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第四話 情熱的な曲


 僕は、『シャングリラ』の演奏を聴いたその夜、ご飯は打ち上げの時に食べたから、母の言いつけ通りに風呂に入ってからピアノ室で一人作曲をしていた。

 あの子に贈るなら、どんな曲がいいだろう、どんな曲が似合うだろう、と少し気色の悪いことを思いながらピアノに向かう。

 あの子を、想う。

 不思議と可憐で力強く情熱的な曲ばかり出来た。

 でも、曲なんて、だれかを想ったり、理不尽な世界を憂いだり、そうして出来るものだ。


 僕が自作の曲を気持ちよく打鍵し終え、五線譜ノートに追記を書いていると、扉の方から「ちょっと」と母の呆れた声が聞こえた。

 僕が振り返ると、母はやっぱり呆れた顔をしていた。


「何時だと思う?今」


「え?何時?」


「朝の八時」


「え?!」


 嘘だろ?!時間経つの早すぎないか。まだ夜の十時くらいかと……。


「時空が歪んでる……」


 早速母の言いつけ破ったよ。

 まあ、元々そういう傾向があるから母は心配して言ってくれたんだろうけど。


「はいはい。久々で楽しいのは分かるけど、休憩はしなさいね?朝ごはん出来てるから食べなさいな」


「うん、ありがとう」


「わふん!」


 母の後を追っていつの間にかピアノ室に入ってきたマシュマロにも怒られた気がする。

 母は『怒る』というか、『呆れている』のだと思うけど。

 でも、母は何故か嬉しそうに微笑んでいる。


「どうしたの?」


「ううん。あんたがまたイキイキと音楽やりだしてなんだか安心したのよ」


 僕が失っていたもの。それは、音楽。

 僕の、生き甲斐だった。


 嗚呼、もっと弾きたい。もっと作りたい。

 ご飯を食べて、マシュマロと散歩に行って、少し休憩したら、またピアノ室だ!!




 という感じで、日曜日はピアノ漬けで終わり、月曜日の昼休憩。

 学校の音楽室に、僕はいた。


 音が溢れて、止まらなくなっていた。


 ふと、演奏し終えると視線を感じて音楽室を見渡した。


「あ」


「あ、の。すんません、勝手に」


 天音ちゃんが準備室と繋がる扉の前に立っていた。

 手にはドラムのスティックと、ケース?を持っている。


「大丈夫だよ。準備室にいたの?」


「うん、わたし、いつも昼は準備室でドラム叩いてるから」


 天音ちゃんはスティックをケース———やはりケースだった———に仕舞いながらこちらに近づいてきて、ピアノに一番近い席に座る。


「ピアノ弾くって聞いてたけど、こんなヤバい色気放ちながら、こんな情熱的で子宮に響く曲弾くなんて思わなかったよ。オリジナル?」


「う、うん、そうだよ。オリジナル(……というか、子宮?!)」


 いや、褒められているのか何なのかよくわからないコメントで、し、子宮に響く、って……。

 なんてこと言うんだ、この子。


「ホント、情熱的。誰かを想って書いたんなら、いいな。こんな風に情熱的に想われてみたい」


 君を想って書いたんだよ、なんて言ったら……。

 君は僕を気持ち悪がってもう僕の前には現れないんだろうな……。


 言えない。言わない。まだ、今は。


「まあ、誰かを想って作ったんじゃなかったら、ゴメン」


「強いていうなら、音楽に恋焦がれて、って感じかな」


「ふふ!かぁっこいい!!」


 それから僕たちは自分たちの音楽———生き甲斐———を披露しあって、昼休みを過ごした。


「センパイ」


「うん?」


「明日も一緒に音楽していい?」


「うん、いいよ。楽しみにしてる」


 天音ちゃんは「やったぁ!!」と可愛くはしゃいで、僕に手を振りながら自分のクラスに入っていった。

 僕も彼女に手を振ってから、自分のクラスに戻った。


 ドラムを一心不乱に叩くキミも好きだ。

 でも、音楽好きの普通の女子高生のキミも好きだ。


 嗚呼、これが、恋か。


 僕は、恋心を再確認すると、授業中も作曲に没頭し、担当の先生に怒られた。


 次の休憩。

 いつもなら僕のこういうドジを逸早く揶揄いに来る清瀬の様子がおかしく、僕は不思議に思いつつ、また作曲をしていた。


—第四話 了—


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