第27話 引き継がれる場所
カフェのドアを開けた瞬間、
いつもと違う空気を感じた。
ざわついているわけじゃない。
忙しいわけでもない。
ただ、配置が微妙に違った。
カウンターの中に、
見知らぬ女性が立っている。
年齢は、彼より少し下だろうか。
動きは慣れていて、
それでいて、まだ探りながら働いている感じ。
彼は、その隣にいた。
教える側の立ち位置。
声を落として、説明している。
距離は、きちんと保たれている。
ああ、と思う。
これが、引き継ぎなんだ。
席に座り、様子を見る。
注文を取りに来たのは、彼じゃなかった。
「いらっしゃいませ」
女性が、少し緊張した声で言う。
それだけで、
胸の奥が、ひくりとする。
彼は、少し離れたところから見ている。
必要なときだけ、補足する。
もう、役割が変わり始めている。
コーヒーが運ばれてくる。
丁寧だけど、まだ硬い。
悪くない。
むしろ、ちゃんとしている。
なのに、
なぜか、落ち着かない。
彼と目が合う。
一瞬。
すぐに、逸らされる。
それは、距離を保つための動きだった。
わかってしまう自分が、つらい。
隣のテーブルの客が言う。
「新しい人?」
「ええ」
女性が答える。
「しばらく一緒に入ります」
“しばらく”。
その言葉が、
頭の中で何度も反響する。
帰り際、レジに立つ。
会計をするのは、女性。
彼は、その横で見ているだけ。
「ありがとうございました」
二人の声が、重なる。
外に出て、
振り返る。
ガラス越しに見える二人。
もう、完成している光景だった。
わたしは、
ちゃんと“客”だった。
それ以上でも、それ以下でもない。
わかっていたはずなのに、
胸の奥が、静かに痛んだ。
終わりは、
突然じゃない。
こうやって、
何度も見せられて、
少しずつ、
受け入れさせられるものなんだと知った。




