ハロウィンの仮装で女装するためにクラスの女子に化粧を教えて貰ったら、その子のすっぴんを目撃してしまった
「西園寺!またそんなに化粧して!」
「サーセン」
「何度言ったら止めてくれるんだ。お前のせいでこのクラスの女子は校則違反だらけじゃないか……」
「ドンマイ」
「はぁ……放課後生徒指導室な」
「ウィーッス」
「お前さぁ。あの万場先生相手に何度もマンツーマンで指導受けて良く平気だよな」
「メイクは女の命ッスから。あんなのなんともないッス」
「そのメンタルだけは賞賛するわ」
何を言っても心に響かない生徒、西園寺に対して担任教師はこれ以上何かを言うのを諦めたようだ。
肩を落として連絡事項を伝え、朝のホームルームは終わりを迎えた。
「ねぇねぇ西園寺さん、これ気になってるんだけど使ったことある?」
「西園寺さんにオススメされたやつ使ってみたんだけどどうかな?」
「今日も超可愛い。どうしたらそんなに上手にメイク出来るんだろう」
すぐに最初の授業が始まると言うのに西園寺の席には女子が殺到し、メイクの話で盛り上がる。それだけ西園寺のメイク技術は卓越していて、同じ女子高生として尊敬されているのだろう。
「待って待って。一斉に話されても困るから順番ね」
西園寺は大好きなメイクの話をすることが楽しいため、喜んで相談に乗っていた。
朝、小休憩、昼、放課後。
授業中以外一日中メイクの話題で話し続ける高校生活を西園寺は堪能していた。
そんなある日のこと。
「悪い。ちょっと通してくれないか」
「何よ……げ!」
女子の人だかりの中をかき分ける勇敢な男子生徒が一人。最初女子は不快な顔で追い返そうと思ったのだが、その人物が誰なのか気付いてむしろ自分から道を開けた。
「おお!悪いな!」
男子生徒は開かれた道を通り、西園寺の元へと辿り着いた。
「西園寺!話をしてるところ悪い!俺の頼みを聞いてくれないか!」
「はぁ?」
強引に話に割って入ってのぶしつけなお願いに、西園寺は嫌悪感を隠さずに眉を顰めた。他の女子は少し怯えている様子だが、西園寺はそうではなさそうだ。むしろメイク話を中断させられたことで不快感を得ているように見える。
「俺に化粧を教えてくれ!」
その瞬間、その男子に怯えていた女子達が硬直した。
西園寺からも不機嫌さが消えて困惑している様子だが、すぐにまた不機嫌さが復活した。
「どうして私が郷田君にメイクを教えなければならないのよ」
明らかに乗り気ではない声色。
「(どうせメイクの話題を使って女子と話をしたいってだけなんでしょ。マジムカツク)」
郷田の本当の目的はメイクそのものではなく、女子と仲良くなるための話題作りだと西園寺は考えた。大好きなメイクを、男女関係を進展させるための道具として使おうとしている。そのことが西園寺には許せず、不機嫌になってしまったのだ。
「そんなの西園寺の化粧が超上手いからに決まってるだろ!」
「…………そ、そう、ありがとう」
だが素直に褒められると、それはそれで嬉しくなってしまう西園寺であった。
「でもダメ。郷田君ってそもそも普段から何も肌の手入れとかしてないでしょ。相談に乗るならせめて自分で考えて試してからやりなさい」
そうして本気でメイクに興味を抱いたのであればアドバイスしてあげても良い。そう言って郷田を追い返そうとしたのだが。
「西園寺の言う通りだ!俺もそう思う!だが時間が無いんだ!」
「時間?」
もしかしたら自分は何か勘違いをしているのではないかと西園寺は気が付いた。単に会話のツールとしてメイクを使おうとしているのであれば制限時間なんてあるはずがない。何かしらの理由があってお願いして来たのではないだろうか。
「どういうこと? 詳しく説明して頂戴」
「分かった!説明する!」
「さっきから煩いのよ。普通に話して」
「おう!分かった!」
「分かってないじゃない」
郷田は明るい体育教師のような雰囲気の男子で、体が大きく、顔がいかつく、いつも声が大きくて威圧感がある。最初に女子が怯えてしまったのはそれが理由だった。
「もうすぐハロウィンがあるだろ。俺は毎年仮装をして子供会の手伝いをしてるんだ」
「話が読めたわ。その仮装でメイクをしたいってことね」
「そういうことだ!流石西園寺、頭も良いな!」
「別に誰でも分かることでしょ。それより、メイクなんてしなくも十分そのままで仮装できそうなのあるじゃない」
服装を変えるだけで通じるぴったりの仮装が西園寺の脳裏にすぐに思い浮かんだ。
「フランケンシュタインだろ。去年まではそれにしてた」
「なら今年もそれにすれば?」
「だが俺のフランケンシュタインって子供達にとっては怖いらしく、毎年何人もギャン泣きさせてしまうんだ」
「ぷっ!」
泣かれておろおろする郷田フランケンシュタインの様子を想像してツボに入ってしまったのか、西園寺は思わず笑って噴き出してしまった。
「そこでだ! 今年は別の仮装をしようと考えたんだ!」
「別の?」
「女ヴァンパイアだ」
「は?」
「こんないかつい顔でも、全力で女装したら子供達も笑ってくれると思うんだ!」
「ぷっ!あははは!なにそれ、郷田君が女装でヴァンパイア!? マジウケルんだけど!」
「そうそれ!その反応を期待してるんだよ!」
周囲の女子達からも笑いが漏れている。しかし郷田は気にする様子はなく、むしろ自分の考えが正しかったのではと自信を深めていた。
「(そもそも郷田君は小賢しい真似するタイプじゃなかったわね。疑って悪いことしちゃった。それに面白そうだし、協力してあげても良いかな)」
西園寺の中では郷田に対する悪印象は消えていた。むしろ強面なのに子供を楽しませようとしていることに好印象を抱いたのだが、本人はその気持ちに気付いていなかった。
「分かったわ。協力してあげる」
「本当か!ありがとう西園寺!」
「ちょっ!顔が近い!」
「わはは!すまんすまん!」
至近距離で感謝を告げられ、動揺する西園寺。郷田はそのことに全く気付かず豪快に笑うだけだった。
ーーーーーーーー
「わはは!まさか西園寺と同じマンションだったとはな!」
子供会当日。
郷田はメイクをしてもらうために、西園寺の家にお邪魔していた。
「君が郷田君かね」
「西園寺のお父さんですか!お邪魔してます!」
「う、うむ」
「ちょっとお父さん邪魔」
「うぐっ!」
娘が男を家に連れて来た。
となれば気にならない筈が無いため声をかけたら娘に邪魔者扱いされてしまった。
悲し気に退散する父親だが、郷田が彼氏という雰囲気ではなかったことに内心ほっとしていた。
「はい、そこ座って」
「おう。でも悪いな。西園寺が直々に化粧してくれるなんてさ」
「どうせやるなら本気でやらないと」
メイクに拘りがあるからこそ、中途半端なアドバイスなどしたくなかった。かといって郷田の家に行ってメイクするなどありえず、自分の家に呼び寄せてメイクすることに決めたのだった。
「言われた通りにやった?」
「もちろんだぜ。毎日欠かさず指示通りにやったぞ」
「…………そのようね」
これまで肌の手入れを全くしてこなかった郷田の肌にいきなりメイクをしても上手くのらないと考えた西園寺は、今日までの間に最低限の保湿などをするよう指示したのだ。その結果、脂ぎっていた肌は多少マシになっていた。
「それじゃ始めるから」
「メイク中はお口チャックしてね」
「…………西園寺、この人は?」
「お母さん」
指示された場所に座っていたら、見ず知らずの若い女性がやってきた。
「お邪魔してます。もしかして西園寺のお母さんも手伝ってくれるんですか?」
「娘に頼まれたからね」
「お母さんは私よりもメイク上手だから」
「確かに凄いな。西園寺が綺麗なのはお母さん譲りだったのか」
「な!?」
ここ数日郷田と接したことで、郷田がまっすぐな性格であることを西園寺は理解していた。つまり今の台詞も、好感度を上げようとして褒めたという意図はなく、心から思ったことを素直に口にしただけである。
綺麗というのはメイクの腕を褒められたのか、それとも西園寺そのものを褒めたのか。
どちらなのかは分からないが、どちらにしろ西園寺にとっては嬉しい言葉でしかなく、突然の高評価に動揺を隠せない。
そんな娘の反応が西園寺母にとっては微笑ましかったようだ。
「くすくす、郷田君って天然なのね」
「良く言われます!」
「だから厄介なのよね……」
「どういう意味だ?」
「分からなくて良い。さぁ、始めるわよ」
「くすくす」
照れ隠しで強引に話を終わらせメイクを開始した西園寺。
母親と相談しながら、じっくりと郷田の顔を彩らせる。
一時間後。
「あはははは!い~っひっひっひっ、だ、だめ、これダメっ! 超ウケルんだけど!」
腹を抱えて笑う西園寺。
その隣では西園寺母も声を殺して笑っていた。
二人の前に立つのは、女ヴァンパイアの女装が完成した郷田の姿。衣装に着替えて最終チェック中。
「おおおお、これなら子供達も笑ってくれそうだ!」
「ぶははは!回転するなって!腹いてぇ!」
全身鏡を見ながらくるっとしてみたら西園寺が床を叩きながら笑い転げてしまった。郷田もその反応を見て満足げだ。
「てっきり美人にしてくれるかと思ったんだが、こっちの方が断然ありだな」
「くくくく、ご、郷田君の場合は美人にしたら結局怖くなりそうだったから、面白さに極振りしてみたのよ」
「大正解だな!」
「ちょっ、その姿でこっち見ないで!ぷはっ!」
いくら女装しようが、身体が大きくて顔がいかつい点はどうしようもない。もしも普通に美人になるようにメイクしてしまったら、身体とのアンマッチさのせいで不気味な雰囲気になってしまい、結局子供達を怖がらせてしまう。そのため敢えて崩したメイクにして笑いを取る方向に舵を切ったのだ。
「マジでありがとうな西園寺。早速子供会に行ってくる!」
「待って、その格好で外に出るつもり?」
「おっとそうだった。だがせっかく仮装したのに元に戻すのは面倒だな」
「ならお父さんにお願いして車で連れていってもらいなよ」
「良いのか?」
「うん」
父親に確認もせずに勝手に決めてしまった西園寺。悲しいことにこの家庭では父親に発言権は無いのかもしれない。
「ならお言葉に甘えて。それとこれ、お礼だ」
「え?」
郷田は小さな手提げ袋を西園寺に手渡した。
「マジで感謝してる。それとは別に今日使った化粧の代金も払うから、後で言ってくれよな」
「そんなに気にしなくて良いのに。こっちも楽しませてもらったし」
「そういうわけにはいかないだろ」
「ふ~ん、案外律儀なんだね」
「何かしてもらったらお礼はちゃんとしろってお袋に言われてるからな!」
ただの勢いだけの脳筋というイメージが強かった郷田がちゃんと相手に気を使えることに意外さを感じながら、西園寺はお礼の品を確認した。
「え!? これって!」
その中に入っていたのは、西園寺がずっと欲しいと思っていたリップだった。
「何でこれを選んだの!?」
「何でって、これが欲しいって教室で話してたから」
盗み聞きになってしまうが、西園寺の席の付近は姦しいため聞かれていても変な話では無い。むしろ聞くつもりが無くても耳に入ってしまう状況であるため、そこに嫌悪感は抱かなかった。
問題は別にある。
「でもこれってマジで手に入らないやつだよ。どうやって手に入れたの?」
「自転車で化粧品売ってるところ探し回ったら、隣の県で見つけた」
「自転車で!? 隣の県!?」
「わはは!行動力だけが俺のとりえだからな!」
「そ、そういう問題?」
お礼の品を見つけるために自転車で走り回った。しかも隣の県まで。
普通そこまでやるだろうか。
「それに良く化粧品売り場に入れたよね。男子は入り辛くない?」
「それが一番の懸念事項だったんだが、いざ入ってみたら全く問題無かったぞ」
「え?」
「売り場の人に、クラスメイトにお礼がしたいって言ったら何故か滅茶苦茶親切に教えてくれたからな!」
「なるほど」
高校生の男子が、クラスメイトの女子にお礼でコスメをプレゼントする。
コスメ売り場の店員にとって、微笑ましい光景にしか映らなかったのだろう。
「サンキュ。超嬉しい」
「おいおい。お礼をしてるのはこっちなんだぞ」
「そんだけ欲しかった物なの。これ以上言わせないで」
「おう。喜んでもらえたらならいっか」
その喜びは、果たしてレアな商品をゲットしたことによるものだけだろうか。
お礼のために相手が欲しい物を必死で探し回る誠実さ。
それが西園寺の心に響いていることを、本人も気付いていなかった。
「ふふふ」
尤も、隣で二人の会話を聞いていた母親は何かを察した様子だが。
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「はぁ~面白かった」
湯船に浸かり、今日のことを思い出す西園寺。
「だ、だめ、やっぱり笑っちゃう……ぷっ……」
奇妙な女装になってしまった郷田の姿を思い出すたびに笑いが止まらない。
「どうしよう。月曜に郷田に会ったら絶対笑っちゃう」
となるとクラスメイトに怪訝な目で見られてしまうが、その対策はばっちりだ。
女装した郷田の姿を写真と動画に収めてあるため、それを見せれば笑ってしまう理由など明らかだからだ。
「はぁ……出よ」
どうにか気持ちを落ち着かせた西園寺はお風呂から出ることにした。
体を拭き、着替え、髪を乾かし、肌の保湿をする。
たっぷりと時間をかけて脱衣所を後にした西園寺は、玄関の方で話し声がすることに気が付いた。
「こんな時間に誰か来たの?」
すでに時刻は二十一時を回っている。
こんな時間に来客があったことなど、西園寺の記憶の中には無かった。
「誰だろ」
気になるけれど、顔を出す訳には行かない。
何しろ今は風呂上がりのすっぴん状態。
絶対に見られたくない姿なのだ。
だがそれでも好奇心を抑えられなかった西園寺はバレないように物陰からこっそりと玄関を覗くことにした。
「郷田君?」
玄関で母親と話をしていたのは、女装から私服に戻った郷田だった。
「ヤバ」
すっぴん状態は誰にも見られたくないが、一番見られたくないのはクラスメイトだ。
慌てて顔を引っ込めようとするが遅かった。
「西園寺! 今日はサンキュな! 子供達が大喜びしてくれて超助かったぜ!」
「!?」
なんと郷田は西園寺の姿を捉えてしまっていたのだ。
「それと俺の荷物に化粧道具が混ざってたから返しに来た! こんな時間だから迷ったけど、明日使うかもしれないと思ったからな!」
西園寺の失敗は、郷田と連絡先を交換しなかったこと。
男子と交換するだなど色々と疑われて面倒なことになるかもと思いやらなかったのだが、もしも交換していれば郷田からコスメ道具を返しに行って良いか事前確認の連絡があったはずなのだ。
「見ら……れた……」
あまりのショックで西園寺はその場にへなへなとへたり込む。
すっぴんを見られたことがあまりにも恥ずかしく、両手で顔を覆ってその場から動けない。
「あれ、西園寺?」
玄関からは郷田の声が聞こえてくるが、出られる訳が無い。
その理由を母親が察したのかフォローしてくれた。
「ふふ、娘は出られる状態じゃないみたい。私が渡しておきます」
「ありがとうございます!じゃあな!西園寺!」
相変わらず郷田はうるさいくらいの大声で、西園寺の異変に気付くことなく帰った。
「うううう」
西園寺はしばらくの間動くことが出来なかった。
ーーーーーーーー
「郷田君」
「西園寺?」
月曜日の朝、郷田がマンションから出ようとしたら、西園寺が待っていた。
「ちょっとこっち来て」
「え?」
西園寺は郷田をマンションの裏手に連れていく。
「土曜日のことは絶対に言っちゃだめだからね!」
「土曜日のことってどれだ?」
郷田にとって多くの特別なことがあったので、ふんわりと言われても何のことか分からなかった。
「私のすっぴんを見たことよ!」
「え?」
「…………見た、よね?」
郷田が呆けたので、実は見られてなかったのかと期待する西園寺。
「見たぞ。はっきり見た」
「うううう」
しかし残念ながら期待は打ち砕かれた。
では何故郷田は先ほど呆けてしまったのだろうか。
「でも言うなって言われても、何を言っちゃダメなんだ? 見たことか?」
「そんなの私のすっぴんがどんなだったかに決まってるじゃない!」
「そんなこと普通は誰にも言わないだろ」
「え?」
男子は遠慮なくそういう見た目の話をするものだと思っていた。
例えば恋愛の話をしている時に『西園寺は化粧が派手ですっぴんは不細工だ』なんて言うのではないか。男子とはそういう生き物なのだと思い込んでいた。
しかし郷田はそもそも誰かに女子のすっぴんについて話をすることなどあり得ないと思っていた。それこそ言うなと言われても当然のことすぎて呆けてしまうくらいに。
「な、なら良いの」
短い間だったが、郷田の誠実さを西園寺は理解していた。ゆえに郷田の言葉に少し救われた。
だが郷田にすっぴんを見られた恥ずかしさが消える訳ではない。
「それで、その、郷田君はどう思った?」
「何がだ?」
「私のすっぴん」
「どうって言われても、化粧してない西園寺だなとしか」
「…………気持ち悪いって思わなかった?」
「意味が分からないんだが」
郷田の反応は西園寺の気持ちを慮っているような感じではなく、心底不思議そうにしているものだった。気持ち悪く思われなかったことで更に少しだけ安心した西園寺だが、同時に納得できない気持ちも生まれた。
「だって私って眉をかなり剃っちゃってるからすっぴんだと綺麗じゃないし……」
「そりゃあ化粧してる時と比べたらしょうがないだろ。綺麗になるために化粧してるだろうし、すっぴんの方が綺麗だったら変じゃん」
もちろんそれはメイクの種類にもよるし、個人の感性にもよるところが大きいだろう。
だが西園寺のメイクは男子が苦手としそうなギャルっぽいものではあったが、郷田にとっては十分に綺麗と感じられるものであった。
「郷田君って遠慮なく綺麗って言うよね」
「綺麗なんだからちゃんと褒めるべきだろ」
「で、でも男子ってメイクが濃い女子って苦手って言うじゃん」
「そうか? 俺は西園寺の化粧はすっげえ綺麗で凄い美人だと思うけどな」
「な!?」
またしてもドストレートな誉め言葉に、西園寺の頬に赤みがさしてしまった。
「私のメイク男子受け狙ってないよ!?」
「そうなのか? 俺は綺麗だと思うけどな」
「うう……郷田君じゃなかったら適当だと思うのに……」
「??」
思ったことを素直に表現する郷田だからこそ、西園寺のことを綺麗に思っているのは本心なのだろう。それが分かってしまうからこそ、西園寺はどうしても照れて恥ずかしくなってしまう。
「(まさか男子にメイクを褒められて嬉しいなんて思う日が来るなんて)」
すっぴんを見られた時は死にたい気分だった。
だが郷田はそのことを誰にも言うつもりはなく、お世辞で褒めることもなく、自分が一番褒めて欲しいメイクした姿を絶賛してくれた。
ふと、郷田から貰ったリップのことを思い出した。
お礼のためにと必死で探し回ってくれた郷田の姿を思い描く。
「西園寺どうした!? 顔が赤いぞ!? 風邪か!?」
慌てる郷田の姿を見ながら、西園寺は自分の気持ちに気が付いた。
「(男子と付き合う気は無かったけど、我慢できない)」
西園寺は顔を赤くしたまま郷田に告げる。
「ねぇ郷田君。私と付き合わない?」
「え!?」
「あはは、郷田君も顔が真っ赤じゃん。そんな表情もするんだね」
「だってそんなこと言われたらなるだろ!」
いつも豪快で力強い郷田が、照れてあたふたしている。
平気で相手のことを綺麗だ綺麗だと連呼するくせに、逆に想いをぶつけられたら弱いようだ。
「なんでいきなりそんなことを言い出したんだ!?」
「私じゃ嫌?」
「嫌じゃない!超嬉しい!」
「あ……そ、そう」
しかし西園寺もまた、カウンターを喰らって更に照れてしまった。
「むしろ俺の方がふさわしくないと思う。こんながさつな男が西園寺みたいな綺麗な人と付き合うだなんて美女と野獣じゃないかって」
「郷田君ってパッと見は野獣っぽいけど、実際はかなり繊細で気遣いが出来る人に見えるよ」
「そ、そうなのか?」
「そうなの。それにね」
「それに?」
「女子が一番喜ぶことって何だと思う?」
「…………綺麗とか可愛いって言って貰えること?」
「それも嬉しいけど、惜しい」
西園寺は照れる気持ちを必死に抑え、人差し指を顎に添えて全力で可愛らしいポーズを演じてみた。
「自分の気持ちに共感してくれることだよ」
それはつまり簡単に言い換えるとこういうことになる。
「これからよろしくね、理解ある彼ピ」
西園寺パパ「彼氏じゃなくて良かった~」




