第一章 灼熱の天王星 1
第一章 灼熱の天王星
ここはもうひとつの世界。
この世界では「神獣使い」、「魔法使い」、「騎士」の三つの職業が存在する。
生まれたときに選ばれた者が、選ばれた職業に就くのである。
選ばれた者は、自分の国を守る役目を負う。
外部はもちろん、内部からも…。
これは、そんな混沌の中で自らの命を刻もうとした少年少女の記録。
清廉で、儚げで、何よりも純粋な。命の記録。それは、メイ・メモリー。
ジリリリリリリリリリ!ジリリリリリリリリリ!
騒がしい目覚ましの音が響きわたる、小さな部屋。
その中で、一人の少年がいびきをかいて寝ていた。
ウラヌス・カザン。それがこの少年の名前だ。
茶色の髪に、どこか幼さの残る顔立ち。そんなどこにでもいるような少年である。
彼は小さい部屋で騒音が鳴り響いているのにも関わらず、いまだに眠りから覚めない。
頭が割れそうになるノイズに終止符を打ったのは、部屋に入ってきた別の少年だった。
真紅の長髪を後ろでひとつにくくり、獣を思わせる瞳。長身で、スタイルは抜群のようだ。
少年は起きる気配の無いウラヌスにため息をつくと、目覚ましのスイッチを切った。
そして、ウラヌスを一気にベッドから突き落とす。
どがっと言う痛々しい効果音と共に、無防備な少年の体は床へと落下した。
「…痛い」
さすがに目を覚ましたのか、寝ぼけた声で痛みを訴える。
開かれたその瞳は、美しい朱色だった。
「起きないお前が悪い。うるさくてたまらんかったぞ」
ウラヌスの言葉に対し、長身の少年はズバっと言い捨てた。
言われた本人は慣れた様子でその言葉を受け止めている。
「人生の3分の1は睡眠っていうじゃん」
「お前はそんなもんじゃなさそうだがな…」
「相変わらずの反応だなぁ、フェンリルは」
フェンリル、と呼ばれた少年は呆れた顔でウラヌスを見下ろす。
「そんなことを言っていられるのも今のうちだぞ、ナオミが帰ってきている」
「夢だ。もっかい寝よ」
「今起きるか永遠に寝るかすぐ選べ!」
「いや、だってありえないだろ?姉貴は依頼に行ってて…」
「早めに終わったんだと。早く起きた方が身のためじゃないか?」
「ご報告感謝します!即効疾風迅雷に下に降りますので姉貴に伝えておいてください!」
「………とうとう壊れたな、お前」
哀れな目を向け、フェンリルは部屋から出て行った。
一方ウラヌスは人類を超越した速さで着替え、1分経ったか経たないかというころには階段を駆け下りていた。ウラヌスの姉、ナオミ・カザンは少々困った人間で、彼は少々苦手としている。
どこがまずいのかというと…。
「…お、おかえり~。姉貴…」
「起きるの遅いぞ~。お仕置きに指一本以外全部折っちゃう♪」
「首も折る気なの!?いや、すいません!ほんっとにすいません!だから折るのはかんべんしてくれ!」
1秒にも満たないスピードで土下座体制に入る哀れな少年。
そんな彼を見下ろすのは、長い茶髪に精悍な顔立ち、かなりのプロポーションを持つ女性。
彼女が、ナオミ・カザンである。
「ええ~。どうしよっかなぁ~」
ニヤニヤと危ない笑みを浮かべ、弟をからかうナオミ。そんな彼女を制するように、後ろから違う人影が現れた。黄金のツインテールに瞳。まだ10歳になるかならないかという少女だった。
「ナオミぃ~。いつものことだし気にしなくてもいいんじゃないかなぁ?」
「いいじゃないかアルテミス、いつもの風景なんだからさあ」
ぎゃあああああ!!という悲鳴がひとしきり響きわたると、目に涙を浮かべた少年が部屋の隅に避難しているという実に滑稽な光景が映し出された。
「…お前、完全に敷かれているな」
「う、うるさい」
「泣くことないだろ…」
フェンリルの言葉に意地を張りながらも、何とか自分の生命の危機を抜け出そうとしているウラヌスに対し、ナオミは本題を切り出すように声をかけた。
「今回はこのぐらいで終わりにしておくわ、話もあるしね」
「…は、話?」
「そ。実はさあ、あんたに依頼がきてんの。フェンリルと一緒に行ってきなよ」
開口一番に繰り出された言葉に、フェンリルは疑問をあらわにした。
「ナオミ、どんな依頼なんだ?」
「ん、それは―――――。」