉱石のやや上にあわせながら言う。
「いえ、それはナイフにしてほしいの。私には、コジローとの愛の結晶があるから、浮気なんてしないわ」「変な表現するにゃ!」
ゴスッ
ガシッ
スリスリスリスリ
「にゃ!?離すにゃ!?」
カウンターで鉄鉱石を転がして遊んでいたコジローがミラのセリフに反応し、ミラの頭に体当たりするが、そのまま捕まり、無言で顔を擦りつけられる。
「はぁ。余程気に入ってるんだな、この剣。制作者としては嬉しいが、コジローのマスターとしては、コジローが何時か攫われるんじゃないかと不安だ。」
そう言って、カウンターの上にある剣を鞘から抜きメンテナンスしていく。コジローとミラは放置だ。
鍛冶師にとって自分が作った武具は、自分の子供だ。特にオーダーメイドの一品物しか作らないタローからすれば、その思いも一入。上京した子供が帰省してきたようなものだ。
タローは、剣をメンテナンスしながらも、この剣を作った時のことを思い返す。まさしく、親バカである。