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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第八十話:温かい涙

祭壇に捧げられた神饌しんせんラーメンから立ち上る、黄金の光と湯気の柱。それは、天を突くほどに高く昇り、谷を覆っていた灰色の空を、内側から優しく照らし始めた。

生命そのもののような温かい香りが、谷の隅々にまで満ちていく。それは、もはやただの香りではなかった。忘れ去られていた大地の記憶―――春には芽吹き、夏には茂り、秋には実る、生命の喜びの記憶そのものを呼び覚ますかのような、魂の香りだった。

その香りに、谷の奥底で眠っていた、巨大な何かが、確かに応えた。


ゴゴゴゴゴ……。

大地が、鳴動した。だが、それはゴーレムが現れた時のような、怒りや拒絶の震動ではなかった。長い、長い眠りから、ようやく目覚めようとする、巨大な生命の、穏やかな寝返りのような揺れだった。

祭壇の前に立つ私たちの目の前で、空間そのものが、陽炎のように揺らめき始めた。

そこに、巨大な影が現れる。それは、特定の形を持たない、闇よりも深く、そしてどこまでも哀しい、飢えと孤独の気配の集合体。「味喰らい」。大地の精霊の、哀れな成れの果て。

騎士たちが、思わず剣の柄に手をかける。だが、ケイレブ様がそれを静かに制した。

その巨大な影は、私たちに敵意を向けてはいなかった。ただ、その全てが、祭壇の上の一杯のラーメンに、まるで赤子が母を求めるように、焦がれるように、注がれていた。


影は、ゆっくりと、その実体のない腕のようなものを、ラーメンへと伸ばす。

それは、全てを喰らい尽くさんとする、貪欲な動きではなかった。

何千年、何万年も、忘れ去られていた温もりに、触れるのをためらうかのような、臆病で、そして切ない仕草だった。

やがて、影の指先が、ラーメンから立ち上る湯気に、そっと触れた。

その瞬間。

湯気は、まるで生き物のように、影の手を優しく包み込み、その魂の中へと、吸い込まれていった。

影は、その一杯を、物理的に食べるのではなかった。

そこに込められた、街のみんなの想いを、感謝を、愛情を、そして、私とジロが紡ぎ出した、生命の物語そのものを、その乾ききった魂で、味わっているのだ。


スープに溶け込んだ、人々の労働の温かさ。

麺に練り込まれた、子供たちの未来への希望。

タレに宿った、発酵という、生命の営み。

チャーシューに凝縮された、時間を支配する、知性の輝き。

その全てが、一口、また一口と、影の中へと溶けていく。

ズズズ……という、麺をすする音は聞こえない。

だが、私たちには、確かに聞こえていた。

飢えに苦しみ続けた魂が、初めて満たされる、歓喜の音色が。


やがて、ラーメンから立ち上っていた黄金の湯気と光は、その全てが、巨大な影の中へと吸い込まれていった。器の中には、全ての魂を捧げ尽くした、静かな抜け殻だけが残されている。

谷は、再び静寂に包まれた。

巨大な影は、満たされたように、その動きを止めていた。

そして、その影の中心、闇が最も深い場所から、ぽつり、と。

一筋の、黄金色に輝く、温かい雫が、こぼれ落ちた。

それは、大地の精霊が、何万年ぶりに流した、感謝の涙だった。

涙は、ひび割れた灰色の、死んだ大地へと、吸い込まれていく。

その、雫が落ちた、ただ一点から。

奇跡は、始まった。

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