第18話 見えてしまった距離
その日は、たまたまだった。
大学の知り合いに、駅前で声をかけられた。
同じ学部の先輩で、就活の相談に乗ってくれた人だ。
「このあと、少し時間ある?」
そう言われて、
流れで一緒にカフェに入ることになった。
あのカフェだった。
少しだけ迷ったけれど、
断る理由も見つからなかった。
特別なことじゃない。
ただの知り合い。
そう思うことにした。
ドアを開けると、
彼が、いつもの場所にいた。
一瞬、目が合う。
でも、すぐに視線を外される。
それが、なぜか胸に残った。
二人で席につき、先輩が話し始める。
業界のこと。
インターンのこと。
ありがたい話。
うなずきながら、相づちを打ちながら、
意識はどうしても、カウンターのほうへ向かう。
彼は忙しそうだった。
でも、時々こちらを見るのがわかった。
先輩が笑う。
それにつられて、こちらも笑う。
声が少し大きくなったかもしれない。
その瞬間、
彼の手が、ほんの一瞬止まった。
気のせいだと思う。
でも、目は、こちらを見ていなかった。
コーヒーを運んできたのは、別の店員だった。
それだけで、なぜか胸がざわつく。
先輩は楽しそうに話し続ける。
将来のこと。
期待の言葉。
その合間に、
彼の背中が見える。
いつもより、少し遠い。
帰るころ、
先輩がレジに向かう。
支払いを済ませて戻ってくるまでの短い間、
カウンターの奥と、目が合った。
彼は、何も言わなかった。
ただ、軽く会釈をしただけ。
その距離が、
はっきりと「店員と客」だった。
外に出て、先輩と別れる。
一人になると、
急に、胸の奥が静かになる。
誰かと一緒にいる自分を、
見られてしまった。
それだけのことなのに、
なぜか、取り返しのつかないことをした気がした。
違う。
何もしていない。
でも、
何もしなかったからこそ、
はっきり見えてしまった。
この人とは、
こういう距離なんだ、ということを。




