第2話 理由のない再訪
翌週、また同じ道を歩いていた。
意識して選んだわけじゃない。
大学から駅へ向かう途中、自然に足が向いただけ。
別のカフェも知っているし、家に直帰する選択肢だってあった。
それでも、ドアを押して中に入る。
前と同じような時間帯。
同じ木の匂いと、少しだけ苦い空気。
無意識に窓際を探して、空いているのを見つけてから、少し安心した。
「同じのでいいか」と、自分に言い訳をして注文する。
カウンターの向こうに、彼はいた。
エプロン姿も、落ち着いた表情も、前と変わらない。
ただ、今日は少しだけ動きが早い気がした。
視線が合う前に、目を逸らす。
なぜか、昨日より緊張している自分に気づく。
カップを運んできた彼は、前回と同じように、ほんの一瞬だけ間を置いた。
置き方は丁寧だけど、完璧ではない。
それが逆に、人っぽく見えた。
「ありがとうございます」
そう言うと、彼は軽くうなずいた。
言葉はそれだけだった。
ノートを開いて、ペンを持つ。
文字を書いているはずなのに、内容が頭に入ってこない。
さっきから、視線を感じる気がする。
気のせいだと思って顔を上げると、彼は別の客に対応していた。
自意識過剰だ。
そう思いながら、胸の奥が少し落ち着かない。
ここに来た理由を、はっきりさせようとする。
静かだから。
コーヒーが好みだから。
家より集中できるから。
どれも間違っていない。
でも、どれも決定打じゃない。
帰るころ、ふとカウンターを見ると、彼がこちらを見ていた。
目が合って、今度はすぐに逸らされなかった。
ほんの一秒。
それだけだったのに、なぜか長く感じた。
外に出ると、風が少し冷たかった。
歩きながら考える。
また来るかもしれない。
でも、それは偶然だ。
理由のない再訪を、
まだ、特別なことだとは思わないことにした。




