第12話 噛み合わない会話
カフェに来る頻度は、結局それほど減らなかった。
意識して間を空けても、
気づけば同じドアを押している。
もう、それを否定するのはやめていた。
その日は、夕方前で店内が静かだった。
彼はカウンターの奥で、一人分のコーヒーを淹れている。
窓際の席に座り、スマホを眺める。
就活サイトからの通知が、いくつも並んでいた。
ため息をついたとき、
カップが目の前に置かれた。
「就活、ですか?」
不意にそう言われて、驚く。
スマホの画面を見られていたらしい。
「まあ……」
少し迷ってから答える。
「そろそろ本格的に」
「大変ですよね」
彼はそう言った。
でも、その声に、同情の色はあまりなかった。
「行きたい会社とか、もう決まってるんですか」
一瞬、言葉に詰まる。
店員さんとの会話としては、
少し踏み込んでいる気がした。
「なんとなく、ですけど」
企業名をいくつか挙げる。
誰でも知っている、一流と呼ばれるところ。
彼はうなずいた。
でも、反応が薄い。
「人気ありますよね」
そう言ったきり、言葉が続かない。
普通なら、
「すごいですね」とか、
「倍率高そうですね」とか、
そういう言葉が返ってきそうなのに。
「……詳しいですね」
思わず言ってしまう。
「いえ」
彼はすぐに否定した。
「ただ、よく聞く名前なので」
その答えが、
なぜか、しっくりこなかった。
少し間が空く。
彼は、次の客が来たわけでもないのに、
カウンターの奥へ下がった。
噛み合わない。
そう感じる。
知っているのに、知らないふりをしているような。
詳しいのに、触れないようにしているような。
考えすぎだと思う。
相手は、ただのアルバイト店員さんだ。
でも、
さっきの一瞬の間と、
言葉を選んだような沈黙が、
頭から離れなかった。
帰り際、
「頑張ってください」
そう言われた。
応援の言葉のはずなのに、
なぜか重く聞こえる。
外に出てから、
胸の奥に、小さな疑問が残った。
この人は、
本当に、ここにいる人なんだろうか。




