第26話 引いた距離
それから、少しだけ、カフェに行く頻度を減らした。
行かない、ではない。
ただ、理由を作らなくなった。
授業が長引いた日。
友達と寄り道した日。
そういう普通の選択を、普通にする。
それでも、完全に行かないわけじゃない。
それが、自分でも不思議だった。
久しぶりに入ったカフェは、変わらなかった。
同じ音。
同じ匂い。
同じ配置。
でも、彼は、すぐに気づいた。
視線が合う。
一瞬、何か言いかけて、やめたような顔。
席に座り、静かに待つ。
こちらからは、何もしない。
彼は、コーヒーを置くとき、
ほんの少しだけ、手元が遅れた。
「……お久しぶりですね」
向こうから、そう言った。
今までになかったことだ。
「そうですね」
短く答える。
それ以上、続けない。
続けないと決めていた。
彼は、何か言いたそうにしていた。
でも、言葉を選んでいる間に、
次の作業へ戻ってしまう。
距離は、きちんと保たれている。
でも、前より静かじゃない。
帰り際、レジに立つと、
彼が小さく息を吸った。
「最近……」
言いかけて、止まる。
「はい?」
促すと、
彼は視線を落とす。
「いえ」
結局、そう言って首を振った。
何も聞かなかった。
聞かないと、決めていた。
外に出ると、
胸の奥に、少しだけ空白ができる。
引いた距離は、
楽になるはずだった。
でも、なぜか、
彼のほうに何かを残してきた気がした。
それが、後ろめたさなのか、
期待なのか、
自分でも、まだわからなかった。




