第4話 女友達のひと言
その日の夜、スマホが震えた。
「明日、空いてる?」
女友達からのメッセージだった。
翌日の午後、大学近くのカフェで落ち合う。
そこは例の店じゃない。
あえて、関係のない場所を選んだ。
「なんか疲れてない?」
席に着くなり、そう言われた。
「そうかな」
否定しながら、コーヒーを混ぜる。
自分では、いつもと変わらないつもりだった。
最近の授業のこと、課題のこと、就活の話。
一通り話して、間が空いたとき、
ふと思い出したように口を開く。
「そういえばさ……」
前置きが長くなるのは、後ろめたい証拠だ。
「最近、よく行くカフェがあって」
なるべく軽く言う。
本当に、ただの雑談のつもりで。
「へえ」
女友達は興味なさそうに相づちを打つ。
「そこの店員さんがさ、ちょっと変で」
言葉を選びながら続ける。
「別に何かあるわけじゃないんだけど」
「変って?」
即座に聞き返される。
「……動きがぎこちないとか」
「静かすぎるとか」
「でも、感じ悪いわけじゃなくて」
話しながら、自分でもおかしいと思った。
どうして、こんなに説明しているんだろう。
女友達は、しばらく黙って聞いていた。
それから、ストローをくるりと回して言った。
「それさ」
一拍置いて、
「気になってるだけじゃない?」
一瞬、言葉が出なかった。
「違うよ」
反射的に否定する。
「全然そういうのじゃない」
「じゃあ、なんでそんな覚えてるの?」
間髪入れずに返される。
返事ができない。
理由を探そうとして、見つからない。
「年上でしょ」
女友達は続ける。
「たぶん、結構」
「そこも別に……」
口では否定しながら、
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「まあいいけど」
女友達は笑った。
「気をつけなよ。そういうの」
その“そういうの”が、何を指しているのか、
はっきり聞く勇気はなかった。
店を出たあと、一人で駅へ向かう。
頭の中で、さっきの言葉が何度も繰り返される。
気になってるだけ。
それだけのはずなのに。
あのカフェのドアを開ける自分を、
急に、少しだけ遠くから見ている気がした。




