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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第二十四話:円卓会議の波紋

翌日、かつての領主の館、今では市民の誰もが「会議棟」と呼ぶその一室は、鉛を流し込んだような重い空気に満ちていた。円卓を囲むのは、ドルフさんを議長とする、商人、職人、そして市民の代表者たち。革命以来、ここで交わされる議論は常に白熱し、時には怒号が飛び交いながらも、最後は街の未来のために一つの結論を導き出してきた。今日までは。


円卓の上座。本来は空席であるその席に、グランヴィル侯爵は当然のように腰を下ろしていた。彼の背後には、微動だにしない王都の騎士が二人、控えている。


「さて、諸君」侯爵は、ドルフさんが用意させた分厚い議事録の束を、指先で軽蔑するように弾いた。「この一年間の記録、拝見させてもらった。……子供のままごとだな」

その一言で、場の空気が凍り付く。商人代表の恰幅の良い男性が、顔を赤くして身を乗り出した。

「な、侮辱する気か、侯爵殿!我々はこの一年、必死に街を立て直してきたのだぞ!」


「立て直す?違うな。あなた方は、この街を緩やかに孤立させ、死に至らしめているに過ぎん」

侯爵は、冷然と言い放った。彼は立ち上がると、壁にかけられた王国全土の地図を指し示す。

「食料の分配?下水道の修繕?結構。だが、そんな些末なことにばかりかまけている間に、あなた方は国際社会から取り残されているのだ。王国の庇護なくして、どうやって他国からの脅威を防ぐ?どうやって、この街の特産品を遠くの大陸まで届ける大規模な交易路を維持する?」


侯爵の言葉は、巧みだった。彼は街の努力を否定するのではなく、「視野が狭い」と断じることで、代表者たちの自尊心を揺さぶり、同時に漠然とした不安を植え付けていく。

「あなた方のやっていることは、嵐の海に、手漕ぎの小舟で漕ぎ出すようなものだ。我々、王国という巨大な船に乗れば、安全に、そしてより大きな富を得られるというのに」

彼は、今度は商人代表に、慈悲深い笑みさえ浮かべてみせた。

「聞いているぞ。あなたの商会は、東の国々との香辛料貿易に活路を見出そうとしていたとか。素晴らしい。だが、その航路を開拓し、海賊から守るのに、どれほどの金と兵士が必要か、考えたことはあるかね?王国の名の下であれば、それは容易いことなのだ」


商人代表の顔から、怒りの色が消え、代わりに打算の色が浮かぶのを、ドルフさんは確かに見ていた。市民代表たちも、「安全」や「繁栄」という言葉に、心を揺さぶられているのが見て取れた。これまで「街の自立」という一つの目標に向かっていたはずの円卓に、侯爵は「王国の庇護」という、甘く、抗いがたい選択肢を投げ込んだのだ。


「ふざけるな!」

ついに、ドルフさんがテーブルを拳で叩いた。

「俺たちは、てめえらの指図を受けるために領主を追い出したんじゃねえ!俺たちの街のことは、俺たちで決める!」


「もちろんだとも、議長殿」侯爵は、少しも動じない。「これは命令ではない。提案だ。あなた方の『ままごと』が立ち行かなくなった時、いつでも王は手を差し伸べる用意がある……そう伝えているに過ぎない」


その日の会議は、何の結論も出ないまま終わった。だが、その場にいた誰もが理解していた。円卓に、初めて修復不可能なほどの亀裂が入ったことを。

ギルドに戻ったドルフさんは、荒れに荒れていた。

「くそっ……!あの狸じじい……!金の匂いと安全保障をちらつかせやがって……!」

ケイレブ様もまた、厳しい表情で窓の外を眺めている。

「議長。商人組合の何人かが、会議の後、侯爵の滞在する館へ入っていくのを見た」

「……ちっ!裏切りやがったか!」


街の団結は、一杯の温かいラーメンによって築かれた。だが、その絆は、王国という巨大な権力がちらつかせた「富」と「安定」という冷徹な論理の前で、今、もろくも崩れ去ろうとしていた。そして、その頃、神聖審問官セオドーラは、一人、静かに街を歩いていた。彼女の目的地は、ただ一つ。全ての騒動の中心である、『聖女の厨房』だった。

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