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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第五十六話:ジロの完璧な計算

私が、街の人々との対話の中に「未来」のヒントを見出していた頃。

ジロは、『美食殿 極』の最奥にある、彼の研究室ラボと呼ぶべき厨房で、一人、自らの「未来」を構築していた。

彼の前に広げられているのは、レシピではない。成分分析表、温度変化のグラフ、そして魔法陣の設計図だった。


「面白いテーマをくれたものだ。『未来』、か」

ジロは、側に控える執事に、まるで独り言のように呟いた。

「あの女は、きっと感傷に訴えかけるだろう。子供たちとの思い出、人々の絆、そんな曖昧で非効率なものをスープに溶かして、悦に入るに違いない」

彼の唇に、冷たい笑みが浮かぶ。

「だが、本当の未来とは、そんなものではない。未来とは、富であり、力であり、そして、他者を圧倒する、完璧な技術の象徴だ。私のラーメンは、この街の、そして王国の『未来そのもの』になる」

彼にとって、この対決は単なる料理勝負ではなかった。自らが作り上げた美食殿『極』を、この街の、いや、この王国の食文化の頂点に君臨させるための、最終段階のプレゼンテーションだったのだ。


彼の調理は、もはや料理の域を超えていた。

まず、彼が用意したのは、最高級のボアのロース肉。彼は、王都から招聘したという高名な宮廷魔術師に命じ、その肉塊の周囲に、特殊な「時間加速」の魔法陣を展開させた。

「この魔法陣の中では、時間の流れが百倍になる。つまり、たった一日で、百日間熟成させたのと同じ効果が得られる。究極の熟成肉だ」

それは、私の前世にあった「熟成肉エイジングビーフ」の理論を、魔法という超常的な力で再現し、さらに昇華させた、悪魔的な調理法だった。

スープもまた、常軌を逸していた。

彼は、十数種類の最高級の骨や野菜から取った出汁を、巨大な氷の魔法でゆっくりと凍らせていく。

「これは『氷結濃縮法』。不純物や水分だけが先に凍り、中央には純粋な旨味のエッセンスだけが残る。この世で最も澄み切り、そして最も濃厚な、奇跡のコンソメスープが完成する」

私の記憶にある、分子ガストロノミーの技法そのものだった。


そして、仕上げのトッピング。

彼は、雇った錬金術師に、ただの岩塩から、純度九九・九%の「食用金粉」を錬成させていた。

「未来とは、価値の創造だ。石ころを、黄金に変える。私のラーメンは、一杯で城が買えるほどの価値を持つ、至高の芸術品となるのだ」

彼の厨房には、料理人としての「勘」や「経験」といった、曖昧なものは一切存在しない。

魔法の温度計が、スープの温度を小数点以下まで管理し、魔道具の糖度計が、タレの甘みを分子レベルで調整する。全てが、完璧な数式と理論の上に、寸分の狂いもなく構築されていく。

数日後。彼の前には、完成した一杯の試作品が置かれていた。

クリスタルのように透き通ったスープ。時間魔法で熟成され、宝石のような輝きを放つチャーシュー。そして、天の川のようにきらめく金粉。

執事が、恐る恐るそのスープを一口すする。そして、その場に崩れるように膝をついた。

「……おお……!これは、もはや、神々の食べ物です、ジロ様……!このようなものを出されて、あの聖女に、一体何ができるというのですか……!」


ジロは、その完璧な一杯を、満足げに見下ろした。

「フン、あの女には、せいぜい思い出話でも詰めた、感傷的なスープがお似合いだ」

彼の瞳には、勝利への確信しか映っていなかった。

「さあ、見せてやろう。これが、金と、知性と、力が作り出す、誰もがひれ伏す、絶対的な『未来』の味だ」

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