夢幻世界
時々憂鬱な夢を見ることがある。わたしは右も左も、上も下も分からない空間の隅で大の字になるように横たわっている。何も見えない、何も感じない。真っ暗な視界、自分の背中を圧迫し続ける浮遊感、それでいてわたしの全身を包み込む暖かさ。人肌を思わせるその温もりは反吐が出るほどに不快だ。それでもわたしはこの空間に一抹の居心地の良さを感じている。というより、どうしてもこの空間から出たくない、そう漠然と感じている。先ほどからわたしの背中をしつこく圧迫し続ける浮力と思われる力は、わたしをこの空間から引きはがそうとしているようだ。何度同じ夢を見て、何度この空間に迷い込んだことか。真っ暗で、鼓膜を震わす音も淡くて、常にわたしを圧迫する空間。わたしはただ下を向き、体を丸めてうずくまるだけ。毎回同じ退屈で憂鬱な夢。しかし今回は何かが少しだけ違う気がした。どこからか視線を感じた気がしたのだ。わたしは体の向きも顔の向きも判然としないまま、視線を感じた方向を横目遣いに見つめる。その瞬間、わたしは眼前に広がる景色に息をのむ。そこにはまばらに広がる無数の光球が各々程度の差こそあれど、煌々と光を発していた。まるで自分の存在を必死に主張するように。わたしはその光景のあまりのまばゆさに思わず目を細める。瞼越しにも容赦なく私の眼球を刺す光の束。それでもこの空間はどこまでも暗い。もはや目を開けているのか閉じているのかもわからない。取り乱しそうになるほどに眼球がズキズキと痛む。それでもわたしは必死に光の輪郭を捉えようと圧倒的な光量に目を凝らす。先ほどから不快感を伴って感じる視線はますますその強度を増していく。わたしの網膜がその役割を果たさなくなったのか、単に目が慣れてしまったのか先ほどまでの苦痛が徐々に和らいでいく。一粒、二粒、目を開くほどに視界に姿を現す光球の数々。自身を飲み込もうと迫る深い闇に争っているような必死さ。それでいて無抵抗に体を漂わせることしかできない滑稽さ。わたしは呆然とどれも似たように見える光の玉を見比べていく。すると、わたしよりはるかに遠くのぼやけた空間に佇む一つに、目が引っかかった。周りの球体が煌々とした光を発する中、それはただ一つ水に滲む墨汁のような、今にも消え入りそうな弱々しい光を発していた。居場所を求めるような、ビー玉に手を伸ばす純朴な子供のようなその様子に違和感を覚える。なぜだか、その淡く弱々しい光と視線が交わっている気がしてならないのだ。不快。どこまでも暗くてどこまでも空虚、そしてこの上ない孤独な空間でなぜ他者の息遣いを感じないといけないのか。あまりにも呪われた自分の運命にうんざりする。わたしが心を許せるのはこの偉大な深淵のみ。再び瞼を下ろし果てのない闇に向きなおりかけたその瞬間、一筋の光が闇を刺した。ハッとして辺りを見渡すと、その光源に向け一粒の光球が楕円に形を変えつつ吸い込まれていくのが見える。かと思えば光の筋はノイズが入るように消え入りまた元通りの退屈な風景。もう無駄に思考を巡らせるのも無駄であり、疲労を積み重ねるだけに過ぎない。遠くのぼやけた空間に視線を戻すと、先ほどまで必死にその頼りなさを滲ませていた淡い光は姿を消していた。




