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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第二十話:命をすする音

決戦の朝。

夜明け前の禁忌の森は、張り詰めた静寂と、鍋の煮える音だけが支配していた。


これが、最後の食事。

私は、ありったけの食材と、持てる知識のすべてを、この一杯に注ぎ込んだ。

スープは、岩猪の骨髄と月光茸を限界まで煮詰め、さらに滋養強壮の効果がある薬草をすり潰して溶かし込んだ、命そのものを凝縮したかのようなポタージュ。

麺には、食べた者の気力を高めるという「陽光の実」の粉末を練り込んだ。


それはもはや、ラーメンではなかった。

仲間たちの命を繋ぐための、聖水エリクサーだった。


完成したラーメンは、一人一人に、小さな椀で手渡された。

誰も、何も言わない。

ケイレブ様が、部隊の仲間たちが、ただ静かに、その命のスープをすする。

その音だけが、私たちの決意の証だった。


「……温かい」


最後の一滴まで飲み干したケイレブ様が、ぽつりと呟いた。

彼の身体から、青白い闘気オーラのようなものが、陽炎のように立ち上っていた。部隊の仲間たちも同様だった。疲労の色は消え、その瞳には、超常的なまでの集中力が宿っている。


「聖女様」

ケイレブ様が、私に向き直る。

「あなたの魂、確かにいただきました。必ずや、勝利と共に、この場所へ帰還します」

「……はい。信じて、待っています」


それが、最後の言葉だった。

ケイレブ様率いる精鋭部隊は、夜明け前の闇の中へと、音もなく溶けていった。

崖を登り、王の首を取るために。


私は、一人、森の静寂の中に残された。

熱気を失った鍋の前にひざまずき、ただ仲間たちの無事を祈ることしか、できなかった。


同じ頃、街は開戦の時を迎えようとしていた。

東の空が、血のように白み始める。

ギルド区画を包囲する、領主ソラムの軍勢。その数は、ギルドの冒険者たちの十倍以上。重装備の兵士、弓兵部隊、そして巨大な破城槌はじょうつい

それは、戦いというより、処刑の陣形だった。


ギルドのバリケードの最前線に、ドルフさんが立つ。その後ろには、ゴークや、傷だらけの冒険者たちが、武器を構えて並んでいた。

彼らの顔に、恐怖はなかった。ただ、故郷を、仲間を、そして聖女の作る温かいラーメンのある日常を守るという、鋼の覚悟があるだけだった。


やがて、領主の館のバルコニーに、ソラム本人が姿を現した。

彼は、眼下のちっぽけな抵抗勢力を、虫けらでも見るかのように見下ろし、そして、右手を、静かに振り下ろした。


「―――総員、攻撃開始ッ!!」


号令と共に、地響きが鳴り渡る。

破城槌がバリケードに向かって突き進み、空を覆い尽くすほどの矢が、ギルド区画へと降り注いだ。


「うおおおおおおっ!!」

ドルフさんの雄叫びを合図に、冒険者たちも迎撃を開始する。

剣と斧がぶつかり合い、魔法が炸裂し、怒号と悲鳴が入り乱れる。

街の運命を決める、あまりにも絶望的な戦いの火蓋が、切って落とされた。


そして、その混沌の裏側で。

もう一つの戦いが、静かに始まっていた。


領主の館の背後にそびえ立つ、数百メートルの垂直な崖。

その岩肌を、常人にはありえない速度で、十数個の影が登っていた。

ケイレブ様と、彼の率いる精鋭部隊だ。


聖女の最後のラーメンによって引き出された超人的な力は、彼らを重力から解き放たれたかのように、崖の上へと導いていく。

眼下では、街が炎に包まれ、仲間たちが死闘を繰り広げている。

だが、彼らは振り返らない。

信じているのだ。仲間たちが、自分たちがこの崖を登りきるまでの、貴重な時間を稼いでくれていることを。


戦場は、二つ。

一つは、街の存亡を賭けた、炎と鉄がぶつかり合う、絶望的な防衛戦。

もう一つは、逆転の全てを賭けた、天へと続く、孤独な垂直の進軍。


二つの戦いが、一つの夜明けの下で、同時に、そのクライマックスへと向かっていた。

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