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異世界勇者より地元の重装片手剣の方が強いに決まってるよね! ~巻き戻り脳筋兵士は堅実に最強戦力を育てる~  作者: 無職無能の素人


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第10話 ガルドリックブートキャンプ

さて、感慨に浸っていても仕方ない。ここから始めるんだ、拾えるカードは拾っておかないとな。


「……なあ、フォルクハルト」

「ん?」

「お前、金持ってるか?俺は無い」

「残念だったな、俺も無いから襲うなよ。本当に無い、なんなら今晩寝る場所も無い」


やっぱりな。こいつは金があったら使うやつだ。アテが外れたってなら文無しに決まってる。


「俺は冒険者をしてたんだ。C級でな、ほんの短い間だが、別の街で活動してた」

「冒険者かぁ、兵士になれないなら俺もそうするかな。今から田舎に帰っても邪魔になっちまうからな」

「話が早い、一緒にやるぞ」


フォルクは驚いたように目を丸くしたが、すぐに肩の力を抜いて笑った。


「マジか。こんな出会ったばっかの奴に誘われるとは思わなかったな」

「悪い話じゃないはずだ。こっちも、人手があった方が助かる」

「はは、断る理由もねぇよ。金もアテもないしな。やってみるか、ガルドリック」

「ガルドでいい」

「おう、ガルド。俺はフォルクでいいぞ」


拳を握って突き出したら、上から拳を叩きつけてきた。ちげぇよ拳を付き合わせるところだろ。

これから仕込んでいかないとな。なんせ新兵以下だ、それがお前の為なんだ許せ。


「ギルドは大通りにある。少し歩くが、大きな建物だからすぐ分かる」

「ふぅん、土地勘あるんだな。ここでも仕事したのか?」

「いいや、ちょっと知る機会があってな。中に入ったことはない」

「そうか、それじゃ楽しみだな。よろしく頼むぜC級冒険者様」



道を歩きながら、フォルクはまるで初めて来た子どものように周囲を見回していた。

俺も、この通りを歩くのは久しぶりだ。けれど迷うことは無い。


目指すギルドは、少し先にある。石造りの威厳ある建物。

兵士だったころは、あそこに用があるのは冒険者だけだと思っていた。まさか自分がそちら側に回ることになるとはな。



          ◇◆◇◆◇



「へぇ……思ってたよりデカいな。俺の村にあったのは、酒場に張り紙が貼ってある程度だったけどさ」


フォルクが感心したように口笛を吹く。


「ここには国中の大きな依頼が集まる。各国の支部とも繋がってるからな。人も多い」

「さっすが王都。じゃ、案内頼んだぜ先輩?」

「……ああ」


軽く笑って誤魔化した。

フォルクに冒険者をしてたとは言ったが、実際にはたった一日だけの話なんだよなぁ。たまたまタイミングが合って討伐を依頼されただけで、冒険者の作法なんて知らん。



ギルドの扉を押し開けると、喧騒が一気に流れ込んできた。


中は広く、天井が高い。木材と石材が組み合わさった内装で、重厚感のある梁が印象的だ。

受付カウンターの向こうには仕切られた面談スペース、さらに奥には依頼掲示板と休憩用の長椅子。流石は王都冒険者ギルド、重厚で無駄がない。あの町では酒場が併設されていたが、あれって普通だったのか?


「人、多いな……うわ、あっちの奴、ムチ?あんなのマジで武器にする奴いたのかよ……」

「無闇にじろじろ見るな。揉め事になる」

「お、おう……すまんすまん」


フォルクが肩をすくめて、俺の後ろに下がる。


周囲に目を配ると、依頼掲示板らしき物を見つけた、冒険者の依頼はあそこに張り出されるはず。

この人混みと喧騒――戦場とは違う緊張感がある。俺が勝手に緊張しているわけじゃないと思いたい。


「これが……依頼か。見てるだけで目が回りそうだな」

「場所、報酬、対象……慣れれば要点だけ拾えばいい。俺が見る」


フォルクが身を乗り出しかけたところで、軽く手を挙げて制した。

俺自身も不安はあるが、それを表に出すわけにはいかない。


「……これだな。森で出没する魔物の討伐と調達依頼。『ヴェルクディア』――鹿のような外見で、ジャイアントディアーの上位種。目撃場所が近い、ここから徒歩でも往復一日だな。報酬は金貨12枚」


「金貨12!? 大仕事じゃねぇか! いいのか、そんなの受けて」

「C級から受けられる依頼だ。それに……」


なんて言おうかな。まぁいいか、選ぶような余裕は無いし、往復1日でも平気そうだし。


「俺たちならやれる。二人でなら確実だ」

「そうだな!俺達ならやれる!金貨12枚は俺達のもんだ!」


馬鹿が、普通に考えてやれるわけねぇだろうが。というかお前素手だろ。

この無根拠な自信がド素人のそれだな。田舎で弱いウサギの魔物でも倒して調子に乗ってるやつだろ。


やはり最初に強い敵とぶつけておくのが正解だな。


「そうだ、他人に取られないうちに受注するぞ」

「さすが、頼れる先輩だぜ」


俺は愉悦が込み上げるのを抑えて依頼票を手に取った。

少し震える指先を、フォルクには見せないように。


 

次は受付だ。

美人のところに行けば舞い上がって話が早いだろう。


「依頼票をお持ちでしたら、こちらへどうぞ」


よく通るが、柔らかくて落ち着く声。なぜ冒険者ギルドには美人が集まるのか。

淡い紫の髪を軽く束ねた女性――年の頃は俺たちより少し上か。長い前髪の奥からは、こちらをまっすぐ見る涼やかな目がのぞいている。

うん、間違いなく美人だ。


「うおぉ…まじか……俺冒険者になる!」

「……冒険者登録でよろしいでしょうか」

「よろしいです!お願いします!」


見た目の華やかさに気を取られそうになるが、カウンター越しの彼女の姿勢には一分の隙もない。

若いが、ここで多くの冒険者を相手にしてきた、そんな空気だ。


「それと、この依頼を受けたい。ヴェルクディアの討伐だ」


「確認しますね。……対象は一体、討伐報告と素材の回収が条件となります。受注資格はC級以上――こちらの依頼は新人の方は受注できません」


「俺はC級だ。今日登録するのはこいつだけ」

「……なるほど。同行は可能ですが、討伐報酬の分配に関しては確認済みですか?」

「問題ない。俺が責任を持つ」

「そっか、そういうことになってんのか。よろしく頼むぜ、先輩!」


フォルクが軽口を挟むが、受付嬢の視線はすぐに彼から俺に戻った。


「この依頼、推奨は三人以上のパーティで、獣の習性と森の地形に通じた者が望ましいとされています。期限は5日後、保証金は必要ありませんが、失敗すると降格の可能性があります。……それでも、受けますか?」


「あぁ、受ける」


俺の言葉に、彼女はほんのわずか目を細めた。

だが、すぐに頷くと手元の書類に記入を始めた。


「それでは、登録手続きと受注処理を行います。登録証をお預かりします。少々お待ちください」


サインして終わりというわけじゃないようだ。

保証金なんてあるんだな、そんな仕事を受ける金があるならこんな所に来ないと思うが。

手続きの間、フォルクはそわそわとカウンターの端に寄りかかっていた。


「なぁ、あのヴェルクディアってどんな奴なんだ? 俺、初めて聞いたんだけど」

「ただのデカイ鹿だ。デカくて、早くて、強いだけ。ある意味で初心者向けと言えなくも無いかもしれない」

「なんだ鹿か。それなら故郷にもよく出たぜ。魔物なんだからアレよりはずっと強いんだろうが、なんとかなるだろ。まあ、俺が索敵と後ろからの援護を頑張るからな!」

「頼りにしてる」


その意気やヨシ!



「手続きが完了しました。フォルクハルトさんは仮登録となり、F級の扱いになります。報酬の配分と依頼遂行に関わる責任は、すべてガルドリックさんに帰属します」


そう告げた受付の女性は、書類を手にしたまま俺たちを真っすぐに見ていた。

見た目こそ柔らかいが、その目は少しだけ強張っているようにも見える。


「依頼に記載されている通り、ヴェルクディアは単独行動が基本で、出現場所にもばらつきがあります。個体差も大きく、特に角が発達した個体は危険です。……過去にこの種を甘く見て、命を落とした冒険者も沢山います。注意してください」


「大丈夫だ、問題ない」


「これが依頼受注証です。報告時にはこちらを持参してください。それでは……行ってらっしゃいませ」


彼女の言葉に、ほんの少しの間があった。

優しい女性だ。仕事向いてないんじゃないか?いや、プロに徹してくれた彼女に失礼か。


「行こう。すぐに出るぞ」




ギルドの扉を開け、外に出た。

まだ昼には早い、さっさと出発した方がいいだろう。


「なぁ……あの受付の人、綺麗だったな。なんか、こう……言葉少なだけど、目が真剣でさ。ちょっとドキッとしたわ」


フォルクがぶつぶつと呟くように言いながら、後ろを振り返る。


「気持ちは分かる」

「お、分かる? だよな、だよな! いやー、あれはちょっと反則だよ。あの目、やばいって。なんか、見透かされてる感じで」

「それは思春期だからだ」

「うっせー。そっちが渋すぎるんだよ」


          ◇◆◇◆◇


ギルドを出てそのまま街を出た。

街を出てすぐの時は、まだフォルクは元気だった。


「けっこう飛ばすな、ガルド。バテちゃうぞ」

「まだ散歩だ」

「お、おう」


そのうち口数が減り、顔から血の気が引いていく。

日が傾き始める頃には、俺の背中に向かって何かを呪ってるような目をしていた。

軽装とはいえ、全財産を入れた布袋を背負っている。その重みを噛み締めていることだろう。俺はそれに加えて大盾と大剣を持ってるが


陽が沈み、あたりが月の光だけになる頃には、フォルクはもはや無言。

脚をひきずり、たまに躓き、それでも足だけは止めない。えらい。


俺は歩きながら、こっそり笑いを堪えていた。

これは必要な訓練だ。新兵訓練も受けずに戦士になるなら、これくらいは通過点でなきゃいけない。


「まだ……、まだなのか……?」

「黙って歩け。あと少しで森だ」

「昼間からずっとそれじゃないか」


フォルクが天を仰いでうめいたその時、森の稜線が見えた。


「ほらな、着いた」

「うぉおお……森ぃ……!」


しゃがみ込むフォルクの背中を一度だけ叩き、引っ張り上げた。

まだまだ訓練は続く。


          ◇◆◇◆◇


森の縁に足を踏み入れると、空気が一変した。

日中の熱がこもる王都とは違い、湿った草の匂いと土の冷たさが肌を撫でてくる。

月明かりもほとんど届かない森の中を、僅かな感覚を頼りに進み続ける。夜間行動も当然訓練の内だ。


フォルクはもうアンデッドの様な動きになっていた。

顔は真っ白、口はずっと半開き。それでも休ませることはせず、俺は足元の草を掻き分けて進んだ。


「おい、これ持て。食える」

「……それ草じゃん……」

「野菜だ。こっちは肉だな」

「虫………」


薪と食えるものを拾いながら森を進むうち、適度に開けた窪地を見つけた。ここでいいだろう。

すぐ火を起こし、拾った虫と草を軽く炙る。フォルクはすでに座ったまま半分寝ていた。


「食え。寝る前に胃に入れとけ」

「もう殺してくれ……」


文句を言いながらも、草を噛み、虫を飲み込んだフォルクはそのままぐったりと体を丸めた。

静かな森に、乾いた枝のはぜる音だけが響く──かと思ったが、すぐにそれは破られた。


茂みが揺れ、唸り声が近づく。俺は反射的に立ち上がる。


「……来たか」

「んあ……え、なに、なんか来てない!?」

「ほら武器」

「木の棒じゃん!!」

「お前、素手で行くのか?」

「無茶言うんじゃねぇよ!!」


          ◇◆◇◆◇


フォルクが棒を振り回して走り出してから、ほとんど夜通しだった。

騒ぎを聞きつけたのか、夜の森はやたらと活気づいていた。

牙を剥く小型魔物、木の上から降ってくる鳥もどき、果ては目の数が合わない謎のナメクジまで。


俺は火を絶やさず、時折飛び込んでくるやつを蹴り飛ばしながら、フォルクの悲鳴と足音を確認していた。


「うわっ!それ何!?ちょ、待て、お前飛ぶの!?飛ぶのはずるい!!」

「下から払え。下から。あと叫ぶな。遠くからもばれる」

「バレてんじゃん!!全部来てるじゃん!!」


元気だな。いいことだ。いい兵士は諦めないんだ。


ようやく空が白み始めた頃、音が少しずつ遠のいた。

魔物たちも、夜の支配者じゃなくなったらしい。


「はあ……はあ……やっと……やっと死ねる……」

「生きてる。動ける。なら休め」

「うぅ……俺、街に帰るわ……冒険者、無理だわ……」

「まだ一歩目だ」


フォルクは火のそばで丸くなり、虫と草を詰め込んだ袋を枕にする。

寝返りのたびに「パリッ」と音がするのは気にしないことにした。


朝日が木々の隙間から差し込み、湿った空気が少しだけ和らいだ。

俺も少しだけ目を閉じた。ほんの一刻だけ、体を休めた。


          ◇◆◇◆◇


温かい空気が少しずつ森を満たしていく。


俺は消えかけて燻る焚き火のそばで目を覚ました。眠ったのはほんのわずか。だが、今はこれ以上眠っていられない。


静まり返った森の中、剣を膝に置いたままそっとステータスを確認する。

レベルが5つも上がっていた。まぁ、あれだけ戦えば当然か。


 ――――――――――

 名前:ガルドリック

 年齢:15歳(23歳)

 職業:勇者

 レベル:5 → 10

 HP: 4320→ 5220

 MP:1640 → 1690

 耐久:273 → 423

 筋力:251 → 361

 敏捷:165 → 240

 知力:199 → 254

 魔力:280 → 305

 幸運:10

 スキル習得:「グローリアスタッチ」

 スキル:「勇者の適応」「ステータスリード」

 ――――――――――


ちらりとフォルクを見る。焚き火の残り火に顔を照らされながら、泥だらけで丸まって眠っていた。

あえてパーティは組んでいない。レベルアップで力だけ先行するより、まずは身の丈を知れってことだ。

悪いな。けど、お前のためだ。夜の森の恐怖、魔物の強さ、それらを知らないままでは強くなれない。


俺は枝を拾い、フォルクの頬を軽く突く。


「おい、起きろ。寝てる間に襲われたら死ぬぞ」

「……っつ……もうちょい……」

「目標の痕跡を探す。立て、兵士様」

「兵士じゃねぇし……」


文句を言いながらも、奴はよろよろと立ち上がる。目の下にクマ、足取りはガタガタ。

それでも、その顔はやる気だ。いい根性してる。


「ヴェルクディアの痕跡を探す。俺は追跡が得意じゃない。頼りにしている」

「マジかよ……地味に責任重大……」


二人で森を進む。落ち葉をかき分け、折れた枝や踏みしめられた草を確認するが――手がかりらしい手がかりは、なかなか見つからなかった。

湿気で匂いもわかりにくい。虫はやたら多い。木の根に引っかかって転んだのは三回目。


「くそ……どこにいんだよ……」


何度もぼやきながら、それでもフォルクは歩き続けた。


そして数時間後。


「……あ、ちょっと来てくれガルド」


俺が近づくと、倒れた木の脇に指を差す。


「この枝……明らかに蹄のあとで踏まれてる。見ろ、あそこ、皮が擦れてる」

「……ああ。やっと見つけたな」


周囲には踏み荒らされた痕、削れた幹、鼻を突く獣の匂い。明らかに巨大な生物の痕跡だ。

フォルクの眼は正しかった。


「やった……! ……うわ、足つった!」


倒木に腰かけようとして、フォルクが盛大に転んだ。


「……よくやった。さあ、準備を始めよう」


俺は手を差し出し、フォルクを引き起こした。

ここからはお楽しみの時間だ。



「ひと狩り行こうぜ」

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