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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第五十七話:莉奈の答え

ジロが、魔法と科学の粋を集め、完璧な「未来」を構築している頃。

私は、深いスランプに陥っていた。

『聖女の厨房』の厨房で、私は何十枚もの羊皮紙を、アイデアを書き込んでは、くしゃくしゃに丸めて捨てていた。

(未来……未来のラーメンって、何?)

私の脳裏に浮かぶのは、前世で見た、まだこの世界にはないラーメンの姿ばかり。泡立てたスープ、燻製にした香味油、奇抜な食材の組み合わせ。だが、それらは全て、やはり私の「過去」の記憶の引き出しに入っているものだ。ジロのように、ゼロから新しい価値を、未来を創造しているわけではない。

「彼は革新家で、私は……ただの、物真似師なのかもしれない」

呟いた言葉が、がらんとした厨房に虚しく響く。料理人としての、根源的な自信が揺らいでいた。


「莉奈さん」

見かねたミーシャが、そっと声をかけてきた。

「少し、お店の外に出てみませんか?厨房に籠っているだけでは、見えないものが、きっとあります」

ミーシャに促され、私は久しぶりに、ゆっくりと街を歩いてみることにした。

最初に訪れたのは、市場だった。野菜を売る農家の夫婦が、私に気づいて駆け寄ってくる。

「おお、莉奈さん!見てくれよ、この人参!あんたに刺激されて、品種改良に挑戦してみたんだ!甘くて、スープにしたら最高だぜ!」

夫婦が、誇らしげに差し出した、いびつだが生命力に満ちた人参。それは、彼らが自らの手で作り出した、小さな「未来」だった。


次に、冒険者ギルドを訪れた。若者たちが、ケイレブ様が持ち帰った地図を囲んで、新しい遠征計画を立てていた。

「聖女様の新しいラーメンのためだけじゃない。この街の未来のために、俺たちが新しい資源を見つけるんだ!」

彼らの瞳は、未知への挑戦と、街への愛情で輝いていた。それもまた、力強い「未来」の姿だった。

そして、最後に、私は広場に出た。

そこでは、革命の後に生まれた子供たちが、無邪気に走り回っていた。彼らは、領主の圧政も、戦いの記憶も知らない、この街の「未来」そのものだ。

子供たちの一団が、私に気づいて駆け寄ってきた。その手には、泥と葉っぱで作った、おままごとの料理。

「聖女様!これ、あげる!」

一人の女の子が、私に泥団子を差し出した。「みんなで作った、友情ラーメンだよ!」


その言葉が、私の心に、雷のように突き刺さった。

―――そうだ。

そうだったんだ。

ジロの考える「未来」は、一人の天才が、完璧な技術で作り上げる、孤高の芸術品。

でも、この街の、私たちの「未来」は違う。

それは、今ここにいる、全ての人々の、日々の営みの中に、息づいている。

農夫が、より美味しい野菜を作ろうと挑戦すること。

冒険者が、街の明日のために、未知の森へ挑むこと。

そして、子供たちが、泥遊びの中で、誰かと一緒に食べる喜びを見つけること。

一人一人の、ささやかな挑戦と、日々の営みと、他者を想う温かい心。その全てが、無数に編み合わさって、この街の「未来」という、一枚の大きなタペストリーを織り上げているんだ。

私の作るべき一杯は、見つかった。

それは、私一人の技術や知識を誇示するものではない。

この街の「未来」そのものを、一杯の器の中に溶け込ませた、そんなラーメンだ。


私は、店へと駆け戻った。

厨房の扉を開けると、そこには、私の帰りを待っていたミーシャやゴーク、そして弟子たちの姿があった。

「おかえりなさい、親方!」

その温かい出迎えに、私の心の中の霧が、すっきりと晴れていくのが分かった。

「……ただいま」

私は、仲間たちの顔を見渡し、満面の笑みで言った。

「みんな、ありがとう。私、分かったよ。私が作るべき、『未来』のラーメンが」

それは、新しい奇跡のレシピでも、誰も見たことのない調理法でもない。

この街の、私たちの未来の味。それは、私一人で作るものじゃない。


その数日後。街の広場には、信じられない光景が広がっていた。

私の呼びかけに、街中の人々が集まっていたのだ。農夫が、冒険者が、商人が、そして小さな子供たちまで。

彼らの前には、巨大な木の樽がいくつも並べられている。

「さあ、みんな!決戦で使う、最高のお味噌を、みんなで一緒に仕込むよ!」

私の声に、人々は「おおー!」と歓声を上げる。

ジロが、たった一人で完璧な芸術品を創り上げている頃。

私たちの厨房は、街全体へと広がっていた。人々の笑い声と、活気に満ちた共同作業。それこそが、私の見つけ出した、最高の「未来の味」の隠し味だった。

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