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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第五十五話:対決のテーマ

ラーメン対決の開催が布告されると、街はまるでお祭りのような興奮に包まれた。どちらが勝つか、どんなラーメンが出てくるのか、人々は毎日のようにその話題で持ちきりだった。そして、建国祭の一ヶ月前。円卓会議のドルフ議長によって、ついに決戦のテーマが発表された。


広場に集まった民衆の前で、ドルフさんは高らかに宣言した。

「頂上ラーメン決戦のテーマは―――**『未来』**だ!」

どよめきが、広場を揺るした。

ドルフさんは続ける。

「俺たちの街は、革命によって生まれ変わった。過去の支配を断ち切り、未来を手に入れた。ならば、問おうじゃねえか。この街の『未来』を象徴する一杯とは、一体どんな味なのかを!聖女リナと、美食殿のジロ。二人の料理人に、それぞれの『未来』を、その一杯で示してもらう!」

それは、単なる料理対決のテーマではなかった。

この街の進むべき道、そのものを問う、あまりにも壮大で、哲学的な挑戦状だった。


そのテーマを聞いた時、『美食殿 極』のジロは、自らの厨房で、魔法の炎によって完璧に温度管理されたスープの味見をしていた。

報告に来た執事に、彼は薄い笑みを浮かべて言った。

「『未来』、か。面白い。連中に、本当の未来を見せてやる、いい機会だ」

彼の考える未来。それは、完璧な理論と、寸分の狂いもない技術によって構築される、合理的で、洗練された世界。感情や感傷といった、非効率なものを一切排した、究極の美食の世界だ。

「過去の遺物である、あの女のスープに、未来を語る資格などない。私の完璧な一杯こそが、この街が目指すべき、唯一の未来だ」

ジロは、すでに勝利を確信していた。


一方、そのテーマは、私に重く、深くのしかかっていた。

「……未来、か」

店の営業後、一人厨房に残り、私は途方に暮れていた。

私のラーメンは、全て、前世の「過去」の記憶から生まれている。カップラーメン、味噌ラーメン、そして魚介系スープ。その全てが、日本のラーメンの長い歴史の中で、多くの先人たちが築き上げた、「過去の遺産」の再現に過ぎない。

そんな私が、どうすれば「未来」のラーメンなど、作れるというのだろう。

「莉奈さん、あまり思い詰めないでください」

ミーシャが、心配そうにお茶を淹れてくれる。

「きっと、また新しい、凄いラーメンのレシピを思いつきますよ!」

彼女の励ましが、逆に私の心を締め付けた。それは、新しいレシピの問題ではない。料理人としての、哲学の根幹を問われているのだ。


その夜、私は眠れずに、一人で夜の街を散歩に出た。

月明かりに照らされた、静かな街。

ギルドの前を通りかかると、夜警の準備をしていたケイレブ様が、私に気づいて声をかけてくれた。

「どうした、リナ殿。眠れないのか」

「……ケイレブ様。私、自信がありません。未来のラーメンなんて、私には……」

私の弱音に、ケイレブ様は、静かに夜空を指さした。

「未来は、空から降ってくるものではないのだろう」

彼は、ゆっくりと、語り始めた。

「未来とは、今、この瞬間、我々が生きている、この日常の積み重ねの先にあるものではないのか。我々が守ってきたもの、そして、これから育てていくもの。その全てが、未来へと繋がっているはずだ」

彼の言葉に、私はハッとした。


私は、街を歩いた。昼間は気づかなかった、街の夜の息遣いを感じながら。

市場の隅では、明日の商売のために、農夫が野菜の手入れをしていた。彼が育てる野菜が、私のラーメンになる。

ギルドの宿舎からは、若い冒険者たちの、未来の夢を語り合う声が聞こえてくる。彼らが、この街の明日を守る。

広場の噴水の周りには、子供たちが描いたのであろう、拙いチョークの絵が残っていた。私のラーメンを、美味しそうに頬張る、笑顔の絵。彼らこそが、未来そのものだ。


そうだ。

ジロの言う「未来」は、きっと、彼一人の頭の中にある、完璧な設計図なのだろう。

でも、この街の、私たちの「未来」は違う。

それは、今ここにいる、全ての人々の、日々の営みの中に、息づいてる。

農夫が、より美味しい野菜を作ろうと挑戦すること。

冒険者が、街の明日のために、未知の森へ挑むこと。

そして、子供たちが、泥遊びの中で、誰かと一緒に食べる喜びを見つけること。

一人一人の、ささやかな挑戦と、日々の営みと、他者を想う温かい心。その全てが、無数に編み合わさって、この街の「未来」という、一枚の大きなタペストリーを織り上げているんだ。


私の作るべき一杯は、見つかった。

それは、私一人の技術や知識を誇示するものではない。

この街の「未来」そのものを、一杯の器の中に溶け込ませた、そんなラーメンだ。

私は、店へと駆け戻った。

厨房の扉を開けると、そこには、私の帰りを待っていたミーシャやゴーク、そして弟子たちの姿があった。

「おかえりなさい、親方!」

その温かい出迎えに、私の心の中の霧が、すっきりと晴れていくのが分かった。

「……ただいま」

私は、仲間たちの顔を見渡し、満面の笑みで言った。

「みんな、ありがとう。私、分かったよ。私が作るべき、『未来』のラーメンが」

それは、新しい奇跡のレシピでも、誰も見たことのない調理法でもない。

この街の、私たちの未来の味。それは、私一人で作るものじゃない。

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