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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第五十二話:新たなる「旨味」

私の号令一下、静まり返っていた厨房は、再び戦場と化した。だが、その戦いの内容は、今までとは全く異なるものだった。

まず動いたのはミーシャだった。彼女は、私の指示通り、街の漁師組合へと走った。この街は内陸だが、大きな湖に面しており、ささやかな漁業が営まれている。

「魚の、アラと、頭を?お嬢ちゃん、そんなもん、どうするんだい」

いかつい顔の漁師たちは、怪訝な顔をした。彼らにとって、それは商品価値のない、ただの廃棄物だったからだ。

「最高のスープを作るんです!」

ミーシャの力強い言葉に、漁師たちは半信半疑ながらも、「聖女様が言うなら」と、その日水揚げされたばかりの、大量の淡水魚のアラや骨を、格安で譲ってくれた。


一方、ゴークと弟子たちは、ドルフさんの特別な許可を得て、街の南に広がる深い森へと入っていた。彼らの目的は、私が「記憶」を頼りに特徴を伝えた、いくつかの特定の植物だった。

「親方が言ってたのは、これか……?」

弟子の一人が見つけたのは、岩陰に群生する、香りの強い乾燥キノコ。そしてゴークが、湖のほとりの湿地帯で、黒く、分厚い、巨大な葉を持つ水草を発見した。それは、私の前世の記憶にある「昆布こんぶ」に、驚くほどよく似ていた。


数時間後。厨房には、山のような魚のアラ、乾燥キノコ、そして未知の水草が運び込まれた。厨房は、濃厚な豚骨の匂いではなく、潮と、土と、草の匂いが入り混じった、不思議な香りに満たされた。

「さあ、始めよう!」

弟子たちを前に、私は宣言した。これは、調理であると同時に、彼らにとっても初めての授業だった。

「いいかい。旨味は、骨を煮込むだけで生まれるものじゃない。今日は、全く新しい旨味の作り方を教えるよ」

まず、私は煮干しの頭と腹わたを、一つ一つ丁寧に取り除いた。

「このひと手間が、スープの雑味を消して、澄んだ味を生み出すんだ」

次に、魚のアラを大きな鉄板で、焼き色がつくまでじっくりと焼く。ジュウジュウという音と共に、魚特有の生臭さが消え、香ばしい匂いが立ち上った。

「こうすることで、香りを閉じ込める。スープに、立体的な奥行きが生まれるんだよ」


そして、三つの大鍋を用意する。

一つ目の鍋には、下処理をした煮干しと、森のキノコを。

二つ目の鍋には、焼き上げた魚のアラを。

三つ目の鍋には、あの昆布に似た水草を。

それぞれ、全く違う温度と時間で、じっくりと、素材の魂を水の中へと溶かし出していく。

「すごい……鍋ごとに、全然違う匂いがする……」

弟子たちが、驚きの声を上げる。

そして、数時間後。私は、三つの鍋から抽出した、それぞれ黄金色に輝くスープを、一つの寸胴の中で、完璧な比率で合わせた。


「……できた」

完成したのは、どこまでも透き通った、琥珀色のスープだった。見た目は、コンソメスープのようにも見える。

ドルフさんやミーシャ、ゴークも、固唾をのんでその瞬間を見守っていた。誰もが、半信半疑だった。こんな、色の薄い、油も浮いていない液体が、本当にあの濃厚な豚骨スープの代わりになるというのか、と。

私は、小さな器にそのスープを注ぎ、ドルフさんに差し出した。

「……飲んでみてください」

ドルフさんは、訝しげに器を受け取ると、一気にそれを煽った。

そして―――彼の隻眼が、信じられないというように、カッと見開かれた。

「なっ……!?」

ドルフさんの喉から、驚愕の声が漏れた。

「こ、これは……なんだ……!?味は薄い。だが……舌の奥で、後から後から、とんでもねえ味の波が押し寄せてきやがる……!森と、湖の味がする……!」


それは、彼らが今まで一度も経験したことのない、「旨味」の相乗効果だった。魚介のイノシン酸、キノコのグアニル酸、そして昆布(もどき)のグルタミン酸。三つの異なる旨味が、互いを何倍にも高め合い、静かだが、深く、そしてどこまでも広がる、味わいの宇宙を創り出していたのだ。

それは、ジロの知らない、日本のラーメン文化の、もう一つの偉大な柱。

「魚介系スープ」が、この世界に産声を上げた瞬間だった。

私は、湯気の立つ寸胴鍋を見つめ、静かに笑みを浮かべた。さあ、反撃の準備は、整った。

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