第15話 それは惹かれるやつ
その日の夜、女友達に会った。
場所は、駅前の小さな居酒屋。
就活の愚痴を言い合うには、ちょうどいい騒がしさだった。
最初は他愛のない話をしていた。
説明会の空気が重いとか、
エントリーシートが通らないとか。
一杯目が半分ほど減ったころ、
ふと思い出したように口を開く。
「今日、あのカフェでさ」
前置きは、もういらなかった。
雨の日のこと。
年配の女性のこと。
彼の対応の仕方。
話しながら、映像が鮮明によみがえる。
落ち着いた声。
迷いのない動き。
女友達は、黙って聞いていた。
相づちも打たず、ただ、こちらを見る。
話し終えたあと、
グラスを置いて、はっきり言った。
「それ、惹かれるやつだよ」
即答だった。
「違うって」
反射的に否定する。
「尊敬とか、そういう……」
「尊敬から入るやつ、いちばん厄介」
あっさり切られる。
言葉に詰まる。
「だってさ」
女友達は続ける。
「あんた、今までそんな話、誰にもしなかったでしょ」
確かに、そうだった。
「年上とか、立場とか、関係なくて」
少しだけ声を落とす。
「“人として”見ちゃったんだよ」
胸の奥が、きゅっとなる。
「それで?」
と聞かれて、答えに困る。
「どうしたいか、じゃなくて」
女友達は少し真剣な顔になる。
「どうなったら、いちばん困るか、考えな」
その言葉が、重かった。
困る未来。
終わりがある関係。
踏み込んでしまったあと。
帰り道、一人で歩きながら考える。
困るのは、
気持ちを無視し続けることなのか。
それとも、
気づいてしまうことなのか。
答えは出ない。
ただ、
今日の彼の横顔を思い出すたび、
胸の奥が、静かに熱を持っていた。




