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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第四十七話:公然たる批判

私たちが『極』を訪れた翌日、その衝撃は、王都から発行される最も影響力のある瓦版(新聞)によって、王国中にばらまかれた。見出しは、あまりにも扇情的だった。

【美食の魔王、聖女の味を断罪!「あれは過去の産物だ」】

記事の内容は、先日『極』で開かれた、王都の貴族や記者たちを招いた晩餐会でのジロの独占取材だった。記者の「この街の麺聖女のラーメンについて、どう思われますか?」という質問に対し、ジロは、冷徹なまでの言葉で、私のラーメンを分析し、批判していた。


『まず、技術的に見て、あれは素人の料理です。麺の加水率は不均一で、スープは旨味の抽出が不完全。ただ濃い味の素材を放り込んだだけの、混沌とした味わい。これを料理と呼ぶのは、あまりに稚拙でしょう』

『哲学も、感傷的で非効率だ。誰もが食べられる?結構。ですが、それは料理の価値を貶める行為に他ならない。あれは料理ではない。飢えた庶民の腹を、一時的に満たすための「餌」です』

『私の使命は、過去の感傷に浸ることではない。最高の技術で、最高の食材を使い、美食の限界を押し広げ、それを理解できる選ばれた人々に提供すること。聖女のラーメンが「過去」なら、私のラーメンは「未来」なのです』


その記事は、完璧な爆弾だった。

王都の貴族や富裕層は、ジロの哲学を「革新的だ」「本物の芸術家の言葉だ」と絶賛した。彼らにとって、一杯金貨一枚のラーメンを食べることは、自らの審美眼を証明する、最高のステータスとなったのだ。

そして、その波紋は、すぐに私たちの街にも及んだ。

商人代表のバルトロをはじめとする富裕層は、こぞって『極』の常連となり、まるでジロの代弁者のように、彼の言葉を繰り返した。

「やはり本物は違うな。聖女様のラーメンも悪くはないが、少々、野暮ったいというか……」

「そうそう、たまに食べたくなる『故郷の味』ではあるが、『芸術』ではないな」

彼らは、『極』の客であることを誇り、『聖女の厨房』に並ぶ人々を、どこか見下すような視線を向け始めた。


一方、その言葉に、街の大多数の人々は激怒した。

「ふざけやがって!あのスカした野郎!」

ギルドの酒場で、ドルフさんは記事が載った瓦版を握りつぶし、テーブルに叩きつけた。「莉奈のラーメンが餌だと!?俺たちの命を繋いできた、あの温かい一杯を、何も知らねえくせに!」

ゴークも、店の前で仁王立ちになり、「聖女様のラーメンを馬鹿にする奴は、俺が許さねえ!」と、鬼の形相で『極』の方角を睨みつけていた。

街は、静かに、しかし確実に二つに分断され始めたのだ。

伝統と革新。大衆と選民。温もりと完璧さ。

『聖女の厨房』派と、『美食殿 極』派。

人々は、自分がどちらのラーメンを支持するかで、自らの価値観を表明するようになっていった。


その日、ミーシャは、怒りに顔を真っ赤にして、私のところに例の瓦版を持ってきた。

「莉奈さん!これは、あまりにも酷すぎます!すぐに抗議の記事を出すべきです!私に任せてください、彼の鼻を明かすような瓦版を……!」

私は、ミーシャから瓦版を受け取り、静かにジロの言葉に目を通した。

悔しくないと言えば、嘘になる。胸の奥が、ちりちりと痛んだ。

だが、それ以上に、私の心は不思議なほど、静かだった。

技術的な批判については、彼の言う通りかもしれない。私は、前世の記憶を元にした、独学の料理人だ。彼のように、体系化された調理科学を学んだわけではない。

でも。

「……ミーシャさん」

私は、瓦版をそっとテーブルに置いた。

「ありがとう。でも、私たちは、言葉で反論する必要はないよ」

「ですが!」

「いいんだよ」私は、まっすぐにミーシャの目を見て、微笑んだ。「料理人が、言葉で戦ってどうするの。私たちの答えは、いつだって、この厨房の中にあるんだから」

私は、エプロンの紐をきゅっと結び直した。

「さあ、夜の営業の準備をしよう。今日も、お腹を空かせた人たちが、私たちのラーメンを待ってくれている。最高の笑顔になってもらえるように、最高の一杯を作ろう。それが、私たちの答えだよ」

私のその言葉に、ミーシャは一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて、深く、深く頷いた。その瞳から、怒りの炎は消え、私への信頼と、暖かな決意の光が灯っていた。

外の嵐がどうであれ、私たちの厨房は、何も変わらない。

ただ、ひたすらに、目の前の一杯と、それを食べる人の笑顔のために。

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