表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叶わぬ恋〜女子大生に恋したおじさんに、恋の神さまのちょっとしたいたずら〜  作者: ふぁい(phi)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/32

第14話 予定外の出来事

その日は、雨が降っていた。


強くはないけれど、止みそうにもない雨。

だからか、カフェはいつもより少し混んでいた。


席を見つけるのに時間がかかり、

結局、カウンターに近いテーブルに座る。

ここに座るのは、初めてだった。


彼は忙しそうだった。

注文が続き、動きも早い。

それでも、雑にならないのが不思議だった。


しばらくして、店内がざわつく。

入り口付近で、年配の女性が立ち尽くしていた。


「すみません……」

小さな声で、何かを言っている。


彼がすぐに気づいて、カウンターを出た。

低く、落ち着いた声で話しかける。


「どうされました?」


女性は、足元を指さした。

どうやら、雨で床が滑って、

軽く転びそうになったらしい。


「大丈夫ですか」

彼は自然に腕を差し出した。


その動きが、とても迷いなくて、

慣れているように見えた。


椅子に座らせ、タオルを持ってきて、

周囲にも静かに声をかける。

一連の流れが、無駄なく進む。


店内の空気が、少し落ち着いた。


「ありがとうございます」

女性は何度も頭を下げていた。


彼は、照れたように首を振る。

「いえ」


その横顔を、思わず見てしまう。

いつもの“店員さん”の顔じゃない。


落ち着いていて、

判断が早くて、

人との距離の取り方が、自然だった。


しばらくして、彼がこちらに気づいた。

視線が合う。


ほんの一瞬。

でも、今日は逸らされなかった。


「お待たせしました」

コーヒーを置きながら、そう言う。


「……さっき、すごかったですね」

思わず口に出ていた。


言ってから、しまったと思う。

余計なことを言ったかもしれない。


でも、彼は少し驚いた顔をしてから、

小さく笑った。


「たまたまですよ」


その答えは、いつも通り控えめだった。

でも、目は正直だった。


「慣れてる感じ、しました」

そう続けると、

彼は一瞬、言葉を探すように視線を落とす。


「……前に、そういうことが多かっただけです」


それ以上は、言わなかった。

でも、隠すというより、

線を引いているように見えた。


たった数分の出来事。

それなのに、

彼の輪郭が、少しだけはっきりした気がする。


帰るころ、雨は弱まっていた。

ドアの前で、振り返る。


彼は、もう次の仕事に戻っている。

さっきのことが、なかったかのように。


でも、

あの落ち着いた横顔だけが、

頭から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ