第24話 選ばせない選択
次にカフェへ行くと決めたのは、迷いがなくなってからだった。
気持ちを整理してから、ではない。
整理できないままでも、
行く、と決めただけだった。
夕方前の時間。
店内は、ほどよく静かだった。
彼は、いつもの場所にいた。
視線が合う。
一瞬だけ、ためらいが見えた気がする。
席に座らず、カウンターへ向かう。
その動きに、彼が気づく。
「ご注文は」
仕事の声。
線を引いた声。
「今日は、持ち帰りで」
そう言ってから、続ける。
「……時間、ありますか」
彼の手が止まった。
ほんの一拍。
「今は」
そう言いかけて、言葉を変える。
「少しなら」
それで十分だった。
コーヒーが用意される間、
沈黙が落ちる。
でも、逃げ場のない沈黙。
「前に」
わたしから、口を開く。
「これ以上は話せないって、言いましたよね」
彼は、うなずいた。
否定しない。
「それでも」
言葉を選ぶ。
「わたしは、知ってしまいました」
彼の視線が、こちらを向く。
初めて、はっきりと。
「全部じゃないです」
先に、線を引く。
「でも、知らないまま扱われるのは、嫌です」
責める声じゃない。
でも、引かない声。
彼は、しばらく黙っていた。
カウンターの木目を見つめている。
「ここでは」
また、その言葉が出るかと思った。
でも、出なかった。
「……場所を、変えましょうか」
彼が、低く言った。
心臓が、大きく跳ねる。
それは、初めての提案だった。
「はい」
即答していた。
コーヒーを受け取り、
店を出る。
並んで歩くのは、初めてだった。
距離は、まだある。
でも、同じ方向を向いている。
選ばせない。
逃げ道も、与えない。
それでも、
強制じゃない。
この人が話すかどうかは、
この人が決める。
ただし、
わたしも、黙って受け取る側には戻らない。
それだけは、はっきりしていた。




