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ウサギのアキレスとカメのゼノン

作者: 壊れた靴

 ある小さく美しい島に、たくさんのウサギと、同じくらいたくさんのカメが住んでいました。

 ウサギはそのすばしっこさで、カメがすみかを留守にしたとたん、それをウサギのものにしてしまいます。

 すっかり住む場所が少なくなってしまったカメたちは、彼らのうちで一番のおじいさんである、ゼノンに相談することにしました。

 カメたちが、青空の下、草むらに暮らすゼノンを訪ねます。

「ゼノンおじいさん。このままではぼくたちは、住むところがぜんぜんなくなってしまいます。どうか、よい方法を考えてください」

 ゼノンはゆっくりと、自分の頭をなでながら答えました。

「あい分かった。それでは、ウサギたちで一番えらいのを、ここに連れてきなさい」

 カメたちは、言われたとおり、ウサギを連れてきました。アキレスという、他よりもひと回りもふた回りも大きなウサギです。

 アキレスは力強く言いました。

「ノロマなカメどもよ。今すぐに降参すれば、少しはお前たちの住む場所も残してやろう」

 ゼノンはゆっくりと答えます。

「アキレスさん、わたしたちはたしかにノロマですが、競走したら、あなたはわたしに追いつくことはできないでしょう」

 アキレスは怒ったように言います。

「どうしてそんなに自信があるのか、聞いてやろう」

「あなたがどれだけ速くても、わたしが居た場所に着くころには、わたしは少しはそこから進んでいるでしょう。あなたがまたその少し進んだ場所に着くころには、わたしもまた少し進んだ場所にいるでしょう。だから、あなたはいつまでも追いつけないのです」

 アキレスはむしろバカにしたように言います。

「そんなことがあるはずがない。それでは競走しようではないか。おれが勝ったら、お前たちはこの島から追い出してやろう」

「分かりました。わたしが勝ったら、この島の住む場所は、ウサギとカメで、きっちり半分ずつにしましょう」

 アキレスはしっかりとうなずきました。ゼノンはゆっくりと、遠くに見える大きな木を指さして言いました。ここから木までは、背の高い草むらがずっと続いています。

「スタートはここから、ゴールはあの木までとしましょう。それから、わたしはあなたの足一つ分だけ進んだ所から始めさせてください」

「よかろう。それでは明朝、競走するとしよう。この島のみんなに、お前が負けるところを見せようではないか」

 アキレスは高笑いしながら去っていきました。

 心配そうなカメが、ゼノンに言います。

「ゼノンおじいさんが言うことは分かるのですが、あのウサギが言うように、ぼくにもゼノンおじいさんが競走で勝てるようには思えないのです」

 ゼノンは安心させるように笑うと、自分と背格好のよく似たカメを手招きし、他の誰にも聞こえないよう、こっそりと耳打ちしました。


 明くる日の朝、競走の時間がやってきました。抜けるような青空の下、スタート地点の周りには島中のウサギとカメが集まり、それぞれに応援の声を上げています。

 スタート地点に立つアキレスからは、一歩先にいるカメの後ろ姿が、草むらにさえぎられてようやく見えるばかりです。アキレスは自信たっぷりに言いました。

「せいぜい良い勝負にしようではないか」

 カメから言葉が返ってくることはありませんでした。アキレスは感心したように呟きます。

「勝負に集中するとは、見上げた心がけだ」

 アキレスは表情を引き締めると、まっすぐゴールの木をにらみつけました。

 そして、いよいよスタートの合図が出されました。アキレスはゴールをにらみつけたまま、矢のように飛び出しました。

 アキレスは全部をスタート地点に置き去りにして、駆け続けます。

 あっという間に、アキレスはゴールにたどり着きました。

 しかし、その時、木の根元からゼノンの声が響きました。

「アキレスさん、私に追いつくことはできなかったようですね」

 驚いたアキレスが見ると、そこには間違いなくゼノンの姿がありました。

 アキレスは、荒い息を吐きながら、がっくりと肩を落としました。木の根元ではゼノンが笑顔でアキレスを見つめています。

「それでは、みんなを待ちましょうか。それから、みんなの前で、しっかりと約束してください」

 ゼノンの言葉に、アキレスは力なくうなずきました。

 しばらくして、ウサギが集まりました。

 カメが集まるころには、日はとっぷりと暮れていました。

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