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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第六十一話:魂の審査

広場は、一種の神聖な静寂に包まれていた。

二つの、あまりにも対照的な「未来」が、審判の席に並んでいる。片や、一人の天才が作り上げた、孤高の芸術品。片や、街の皆で作り上げた、温かい共同作業の結晶。

ドルフさんが、ごくりと唾をのみ、審判員たちに促した。

「……では、審判員の皆様。最終的な審判を、お願いいたします」


最初に口を開いたのは、市民代表のアンナさんだった。彼女は立ち上がると、まずジロに向かって、深く頭を下げた。

「ジロ様のラーメン……生まれて初めて、あのような美味しいものをいただきました。まるで、天国のお食事のようでした。本当に、本当に、素晴らしかったです」

ジロは、その賞賛に、当然だというかのように、わずかに頷いた。

「ですが……」と、アンナさんは続けた。彼女は、涙で濡れた瞳を、私に向けた。

「ですが、莉奈様のラーメンを食べた時……私は、天国ではなく、今、自分が生きているこの街の、愛おしい日常を思い出しました。畑で泥だらけになった息子の顔、それを叱りながらも笑っている夫の顔……。私の人生の、全てが、あの一杯の中にありました。私が選びたい未来は、夢のような天国ではありません。この温かい日常が、ずっと続いていく未来です。私の票は……聖女リナ様に、入れさせていただきます」


次に、ムツィオ司教が、静かに立ち上がった。

「ジロ殿の御業は、まさしく神業。完璧な調和と秩序は、神が創りたもうた世界の理想形を思わせました。一人の人間が、これほどの高みに至れるものかと、畏怖の念を禁じえません」

彼は、そこで言葉を切り、慈愛に満ちた目で、私を見た。

「しかし、聖女リナ殿は、我々に全く別の真理を示してくださった。神の救済とは、必ずしも天の高みから与えられるものではない。我々が、隣人と手を取り合い、共に働き、共に食卓を囲む、その営みの中にこそ、聖なるものは宿るのだ、と。この一杯は、街の皆が参加した、最高のミサ(聖餐式)でした。よって、私もまた、リナ殿に一票を投じます」


二票が、私に入った。

ジロの顔が、初めて、わずかに歪む。だが、彼はまだ余裕を失ってはいなかった。最後の審判員、王都から来た、最も権威あるセオドーラ様の判断が残っているからだ。彼女ならば、この感傷的な田舎芝居ではなく、客観的な「味」と「技術」で判断してくれるはずだ、と。


セオドーラ様は、静かに立ち上がった。その視線は、ジロと私、二人を真っ直ぐに射抜いていた。

「ジロ・サイトウ殿」

彼女は、まずジロに向き直った。「あなたの才能は、本物です。あなたは、料理を、誰も到達しえなかった芸術の域まで高めました。その探究心と技術には、心からの敬意を表します」

その言葉に、ジロは安堵の表情を浮かべた。

「そして」と、セオドーラ様は私を見た。「聖女リナ殿。あなたは、料理を、生活の、そして人生の域まで、深く掘り下げました。その慈愛と哲学にもまた、私は深い敬意を表します」

彼女は、広場の全ての人々に聞こえるように、澄み切った声で言った。

「テーマは『未来』でした。ジロ殿は、我々に、完璧で、豊かで、そして孤高の天才が牽引する『未来』を見せてくれた。一方、リナ殿は、不揃いだが、温かく、そして皆で手を取り合って築き上げていく『未来』を見せてくれた」

彼女は、二つの空になった器を、静かに見つめた。

「どちらが優れているか、ではありません。この街が、その歴史の中で、血と涙を流して勝ち取ってきた未来は、どちらの姿に近いか」

セオドーラ様は、ゆっくりと、私の器の上に、その白魚のような手を、そっと置いた。

「答えは、火を見るより明らかです」

「私の票も、聖女リナに」


その瞬間、広場は、少しの静寂の後、この日一番の、地鳴りのような大歓声に包まれた。

「勝者、聖女リナーーーーーッ!!」

ドルフさんの叫びが、勝利のファンファーレとなった。

私は、その場にへたり込んだ。勝った。私たちが、勝ったんだ。

ゴークが、雄叫びを上げて私を軽々と担ぎ上げる。ミーシャが、泣きじゃくりながら抱きついてくる。ドルフさんも、ケイレブ様も、街の誰もが、まるで自分のことのように、この勝利を喜んでくれていた。

その熱狂の輪の中心で、ジロは、たった一人、ステージの反対側に立ち尽くしていた。

彼の完璧な芸術品は、この街の、不格好で、温かい、人の輪の前に、完膚なきまでに敗れ去ったのだ。

彼は、生まれて初めて、料理人として、本当の「孤独」を味わっていた。

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