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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第八十三話:海からの来訪者

「静かなる飢餓」が去り、世界に再び彩りが戻ってから、数年の歳月が流れた。

私たちの街は、奇跡的な再生を遂げた聖地として、また王国随一の美食都市として、黄金期とも呼べるほどの繁栄を謳歌していた。街の港は、大陸中から訪れる大小様々な帆船で、一日中活気に満ちている。


「ドルフ議長!東からの香辛料、今回は最高級品が手に入りましたぜ!これも全て、聖女様のラーメンのおかげだ!」

港で荷揚げの指揮を執っていたドルフさんは、満面の笑みで報告に来た商人組合の長に、豪快に笑い返した。

「おう!だが、浮かれてばかりもいられん。その分、街の警備も、交易路の管理も、俺たちの仕事は山積みだ!」

ドルフさんの言葉には、嬉しい悲鳴がこもっていた。円卓会議は多忙を極めていたが、その忙しさこそが、この街の平和と繁栄の証だった。


誰もが、この温かく、賑やかな日常が永遠に続くと信じていた。

その日、水平線の向こうに、異様な影が現れるまでは。


最初に気づいたのは、見張り台に立っていた若い騎士だった。

「……なんだ、あれは?」

帆がない。それなのに、沖からこちらへ、驚異的な速さで近づいてくる、巨大な黒い影。それは、彼らが知るどんな船とも似ていなかった。

やがて、その船が港に近づくにつれ、街の誰もがその異様さに気づき、作業の手を止めて息をのんだ。


それは、鉄の船だった。

木造船が主流のこの世界において、あまりにも異質な、黒い鉄の塊。帆の代わりに、船体の両脇についた巨大な水車(外輪)が、轟音と共に水をかき、船首の煙突からは、黒い煙が黙々と吐き出されていた。それは、魔法の力とは全く違う、無機質で、冷徹で、そして圧倒的な「力」の象徴のように見えた。


港は、水を打ったように静まり返る。人々は、畏怖と好奇心が入り混じった目で、その黒い巨船を見つめていた。やがて、船がゆっくりと桟橋に接岸すると、寸分の狂いもない動きで、舷門げんもんが開かれた。


降りてきたのは、武装した兵士ではなかった。

寸分の乱れもなく仕立てられた揃いの制服に身を包んだ、商人とも学者ともつかぬ、理知的な顔つきの一団。そして、その中心にいたのは、一人の青年だった。


歳は二十代半ばだろうか。海の向こうの異国を思わせる、洒落たデザインの装束を身にまとい、その顔には、人の心を惹きつけてやまない、計算され尽くした笑みが浮かんでいた。その瞳の奥には、若さに似合わぬ、全てを見透かすような深い知性が宿っている。

「これはこれは、賑やかな港ですな」

青年は、ドルフさんの前に立つと、優雅に、しかし一切の隙も見せずに一礼した。

「私は、レオナルド・デ・ロッシ。海の向こうの商業国家、『四海通商連合』を束ねる者です。本日は、この偉大なる美食の都と、その奇跡を生んだ聖女様に、ご挨拶に伺いました」


その滑らかな口調と、堂々たる態度に、ドルフさんは一瞬、言葉を失った。目の前の青年が放つオーラは、かつて対峙した王国の侯爵とも、好敵手であったジロとも、全く質の違うものだった。

「……四海通商連合、だと?聞いたことのねえ名だな」

「いずれ、その名は、この大陸の誰もが知ることになりますよ」

レオと名乗った青年は、笑みを崩さずに言った。「私たちは、争いを好みません。ただ、志を同じくする者たちと、友好的な『パートナーシップ』を結び、共に豊かになることを望む、平和な商人の集まりです。そして、あなた方の街が持つ素晴らしい『ブランド』に、我々は強い関心を抱いているのです」


ブランド?パートナーシップ?

ドルフさんには、その言葉の意味が、半分も理解できなかった。


その頃、『聖女の厨房』では、ミーシャが血相を変えて、厨房に駆け込んできた。

「莉奈さん!大変です、港に、見たこともない鉄の船が……!」

私も、店の窓から、広場の向こうに停泊する、黒い巨船の姿を認めていた。

なぜだろう。

その船から漂ってくる、石炭の燃える微かな匂い。広場に立つ、あの青年の、自信に満ちた佇まい。

その全てが、私の心の奥底に眠る、前世の記憶を、ちくりと刺激した。

それは、懐かしさではなかった。

むしろ、私がこの世界に転生して、ようやく忘れることができたはずの、数字と、契約と、利益だけで動く、冷たい世界の匂い。


私は、背筋に、かすかな悪寒が走るのを感じていた。

剣でも、魔法でも、料理でもない。

この街は、今、これまでとは全く質の違う、新しい戦いの始まりを、告げられているのかもしれない。

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