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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第十二話:これは革命の味

領主の布告から三日後。

ギルド前の広場には、以前とは全く違う種類の行列ができていた。

熱狂や欲望に満ちた行列ではない。静かで、だがどこか決意を秘めた、街の人々の列だった。


広場の中央には、ギルドの冒険者たちが設営したいくつもの大鍋が湯気を立てている。

工房から運び出された製麺機をゴークが動かし、山と積まれた野菜を街の女性たちが手際よく刻んでいく。私も、ミーシャと共に、巨大な寸胴鍋に浮かぶアクを丁寧にすくい、醤油もどきのタレの味を最終調整していた。


これは、私一人で起こす奇跡ではない。

街のみんなで作り上げる、私たちのための食卓だ。


やがて、最初の一杯が完成した。

琥珀色に澄んだスープに、少し不揃いな手打ち麺。トッピングは、たっぷりの野菜炒めと、鶏のささみを柔らかく煮たもの。派手さはないが、食欲をそそる優しい香りが辺りに満ちた。


「『復興ラーメン』、できました!一杯、銅貨一枚です!お金のない子供は無料タダだよ!」


私の声に、人々は一杯ずつ、ラーメンを受け取っていく。

彼らは、その一杯を、まるで大切な宝物のように両手で受け取り、そっとスープを口に運んだ。


爆発的な感動はない。

だが、一口、また一口と食べ進めるうちに、人々の険しく、不安げだった表情が、ふわりと和らいでいくのが分かった。


「……うまい。なんだか、懐かしい味がする」

屈強な冒険者が、ぽつりと呟いた。

「ええ、本当に。野菜の甘みが体に染みるようですわ」

裕福そうな商家の奥様が、隣の貧しい身なりの家族に微笑みかける。

普段なら交わることのない人々が、同じテーブルで、同じラーメンをすすり、同じように「美味しいね」と笑い合っている。


それは、私が最初に起こした「奇跡」よりも、ずっと温かく、そして力強い光景だった。

一杯のラーメンが、身分や立場の違いを超えて、人々の心を一つに結びつけていた。


その光景を、二つの影が遠巻きに見ていた。


「……執事殿。これは、どういうことですかな」

治癒神殿の司教ムツィオが、苦々しく呟く。

「あの女、我々の規制を逆手に取り、民衆の支持をさらに固めておりますぞ。これはもはや『炊き出し』。聖女の慈悲そのものではないですか。これでは、我々が非難すれば、神殿が悪役になってしまう」


執事ヴァレリウスは、表情こそ変えなかったが、その扇子を握る指は白くなっていた。

「……計算外でしたな。経済的な圧力をかければ、ギルドも民衆も、聖女を見捨てると踏んでいた。まさか、逆に団結を強めることになるとは」


彼らの戦略は、完全に裏目に出ていた。

ラーメンを取り上げようとした領主は「民のささやかな楽しみを奪う強欲な支配者」となり、それに抗う私は「虐げられた民と共に立つ、本物の聖女」として、その物語を強固なものにしていたのだ。

ヴァレリウスの目には、焦りの色が浮かんでいた。このままでは、領主の権威そのものが揺らぎかねない。


広場が、人々の笑顔と温かい湯気に満たされる頃。

その日の主役である、もう一つの部隊が姿を現した。


ケイレブ様を隊長とする、ギルド最強のメンバーで編成された『独立補給部隊』。

彼らは、これから始まる危険な遠征に向けて、武具の最終確認を終え、広場に整列した。


私は、彼らのために特別に用意した、携帯保存食を手渡していく。

油で揚げた麺と、粉末スープの素。最初に私が作った、カップラーメンの原型だ。

「これは、復興ラーメンの麺とスープを元にした、保存食です。豪華な効果はありませんが、きっと冷えた体を温めてくれるはずです」


ケイレブ様は、その素朴な食料を、恭しく受け取った。

「聖女様。我々は、必ずや新たな恵みの地を見つけ、帰還することを誓います。―――この温かき一杯のために」


彼の言葉に、部隊の全員が力強く頷く。

彼らは、金貨のためでも、領主の命令でもなく、自分たちの仲間が待つこの温かい食卓を守るために、旅立つのだ。


「出発!」


ケイレブ様の号令と共に、部隊は街の門へと向かって行進を始めた。

それを見送る、街の人々。以前のような熱狂的な歓声はない。だが、誰もが、自分の家族を送り出すように、静かに、そして力強く手を振っていた。


私は、遠ざかっていく彼らの背中が見えなくなるまで、ずっと見守っていた。


私たちの反撃は、まだ始まったばかりだ。

一つは、この街で、人々の心を繋ぎ、日常を守る戦い。

もう一つは、未開の地で、私たちの未来を切り開く戦い。


領主と神殿が、このまま黙って見ているはずがない。

きっと、次の一手は、もっと直接的で、もっと容赦のないものになるだろう。


だが、今の私には、共に戦ってくれる仲間がいる。

そして、この温かいラーメンの味を知ってしまった、たくさんの人々の胃袋と心が、ついている。


私は、再びスープ鍋の前に戻った。

戦いの準備は、万端だ。

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