第1話:合理的判断
「キョウヤ、お前はクビだ」
勇者パーティのリーダー、ゼノンが重々しく告げた。
王都の高級酒場、その一角に緊張が走る。
「え……?理由を、聞いてもいいか?」
魔力値ゼロの荷物持ち、キョウヤは震える声で問い返した。
「理由は単純だ。お前は戦えない。俺たちの足手まといなんだよ。これからは選ばれし精鋭だけで魔王を倒しに行く。分かったら――」
「待ちなさい、ゼノン」
口を挟んだのは、パーティの聖女・アリアだった。
彼女は冷めた手つきで手帳を開くと、羽ペンを走らせる。
「彼を追放した場合の損失を計算したわ。まず、私たちの荷物。あれを全部自分たちで持つとなると、移動速度は30%低下。キャンプの設営、火起こし、魔物の血抜き、装備の修繕。これらを分担すると、私たちの睡眠時間は平均2時間削られるわ」
「あと、慢性的な睡眠不足による魔法の暴発率は、統計上15%上昇。ポーションなどアイテムの仕入れ、食材の購入、調理の手間を考えるとダンジョンでの攻略時間は30%低下。彼の交渉スキルがないと経費が1.5倍に膨れ上がる計算よ」
「さらに、彼は野草の鑑定スキルが異常に高い。先週、あなたが『美味そうなキノコだ』と言って口に入れようとした毒キノコを止めたのは誰だったかしら?」
ゼノンは、ぐっと言葉を詰まらせた。
「それは……まあ、アイツだったが」
「彼を追い出した後、あなたが誤食して死亡する確率は、私の試算で80%を超えているわ。つまり、彼を追放することは、あなたの『死』を意味するの。それでもクビにする?」
ゼノンは腕を組み、3秒だけ考えた。
「……それはそうだな。今の発言は撤回する。みんなもそれでいいな?」
「……まあ、アリアの言ってることも一理あるわね」
女魔導士レティエルが神妙な面持ちで頷く。
「……確かに。キョウヤの料理食べられなくなるのも困るしな」
屈強な戦士ガルダンが、腕を組みながら大きく頷いた。
「……というわけだ、キョウヤ。明日も朝6時集合な。よろしく頼む。遅れるなよ?」
「……えっ、いいの?」
「……ああ。俺も死ぬのは嫌だからな」
ゼノンはキャラに似合わず、清々しいほど素直に頷いた。
「……あ、あと、さっきの『足手まとい』っていうのは言い過ぎた。忘れてくれ。お前、修繕うまいし。荷物の重量を減らすスキルも役立ってるしな」
「……分かった。明日もよろしく、リーダー」
こうして、史上最短で終わるはずだった追放劇は、極めて事務的な和解によって幕を閉じた。
のちにこのパーティが魔王を倒せたのは、勇者が一度も毒キノコを食べなかったからだと言われている。
—— 完 ——
ひょっとしたら、続くかもしれない——
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