#15 球を打ってみよう
小学校、俺は学校外のやきゅーの部活に出る為に、海佐中央駅からしばらく車で揺られ、富田市までやってきた。
「大和、応援してるから」親父が声かけしてくれた。今日はマラソンと、投球だ。シーライドの18番のユニホームを着て、練習を始める。
「大和、球速測るから」この時身長130cm俺は時速100キロの投球をした。監督が、やっぱり大和はすごいなっていわれ、よくわからなかったのを覚えている。
友達と呼べる人がいなくて、買い食いも家に友達を上げるのも、公衆電話も、全部規制されていた。その時はやきゅーの練習に没頭した。
テントの中で昼休み。みこの特製のご飯だ。俺は1人端っこで食べた。「おうおう、大和」振り返ると、ダイキが一緒にご飯を食べようと言っている。
「いいよ」昼休憩を楽しもうと後ろを振り返ると、親父が、怒りそうな顔をした。「ごめん、学校でまた話そ?」といい、親父の前でやきゅーについて話した。
投球フォームとか、色々教えて貰う。俺は、一体何をしたいだ?とかそんなことを考えるより、野球に没頭した。
明くる日、富田レッド(少年やきゅー)チームとの試合があり、俺は富田市のちっちゃなやきゅー場に集まった。この時からピッチャーだ。バッテリーのカナヘビくんと主に部活外で投球の練習したり、家の前で遊んでいた。家に上がらせないなら、家の外で遊べばいいじゃんっていう逆転発想をその時から覚えていた。
富田レッドの試合は、負けたが、いい結果を残せた。6点を取り、最後はさよなら勝ちされてしまった。昔っからそうだ。俺の投球が悪いのか、運がついてないだけなのか、少年の俺にとっては考えられないことだった。まーいいっか。泥だらけのユニホームを着たまま、車に乗り、家に帰る。カナヘビくんは例外に、家の前でやきゅーの練習するならいいよとの事で、一緒に笑いながら家の外で勉強会を開いていた。
シーライドの俺が地域対戦の時は必ず俺のそばでカメラに撮られる。たまに悪ふざけで、カメラに直撃させた事がある。その時から打つ方向をコントロールしていた。どれだけ力を込めればどっちに飛ぶとか。
家族中は結構悪かった。俺の知らないところで、家族喧嘩が繰り広げ、お母さんが家出をする事が結構あり、その時には知らない男の人がお父さんと2人で酒を飲んでいる。カナヘビくんと家の外で練習。夜になったら解散。
小学6年生になる頃には、有名人になっていた。春祭に勝手にチビの選抜チームが立てられ、シーライドから俺とカナヘビくんが一緒に選抜された。特注のユニホームにまとわり、俺らは1番 KAIと書かれた服を着た。「大和、今日もいつも通りの投球をお願い」安心する。春祭の同じ学校の人たちが観戦に来る。橋元口野球場まで、きっかり運賃を渡された。お弁当も一緒だ。
お昼。防具をまとったカナヘビくんとご飯を食べる。「俺さ、海佐西中に行くんだ。お別れだね」この別れ話を持ち出され、俺は結構ショックだった。
俺らはさよならまで、一生懸命取り掛かった。6年の最後のやきゅーで、さよなら勝ちし、みんなにわーって言われて、みんなとさようならをした。
中学に上り、やきゅー部に所属することにした。俺はシーライドの18番ってやきゅー服を着て、最初の顔合わせに参加した。顧問がまさかの大和くん?と言ってたので俺だよ、と言った。そのあとはメンツを組む為に俺らはそれぞれ所定の位置についた。まず、別の少年やきゅーに所属していたかめかめとバッテリーを組むことになった。相性抜群。ただしやきゅーボールを握らせてもらうまで半年はかかった。この時球速130キロ毎時、この時身長150cm。俺たちは学校のバスで、富田市まで移動した。
海佐南中と海佐西中の合同練習だ。カナヘビくんを見つけるとすぐに挨拶に行った。「元気してた?」俺らはコーチが見てないところで懐かしの投球をしていた。「あいつ相手中と仲良くボール投げてるし」とかうわさされてたのは確かだ。
試合になると、1年はほぼベンチで、2年3年の試合を見ていた。相手チームの選手交代で、カナヘビくんが出る時に、昔のノリでグラウンドまで行きそうになった。
俺は、次の回で打つ。「いつも通り打てば勝てるよ」とカナヘビくんがアドバイスをしてくれた。
「ありがとう」
俺はストレートを打ち、やっぱり場外まで光を放った。「よくできましたね」とカナヘビくんがいう。今日はうちの中学の勝ちだ。
夜ご飯をみんなで食べる。相手中との親睦を深める為らしい。俺はカナヘビくんの隣。フォームの修正とか、打ち方を丁寧に教えてもらった。
学校に行くと、後ろからボールが飛んできた。いつも通りキャッチすると、「お前に脳震盪させる為に投げたんだよ、やきゅーバカ」ん?いじめられてる?」俺は教室に入ると、教科書がビリビリに破かれてた。多分あいつのせい。先生に事情を話す。「わかりました。いじめとして学校が対処します」学校側からサポートを受け、いじめを受けることはなくなった。だけど、メモばっかりしてた教科書が全部なくなった。
部活に出る。俺は時間が過ぎていくのを待ち、部活にいそしんだ。「じゃー今日はここまで」マネージャーの男子が、飲み物を持ってきた。俺は家に帰りたくないので、グラウンドの端っこで地面を眺めていた。
「甲斐くん、どしたの?」家に帰りたくないんですと言った。
次の日。痛い思いをし、泣きながら学校に登校する。欠場令が出た。一番の楽しみだったやきゅーからしばしお別れ。リハビリが終わるまで、欠場だ。「甲斐くん、骨折した?」うんお家に帰りたくないんです。と顧問に言ったら、どこかへ連絡している。「大丈夫」
それから明くる日。骨折も治り、欠場令が取り消しになり、しばらくぶりの投球だ。「大和、やっぱりすげー」「でも欠場明けでしょ?」俺はずっと周りの事から離れる為に、身を削りながら、やきゅーをする。高校は部活推薦だな。
2年の春祭に、ピッチャーとして出場。海佐南中のKAINANと書かれたユニホームに、引き継がれた18番という番号。KAIと書かれた背中。みんなの注目の的。
試合は相手校をアッと言わせるほど圧勝。俺はやっと本調子になったと実感した。適度に水を飲み、春祭は無事優勝というなの閉場だ。夏は体力作りの水泳、ボール投げ、筋トレだ。冷房のよく効いた室内、不快度指数高めな体育館。
俺は家より、学校にいる時間の方が長くなり、家族と過ごさなかった。親父は勝手に離婚。みこは派遣バイト。俺はなんとしても学校にいる時間が好きだった。無駄な努力をし、成績は可がたくさんつき、やきゅー推薦で海佐西高校に進学した。
「俺、大和、ピッチャーだ、よろしく」みんなははてなを浮かべているのは確か。それでも俺と友達になりたい変な子は居た。「友達になろ、ハルト!」ここで彼と知り合った。
「む」目が覚めた。ハルトの大きな体は俺のとっての幸せだ。
カナヘビくん、やきゅーやめちゃったかな。ふとスマホに電話かかってきた。早朝なのに。「マネージャーの岩野です。大和くん。お久しぶり」ちょっと声は違うけど、喋り方でカナヘビくんだとわかった」カナヘビくん、まだやきゅーやってるんだ。
朝食を作りにいく。今日は卵焼きだ。味噌汁を作って置いて、保温。仕事前の朝練に出発する。どう足掻いても5時には到着できない。今日の練習場所は鮫井だ。山田川まで向かい、一番早く着く鮫井行きに乗り、練習場に来た。「カナヘビくんだ。おっさんになったね」
「そのバット、まだ使ってるんだ」やきゅーをするのに歴代のやきゅーバットと同じ作りのバットを用意してるだけ。外観は同じだけど、中身も大体一緒だ。今度はカナヘビくんをうちにあげられ?浮気と勘違いされるか。
7時になったので、仕事場所まで向かう。マネージャーが、往復運賃を手配してくれるので、切符を受け取り、山田川に向かった。
更衣室のロッカーの中にやきゅー道具とバットをしまい、お立ち台に立ち、今日の業務に着く。また遅れてるし。神殿から元口間がお客様トラブルで運休。山田川を発射する全便が、神殿行きだ。無論各駅停車。
ハルトがラウンジの壁に寄りかかって寝ている。9時代の特等の切符を持った人らしき人物がハルトになんか言ってる。そのうち、列車は通常通り運転再開だ。
今日のやきゅーはおやすみ。餅鍋温泉で休暇。俺はターーー独りバッティングセンターに行き、のんびりする。海浜フェニックスの練習にこっそり混じり、ウォーターズのユニホームを着る。「ねー大和が混ざってるよ」みんなが気付き、俺は放り出された。偵察活動、いいかもね。
ハルトから電話だ。「ワクドナルド買ったから帰ってこい」俺は待ち人がいる家に早足で帰る。
「カナヘビくん、俺背中に絵があるから、温泉行けない」あら、じゃー飯にしよう。
家にカナヘビくんが来た。「どうも、岩野です」ちょうどカナヘビくんもワクドナルドの袋を持ってきた。ウォーターズのメンバーになってから、水曜日と日曜日が部活の日と決まっている。ウォーターズの人たちは月曜から火曜にかけて夜勤、木曜から金曜にかけて夜勤。週休3日だ。土曜にコンサータをもらいにいく。朝練は鮫井。マネージャーが鮫井から、山田川までの回数券を押さえている。「そうだ、カナヘビくん、グリーン飲む?」と聞いてみたら、下戸なのでと言うので、渡さなかった。
次の合同練習は、海佐運輸区の海佐スチールだ。ばちばちの火花を散らす試合もあれば、仲良く練習する時もある。
「ごめんね、ハルト。やきゅーが忙しくて」ハルトは笑顔で応援してるよ。と言った。カナヘビくんが帰り、俺らは風呂に入った。
「お腹痛いんだけど」毎回だね。今度はお尻で果てたよう。そのまま布団で眠りにつく。
「ふ」ハルトに起こされずに起床した。あれからハルトは自分で起きろと言って、起こしてくれない。もう35歳だもんね。朝食を作り置きし、やきゅー用の道具と、ユニホームを着て電車に乗る。今日は、橋元口野球場に行く。ホームでもあるしアウェイでもある。山田川運輸区の俺らは自前の球場がなく、鮫井で練習する以外で、どこにもない。5本後の快速急行に乗り、橋元口野球場行きに橋元口駅で乗り換えをする。
練習場に着く。観客もまだ来てない。誰も居ない。俺はまた独りぼっちだ、と泣きそうになったが、ハルトの笑顔を見て回復した。1時間経って、両チームが揃い、練習がてら試合をする。相手チームもうちの仲間も、それぞれ指示を出し合い、楽しんでいく。
「やまちゃん」俺はカナヘビくんから清涼飲料水を受け取り、試合にはげんだ。
お昼。それぞれシャワーを浴び、前半の泥を落とした。後半は球場のお風呂だ。
久しぶりにカナヘビくんがキャッチャーをする。俺はカナヘビくんに、いつも通りでいいからと言われ、いつも通りにする。三振を取り、ストーンズにホームランを打たれる。なんでや。
午後の試合が終わり、風呂に入る。「やまちゃん、背中にデカデカと星書いてあんじゃん。だから昨日の温泉に来なかったわけか」夜勤明けだし、「見てたよ」と風呂上がりにスマホを確認するとハルトがメッセージをくれた。1番と書かれた泥だらけのユニホームをしまい、私服を着て、最終の快速急行橋元口行きに乗り、そこから快速急行にもう一回乗り換えた。
「橋元口野球場行きは確かホーム試合がある時に、山田川発の快速急行が運行されるだけだよな」ハルトに聞く。そうらしい。ちなみにホーム試合が橋元口で執り行われる時は、岩と水自由席往復乗車券が発売されるんだよな。
ーーー遅いけど、メジャーリーグは目前だ。オリンピックに出場権を獲得してやる。
ーーー俺ならやれる。
ーーーいつも通り投げればいいんだ。