第30話 獣人の国へ
年が明けて、初星歴1652年。
今日も朝から、俺たちは冒険者ギルドへ向かっていた。
寒い日が続く。王都も静かな日が多くなったが、冒険者の仕事に季節は関係ない。
「はぁ~、寒い……風呂入りてぇな」
フォルクが肩をすぼめながら、情けない声を上げる。
「同意だ。もう少し安けりゃな」
俺も思わず同調する。しかし銀の月亭は4人で一泊金貨2枚。高い。
いつもの宿なら、7泊分の宿代と朝晩の飯までついてくる金額だってのに。
「お前たちと一緒に風呂に入る趣味はない」
セオが、寒さもどこ吹く風といった顔で言い放った。
こいつはずるい。なんと、自分で魔法を使って暖を取れるようになっているんだ。
俺も欲しいぞ。
「うぅぅ……さむい……」
横でウィーが震えている。
「だから、もっと厚着しろって言っただろ」
「うぅぅ……でも……」
なんでもこだわりがあるらしくて、厚く着込むのは嫌らしい。
ちゃんとした服をセオに頼んで魔導糸で加工してもらえば、ずっと暖かくなるんだがな。
俺たちはそれなりに防寒しているが、それでも顔に当たる風は容赦ない。
冷たい空気が骨の髄まで染みる。
「アルシアさんも寒がりだったなぁ。エルフの国って、もう少し暖かいのかな?」
「さあな。薪は沢山ありそうだ」
アルシアは正式に仲間になってくれた。
だが、俺の話を国へ持ち帰るため、今は一時的に旅立っている。
大っぴらに広める気はなかったが、かといって隠す理由もない。アルシアがそうするべきだと言うならそれでいいんだろう。
ギルドに着いた俺たちは、4人で掲示板の依頼を探す。
最近は討伐だけじゃない。護衛や調査・調達依頼も受け、少しずつ名を売っている。
焦る気持ちがないわけじゃない。
もっと手っ取り早く、力を示す方法もあるかもしれない。
それでも今は、一歩ずつ進んでいると思いたい。
厳しい冬が続く。春はまだ遠い。
掲示板を睨みつけていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはようございます、ガルドさん。受けていただきたい依頼があります」
振り返ると、そこにはディーネがいた。
「ディーネさん!おはようございます!」
フォルクが即座に声を張る。反応が速い。
「あぁ、おはよう。どんな依頼なんだ?」
フォルクは相変わらずディーネを意識しているようだ。だがこいつはアルシアにもそうだし、たまにウィーまでチラチラ見ている事がある。彼女はまだ子供だろう、変なことをしたら遠慮なくぶん殴るつもりだ。これ以外では頼りになる男なのに、思春期というのは困ったもんだ。
ディーネは、俺たちに向かって淡々と依頼内容を説明し始めた。
「商団の護衛依頼です。西のハーグレイ侯爵領を越えて、ザラディア獣王国まで。ギルドの最高戦力として指名されています」
ザラディア獣王国。
アウステルでは珍しい、獣人たちが築いた国だ。
うろ覚えだが、長らく敵対していたものの、今から数年前には停戦しているはずだ。軍縮している今なら尚更、友好が重視されるのは不思議じゃない。
……もっとも、根っこの部分でわだかまりが消えたわけじゃないだろう。
「ザラディアまで?大分かかりそうだな。何故戦力が?」
「魔馬を使って片道十日を予定しています。隣国の王家への友好の品を運ぶそうで、強者を連れて万全を期す事が礼儀になるんだとか。引き渡しは国境を超えた先の領主ですので、あちらの王都まで移動する必要はありません」
「十日か。……最高戦力ってのは光栄な話だな。みんな、どう思う?」
「俺はなんだっていいぜ」
フォルクがあっさりと答える。
「ザラディアか、行った事が無い。見てみたいな」
セオは好奇心を刺激されたようだ。
「獣人って温かいのかな…」
ウィーは寒そうにしながら妙な期待を口にした。
「問題ないなら受けよう。久しぶりの大きな仕事だ」
「ありがとうございます。それでは、詳細をご説明しますので、こちらへ」
ディーネに案内され、ギルド内の個室へ移動する。
依頼主はバルタザール商会。商会の護衛が十二人、非戦闘員が御者を含めて七人、馬車は四台。車列を守るためには騎乗していく必要があるな。俺達ならいざという時は走るほうが早いが。
「護衛がこれだけいるのに、さらに冒険者まで呼ぶのか。ずいぶん念が入ってるな」
俺がそう言うと、ディーネは静かに微笑んだ。
「ガルドさんの評判を聞き及んでいたようです。報酬は金貨八十枚、成功報酬が金貨百五十枚です」
かなり高額だ。
だが、大手の商会にとっては、こんなものかもしれない。
馬や旅の消耗品だけでも結構な費用がかかるしな。
「事前の顔合わせはありません。出発は三日後の早朝。ギルドに集まっていただければ大丈夫とのことです」
「分かった」
顔合わせ無しか。少しずつ引っかかる部分がある依頼だが、商会との縁が出来るかもしれないし、大きな仕事だ。
「必ず成功させる。安心して待っていてくれ」
「はい、頑張ってください」
俺が力強く告げると、ディーネは柔らかく微笑んで、静かに頷いた。
「………寒いよガルド、温かいところに行きたいな」
「ん?そうだな。では三日後に。俺達は遠征の準備をしよう」
フォルクが俺に対抗してディーネにアピールしているが無駄な事だ。彼女のようなタイプには軽い言葉を並べても効果はないぜ。あの微笑みを見ただろう?そろそろ諦めろ、彼女は確実に俺に惚れている。
戻ったら食事に誘おう。ザラディアで土産も買ってこないとな。
ギルドを後にして遠征の準備をする。
とは言え、必要なものはだいたい揃っている。
食料や水はギリギリに買いたいし、今すぐ揃えるってものでもない。
今やるべきは、馬や馬車の予約、それと装備品の点検や補修が主だ。
「馬車は無くてもいいかも知れないが、二十日も旅をするなら一台引いて行こう」
「交代でも暖かい場所で寝れる方がいいな。セオ、暖房頼むぜ」
「……仕方ないな」
「俺とフォルクは騎乗するぞ。御者を雇うか?」
「信頼出来ない人間を随行させるのは歓迎されないだろう。我々でやるしかない」
「それもそうか。セオ、魔糸はまだ沢山あるんだろ?。雨具と防寒具を増やしておいてくれ」
「いいだろう」
「それじゃあ仕事も決まった事だし、出発までに準備してのんびりしようぜ」
「準備を怠るなよ」
「ガルド、暖かい服を選ぶの手伝ってほしいな」
「仕方ないな。……それじゃあ各自で必要な準備を。夜に宿で再確認しよう」
「おう!」
◇◆◇◆◇
そして出発の日。
「やーやー!ガルドさん達ですね。お噂はかねがね。戦闘力はアウステルでも最高峰とお伺いしておりますよ。しばらくの間、よろしくおねがいします」
やたらと陽気な男が、手を振りながら駆け寄ってくる。
バルタザール商会の商会長、バルタザール・リュケリオスだ。商会長自ら同行すると聞いた時は驚いた。
「こちらこそよろしく頼む。内のメンバーだ」
俺が紹介すると、みんなもそれぞれ簡単に頭を下げる。
「よろしく!」
「………」
「ウィレーヌです」
うーむ。こうして他人に紹介してみると、こいつら結構変人じゃないか?
「みなさん、よろしく。こちらがウチの者たちです。ご挨拶を」
と促され、商会員と護衛たちが順に挨拶をしてくるが――
「よろしくお願いします」
「チッ……」
「うむ……」
「あぁ……」
別にそんな事無かったわ。どちらも似たようなものだった。というかあっちの方が酷いな。
自分たちという戦力がいるのに、更に冒険者を雇うことに反発があるんだろうと思ったが、それにしては張り詰めた雰囲気がある。警戒している?
中にはよく仕上がった奴もいる。そこそこ戦えそうなやつが三人、かなり出来るのが二人。この二人は相当使いそうだ。
「ははは、それでは行きましょう。道中ですぐに打ち解けるでしょう」
「了解だ」
それぞれが分かれて馬と馬車に乗る。
向こうの護衛は五人が騎乗、残りは馬車に乗っている。
多分、道中で交代しながら護衛にあたるんだろう。
こちらは二人が騎乗。フォルクが先頭で俺が中央辺り、セオとウィーの乗った馬車が最後尾につける。
俺たちの馬車を引くのは、前にも世話になった魔馬だ。
久しぶりの再会だったが、どうやら俺のことを覚えていてくれたらしい。
鼻先を押し付けてきて、嬉しそうに甘えてくる。
「おう、元気だったか」
そう言って頭を撫でてやると、鼻をフンフンと鳴らした。かわいいものだ。
……ただし、俺が別の馬にまたがると、じとっとした目で睨んでくるのはやめてほしい。
いや、乗りたくないわけじゃないんだが……お前は馬車担当なんだ。許せ。
「出発!」
商会長の威勢のいい号令が響き、馬車が動き出す。
王都を離れ、西へ。
ハーグレイ侯爵領を抜け、国境を超え、ザラディア獣王国へ――。
寒い冬の旅が始まった。
――――――――――
「西への旅といえばガンダーラ・ブホテル」
「なんいうとんねんゴクウ」
「なぜそのキャラで行けると思ったのか」
「水属性が関西弁のカッパとか終わってますね」
「ばっくばっくばくーん♪」
シャチは☆になったのだ。そして3つの☆が集まる時、新たな伝




