第五話 パーティ結成
「ぐぐっ…、嬢ちゃんすまなかった……、ゆるしてくれ」
「は、はい!それより大丈夫ですか!?」
「すまん、力加減を失敗してしまった」
「お前、さっきのは本気じゃなかったのかよ……」
バレてしまった。全力ではなかったが別に力を抜いていたわけじゃない。力加減が出来なかっただけだ。全力で剣を振るったらどうなるか、俺にも分からなかったんだ。
上手く加減出来ていたのに、こんなところでやってしまった。
「それで、どういうことなんだ?」
「イテテテ…。それがな、最近、街道に厄介な魔物が現れてな。人を襲うが、なぜか殺さない。馬車を破壊したり持ち物を盗んだりする妙なヤツだ。これが中々強くてな、手こずっている。そこでお前に頼みたい」
「人を殺さない魔物?そんなの聞いたこと無いが」
「俺もこれまで聞いた事が無かった。まるで遊んでいるみたいに荒らし回っているんだ。だから初心者が街道に行くのは止めていたんだがな」
あぁそれでエリスが心配していたのか。まぁフィリアにも事情があるんだろうが、件の魔物じゃなく無関係なダスクウルフに食われかけている様じゃあな。
「俺がいく理由は?」
「並の冒険者では歯が立たん。仕方なく俺が出るつもりだったんだが、お前なら大丈夫だろう」
「あんたがいきゃいいじゃないか」
「俺は…、長時間行動するのはきつくてな」
「ロイドさんは大きな負傷をして、有望な冒険者だったのに引退しているんです」
エリスが付け加えた。ロイドはまだ30前って所だろうに勿体ないな。戦士ならよくある話だが、本当に惜しいことだ。
「まぁそういう理由でな。ギルドの面子としても行ってもらいたい。それに、賞金も悪くないぞ」
ロイドはにやりと笑う。
賞金か。ダスクウルフを売って手に入れた銀貨3枚の他に路銀は0だ。当時の俺は路銀を持って無くて何度も死にかけたんだよなぁ。
それと他に試したいこともある。何時でも誰にでも試せるってわけじゃないんだ、この機会を利用しておくべきだろう。
「……分かった。ただ、一人で行くつもりはない」
「ほう?」
ロイドが興味深そうに眉を上げる。俺は後ろに立つフィリアへ振り返って伝える。
「お前も来い」
「えっ!?」
突然の指名に、フィリアは目を丸くして驚いた。エリスも眉をひそめる。
「待って、フィリアを連れて行くの? まだ駆け出しなのよ?」
「分かってる。けど、フィリアには来てもらいたい」
「でも……私、まだ戦えないし……」
フィリアは不安そうに呟く。
「それでもお前が必要なんだ。お前のことは俺が必ず守る」
真剣な目でフィリアを見つめた。俺のまっすぐな視線に、フィリアは顔を赤らめて目を逸らす。
「……そんな風に言われたら、断れないよ」
「ちょ、ちょっと!どうしてそうなるのよ!」
エリスが慌ててツッコミを入れるが、フィリアは頬を染めたまま俯いてしまった。
「わかりました!それなら私も同行します!」
「エ、エリス?」
「私も以前はD級の弓士でした。ガルドさんは守りが上手いようですので、弓士なら動きやすいでしょう」
「いや…、嬉しいが今回はフィリアだけで――」
「私も行きます!フィリア一人をそんな所に行かせられません!」
フィリア一人じゃないだろ。って、これもしかして俺も危険の一つとして数えられてるのか!?
「何か誤解があるのでは――」
「いいですね!?」
「はい」
こうして一行の同行が決まった。
◇◆◇◆◇
特別依頼ということで、中古の剣と訓練場の盾を借り受け、ギルドが手配した馬車に乗り込むこととなった。
ロイドが見送りながら、腰をさすりつつ肩をすくめる。
「俺も一緒に行きたいが……この腰じゃ長時間の行動は厳しくてな。しっかりやってこいよ」
「あんたが来たら楽そうだったんだがな」
「ハハ、勘弁してくれ。ま、せいぜい頑張れよ」
軽く手を振り出発した。馬車は魔物が現れた地点へ向けて街道を進んでいく。
馬車が揺れるたびに、座席に腰掛けた俺たちの体がわずかに弾む。
外の景色はゆっくりと流れ、町の喧騒はもう遠くなっていた。馬車の中は静かだったが、どこか落ち着かない空気が漂っている。二人共、これから向かう討伐のことを考えているのだろう。
さて、大事な話しをしなくちゃな。と思っていたらエリスが先に沈黙を破った。
「……じゃあ、まずは私から自己紹介しておくわね」
彼女はそう言って、少しだけ姿勢を正した。
「エリス・ロウラント。18歳、元D級の冒険者よ。まあ、ちょっと前に辞めちゃったんだけど……」
どこか気まずそうに、視線を逸らす。フィリアも知っていたのか、何も言わずにただ頷いた。
「理由は……その、パーティが解散したの。魔物に襲われて、仲間が……」
それ以上は言わなかった。まぁ、言いたくないことだろう。
「それで、しばらくは普通に他の仕事をしてたんだけど、ギルドの受付を手伝うようになって……まあ、そんな感じ」
彼女は軽く肩をすくめて、話を終えた。俺は短く頷く。
エリスの目が過去を振り返っている間に、フィリアが勢いよく手を挙げた。
「次は私ね!」
彼女は前のめりになって、元気よく話し始める。
「フィリア・アルステッド!16歳、魔法使い志望の見習い冒険者!」
その元気さとは裏腹に、次の言葉には少し影が落ちた。
「えっと……うち、家族がちょっと大変でね。お父さんは怪我しちゃって、お母さんも体が弱くて。弟もいるんだけど、まだ働けないから……私が頑張らないとって思って」
「……そうだったのか」
俺が言うと、彼女は少しだけうつむいたが、すぐに顔を上げた。
「でも! いつか魔法をちゃんと使えるようになって、家族を助けられるようになりたいの!」
明るく笑うフィリアに、エリスも「うん」と小さく微笑んだ。
話が一段落したところで、二人の視線が俺に向かう。
「じゃあ、次はガルドの番ね」
エリスに促され、俺は少し考えた後、話し始めた。
「俺はガルドリック。生まれは田舎の貧乏農家だ。兵士になりに行く途中で冒険者になった、ってことになってる」
「ってことになってる?」
フィリアが首を傾げた。こういう動きが妙に幼い娘だな。
「まあ、それはいい。それより、二人に頼みたいことがあるんだ」
俺は少し間を置いてから、まっすぐに二人を見た。
「俺には……ちょっと特殊な能力がある」
二人が静かになる。
「パーティ機能。俺を中心に、パーティを組むことができる能力だ。特別な魔法の様なものだと考えてくれ」
「パーティを組む……?」
「冒険者パーティのそれとは少し違う。魔物を討伐した時に一緒に強くなったり、互いの状態をある程度把握したりできるらしい。詳しいことはまだ試せてないが……だから、試したい」
二人の反応を見る。
エリスは慎重に俺の言葉を吟味しているようだったが、フィリアは純粋な興味を持った様子だ。
「やってみようよ!」
「でも、どうしてそんな力を?」
エリスの問いに、俺は肩をすくめる。
「さあな。自分でもわからない。でも、使えるなら使いたい」
二人は顔を見合わせた。沈黙が流れる。
「もちろん、このことは他言無用だ。絶対に口外しないでくれ」
俺は少し強めの口調で言った。
「……わかった。私は言わないわ」
「私も!」
二人が頷くのを見て、俺は小さく息を吐いた。
「ありがとう」
よかった。二人共納得した上で突っ込まずに居てくれるようだ。パーティを組んで戦うと強くなると言えばすぐに勇者の能力だと気づかれる可能性もあったが、勇者はまだ召喚されていないんだ。昔話の勇者の能力なんて当時は俺も知らなかったしな。
「でもガルド。どうしても聞いておきたいことがあるの」
「ん?なんだ?」
「ガルドって何歳なの?」
「なんだ、ちょうど今日が15の誕生日のはずだ」
「歳下じゃん!うそ!?」
「若いとは思ってたけど……」
「そんなにか?」
エリスが顔を背け、フィリアは哀れみを籠めた眼でこちらを見る。
「少しおじさんっぽいと思ってた」
うるせぇな。俺だってムキムキの体にもどりてえよ。
そんな俺達を乗せて、馬車はぽこぽこと進んでいく。