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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第八十四話:世界への招待状

レオナルド・デ・ロッシと名乗る青年の来訪は、穏やかだった街に、金の波紋を広げる最初の投石となった。

翌日、彼は円卓会議の議場へと正式に招かれた。ドルフさんは、不機嫌を隠そうともせず議長席に座り、ケイレブ様がその背後を固める。商人代表たちは、期待と警戒が入り混じった、落ち着かない様子で席に着いていた。


レオは、数人の理知的な側近だけを伴い、まるで自分の庭を散策するかのように悠然と議場に入ってきた。その手には、奇妙な黒い箱が一つ。

「本日は、このような場を設けていただき、心より感謝いたします、ドルフ議長」

レオの言葉は、完璧な礼節を伴っていた。だが、その瞳の奥には、相手を値踏みするような、冷たい光が宿っているのを、ドルフさんは見逃さなかった。


「単刀直入に申し上げましょう」

レオはそう切り出すと、テーブルの中央に、その黒い箱を置いた。

「我々『四海通商連合』は、あなた方の街が持つ、素晴らしい文化……すなわち、『聖女ラーメン』という比類なきブランドに、最大限の敬意を抱いております。あの一杯は、もはやこの街、この王国だけのものであってはならない。世界が、その味を待っているのです」


彼は、ゆっくりと黒い箱の蓋を開けた。中から取り出したのは、磨き上げられた水晶玉。だが、それは占い師が使うようなものではなく、もっと無機質で、計算され尽くした魔道具だった。

レオが水晶に魔力を込めると、その表面から柔らかな光が放たれ、議場の壁に、誰も見たことのない幻影を映し出した。


そこに映し出されたのは、王都の街並みだった。だが、その一等地に、見慣れた『聖女の厨房』の暖簾を、より洗練させたデザインにした『SEIJO RAMEN』という看板の店が建っている。店の前には、きらびやかな服を着た貴族たちが、行列を作っていた。

幻影は、次々と切り替わる。

海の向こうの、砂漠の国のオアシス都市。雪に覆われた、北の国の城塞都市。その全てに、『SEIJO RAMEN』の店舗が建ち、肌の色も、服装も違う、世界中の人々が、幸せそうにラーメンをすすっている。


「これは……」

商人代表の一人が、ゴクリと喉を鳴らした。

「我々の資本と、蒸気船による世界規模の輸送網、そして最新のマーケティング戦略。それらと、あなた方の素晴らしい『製品プロダクト』が組み合わされば、このような未来は、容易に実現可能です」

レオの声は、甘い蜜のように、代表者たちの耳に染み込んでいく。

「あなた方の街は、ただの美食都市ではない。世界的な一大ブランドの発信地となるのです。富は、今の何百倍にもなるでしょう。名声は、大陸の果てまで轟くことになる。私たちは、そのための『招待状』を、携えてきたのです」


それは、あまりにも魅力的で、抗いがたい提案だった。商人たちの目は、幻影に映し出される金貨の山に釘付けになり、市民代表でさえ、世界中の人々が自分たちの文化を享受する姿に、胸を高鳴らせている。

ただ一人、ドルフさんだけが、冷めた目でその光景を見ていた。

「……うまい話には、裏があるもんだ」

ドルフさんの低い声に、レオは笑みを崩さずに頷いた。

「もちろん、これは慈善事業ではありません。ビジネスです。我々は、そのブランド展開における、全世界での独占的なパートナーシップ契約を、求めます」


彼は、懐から、美しく装丁された一冊の契約書を取り出し、テーブルの上に滑らせた。

「これは、まだ草案です。内容は、これからあなた方と、誠実に対話を重ねて、決めていきたい。我々は、奪う者ではない。共に、未来を創る者です」

その言葉は、どこまでも紳士的だった。だが、その裏には「この招待状を受け取るか、それとも時代の流れに取り残されるか」という、無言の圧力が確かに存在していた。


会議が終わった後も、議場は興奮の余韻に包まれていた。

「議長!これは、またとない好機ですぞ!」

「そうだ!我々のラーメンが、世界に……!」

浮き足立つ代表者たちを、ドルフさんは「頭を冷やせ!」と一喝し、解散させた。


一人残った会議室で、ドルフさんは、テーブルの上に置かれた契約書を、苦々しい顔で睨みつけた。

グランヴィル侯爵の脅迫は、分かりやすかった。だが、このレオという男のやり方は、違う。

それは、黄金でできた、美しい鎖。人々が、自らの意思で、喜んでその首にはめてしまうような、あまりにも巧妙で、そして危険な罠だった。

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