#14 マイナーリーグ
「じゃー球場で」
山田川ウォーターズ(鉄道直営の野球球団)のトーナメント戦で、大和が、試合に出るので、俺は荷物をしまった。いや、4試合を登っていった大和たちすごいわ。そういえば、毎週水曜日が、休みのはずだが、ふと気づくと、重たそうなリュックサックを背負って出かけに行くのを見たが、服装からして会員制クラブじゃなと分かってたので、行かせていた。光輝と、晴哉を呼んで、チケットを取った。北熱海球場で、試合が執り行われる。きらきらした大和を見るのが楽しみだ。
「はーい」大和のいとこの兄さんが来た。レズなあかりと、彼氏ができたみずほ。兄さんの三人も、大和の決勝戦を見るために俺の家に集結した。「兄さん、妹たち。応援よろしく。ちょっと練習に行ってくる」大和はいつも以上に元気だ。
秋も更け、もみじが色づき、広葉樹がいろんな色を見せている。そよ風も多少は涼しくなってきた。神殿駅から快速八餅街道に乗車し、西熱海駅で当駅始発の各駅停車北熱海球場行きに乗車する。俺達は、のんびり電車に揺れる。西熱海とか言うが、正式名称は、南新津だ。やきゅー場直通普通は、駅機能分散で南新津駅から発着している。キハ150系が主に入線する。全部うちの会社任せなダイヤが組まれている。朝早いので、空港客が多く乗っている。熱海駅は止まって発車する。しばし立つ、終点の球場駅だ。
「ふー」大和は始発で行ったので、俺らは試合が始まる前に朝食にする。ここにもワクドナルドが。朝ワクなので、#edポテトを食べる。構内にイレブンセブンが入っているので、俺らはカカクヤスクな飲み物や、カカクヤスクな食事をする。そういえば今日の北熱海球場に乗り入れる専用のキハ150系には、山田川ウォーターズの選手の写真が貼ってあったのを思い出した。
相手の会社はご存じ海浜鉄道だ。わざわざ運用変更で、キハ150系を入線、したわけではない。主に橋元口から、餅鍋温泉までの区間便で充当されていたが、一日数往復、北熱海球場に乗り入れる運用があるだけ。海浜フェニックスの選手列車は、山田川駅を発着する。今日は球場臨があるので、全線で運用変更が発生している。俺らはチケットを抑えるのが早いようで、一階の最前列席で観戦ができるというのだ。
「あ、お姐さん、ビール」1000円になりますだって「え、」球場のどこでも1000円ですだって。「買います」6千円をおねーさんに渡す晴哉。「え?俺らも飲んでいいの?」大事な仲間のやきゅーなので、
試合開始前に、結構な席が埋まった。だいたい大手私鉄の戦いなので、そりゃー見に来る人は多いよな。液晶に選手が映った。
「KAI YAMATO」と液晶に映った。光学ズームで写真を撮る。ついでにやってきた大和を取る。一番だって。「なんでや、あのおっとりした大和がチームのエースとか意味わからねー」入場のBGMも特注の千本桜だ。なんでや。例にもれず大和が最初のボールを打つ。「なんで?」みんながそう思ったに違いない、だってホームランだよ。ひとり尻尾をふり、回って帰る。それはビールを飲んでいたカイトさんだって、驚いて吹いてしまうほどだ。
ベンチの方を見る。みんながハイタッチをしている。背中に輝く1という数字。少年野球をやってるのは知ってたが、3年のブランクがあっても輝けるのはすごいと思う。俺はすごいじゃんと思いながら観戦をする。
3回表。俺らは大和の行動を凝視。みんながやーまと!やーまと!って言ってる。期待を裏切るわけにはいかない。振ったー!どこに飛んでった。みんながボールの行く末を見た。俺らは顔を見合わせた。再びなんで?と言う。もう、最初のインパクトが強すぎて、何も言わなくなった。
5回表、惜しくも大和は三振をしてしまった。観客のやーまとって声が「あー」ってなった。そんなに大和に期待すんな。でも期待してしまった。現時点で4点。海浜なんとかは2点、逆転勝ちされそうな感じはする。
5回裏。ピッチャーが大和だ。今度の声援はかーい、になってる。表と裏で呼び名替えるな。ちっちゃいレッサーパンダがボールを投げる。6回三振を迎え、6回表へ進む。
「なんでや」楽しいのは確かなのに、うとうとしてしまった。みずほさんに揺すられなかったらずっと寝てた。気付いたら9回裏。2点差で、ランナーは1塁と3塁。大和の残り3回の投球
「あ、」みんなはボールの行く末を見て、ウォーターズの観客はそろって「あー」と言う。「マジで、サヨナラ勝ちかよ」そこにいた大和は頭をぼりぼりしている。「大和、球速度下げればよかったんじゃない?」
俺らは会場からそれぞれ帰る。駅にはキハ150系が待っていた。行先は南新津だ。そろってがっかりしている。みんなはあーあって言っている。「ま、次シーズンに期待だな」と言ったら乗客が、「そうだな、次シーズン」といってみんなは顔をあげた。終点の南新津に到着し、俺らは乗り換えのためホームを移動する。八雲駅からの快速が続いて到着した。「あ、」晴哉の声で上を向く。1、甲斐大和。ボールを投球する大和が貼ってあった。写真を取り、列車に乗る。
「本日は山田川鉄道にご乗車ありがとうございます。この電車は快速八餅街道、餅鍋温泉行です。途中ーー」
ニュースを見る。甲斐選手、相手チームにサヨナラホームランを打たれてしまう。こんな話題嫌だ。ウォーターズとか、フェニックスとかのニュースしか流れてこない。俺らは神殿駅で降りる。俺んちに来て勝手に通夜気分になる。ワクドナルドで夕食を買ったので、それぞれ無言で食べる。「ブルー取って」「はいよ」
無言のまま家で過ごしていると、ドアが開く。全員そっちを見る。「ごめん。負けちゃった。次のシーズンも頑張る」やまとーすごかったぞ!とみんなはそれぞれ思ったことを言う。一瞬にしてお通夜からハッピームードになった。「えへへ」俺らの知っている元気な俺たちが帰ってきた。ありがとう。たばこ勢は外に出て、タバコを吸う。みんな一緒だ。「大和、ユニホーム洗濯するから、入れといて。あとお風呂入ってこい。泥臭いぞ」
ハッピームードで、みんなは楽しく食事する。今思えばムードメーカーだな。覚醒剤やってた頃も、退所しても、学生だった頃も。全部に大和がいたな。
「ほかほかになったよー」パンツをはいたちいさなレッサーパンダが、ほかほかになってやってきた。「こら大和、服を着なさい」カイトさんに言われる。明日は観戦休みなので、みんなで酒盛りをする。
「なんかもう20年たったね」何が?「俺が野球を始めてから」っていうか、春祭には出たんだよな?「ああ、その時は俺の回になると、かーいやまーと!って呼ばれてたよ」まー3ねんの春祭は逮捕でいなかったけどね。俺が知ってる。みんなの残りを食べつつ、時間は12時を指してる。「寝よっか、ハルト」うん。
くっせー、ちょっと大和、鼻の目の前で屁をしないで。気がついたら俺の股間らへんに大和の顔、俺の顔あたりに大和の尻尾。寝ながらコイツは屁をかいた。今日はお休み。やきゅー疲れを癒すために放置する。飯だな
キッチンで、2人分の目玉焼きと、白米、味噌汁を用意する。いい加減35歳になっても起きないのって、どういうこと?キッチンの音をおおげさにして見る。やっぱり起きない。
「やーまとー!」部屋から叫んでも、起きない。そう言えば、大和の少年野球のシャツが届いてた。きっとみこさんが届けてくれたようだ。いろんなものが入ってる。もちろん覚醒剤一ヶ月分。大和にバレないうちに、覚醒剤は処分させてもらう。
キッチンのそばに見覚えのある布団が転がってた。そこを見に行くと、カイトさんが爆睡してた。なんでいるんだよ。2人揃って爆睡かよ。
カイトさんを起こす。「ふぐ」もーみずほ、朝なのはわかってるよ!だってさ。俺はカイトさんと目があって、ごめんねをする。まー大和は起きないので、2人で飯にする。「いただきます」コーヒーを飲みながら、朝食のひと時を過ごす。時計を見ると四時半。そろそろ起こしに行く。「あ、俺起こす」とカイトさんが向かってった。「ぎゃー!」何があった?!「もー痛いってば!」何があったの?「兄さんにお腹心臓マッサージされた」そりゃ痛いな。「あれ、俺の朝食は?」今から作る。テキトーにご飯すくって食べて待ってて。俺は目玉焼きをもう一個焼く。「あ、このダンボール」野球、服、調理道具、薬。「ごめん大和、薬のダンボールの中、お前のために調べさせてもらった」ん、と返事をされた。
三人で朝のタバコタイムを過ごす。広葉樹は色とりどりの顔をしている。5階建てのアパートから、隣の公園を見る。隙間から見る俺は多分不審者。オレンジ色の大和のひとみの時間はもうすぐだ。コーヒーを持ちながら、ベランダの椅子に腰掛ける。俺は、タバコの火を消して、室内に戻る。
部屋に戻る。俺はテレビを見る。バードフェニックスの特集をやってる。青海千種さんがテレビに出てる。「あ、高校の先輩だ」カイトさんが声にする。カイトさんの上の名前はなに?「橋本」はえー、「だから橋本駅で、兄弟写真撮ったんだ」大和はうなずいてる。俺は、机のお皿を片付ける。カキーンって音で振り返る。期待の新星、甲斐大和!とか言っている。メジャーリーグ移籍が待ち遠しい、とか。
俺は、メジャーリーグに移籍したら、どこでも連れていかれそうで、いや。まだ、マイナーリーグの方がいい。適度に同じ会社内や、海浜鉄道と戦ってた方がいい。散歩に行こう。
大和とカイトと外に出る。5時20分。神殿駅で、2800円する海山パス、海浜鉄道と山田川鉄道が乗り放題だ。特急は別途乗車券を購入、とかいてある。駅の窓口で、B5サイズの紙を受け取る。俺らは半分に折って財布にしまう。
八雲行き、快速に乗車。晴哉が言い出しっぺなくせに、全く楽しんでないところに顔を出す。そのあとは鮫井まで移動する。「ねーみんな、バッテングセンター行こうよ」休日なのにバットを振るのか。最近ちょこっとしか出席しなかったウォーターズの練習にこれからは結構顔出す予定だ。相変わらず打つのが上手い。俺は大和の行動を見てる。カイトさんも打つが、ボールが速すぎて、打てなかった。
「すみません、もしかしてウォーターズの大和さん?」と大和に声がかかる。大和は何という顔をしてる。サインちょうだいって言ってる。「サインはないんだ。やきゅー場でホームランの球を拾ってね」バッテングセンターを後にする。
あ、甲斐さん、甲斐さんなら、お連れ様の金額を半額にします。ということで、俺は半額の料金を払った。
有名人だね「なんでだろ」ホームランばっか打つやつが、有名人にならないわけがないでしょ。
俺らは鮫井から電車に乗り、山田川駅で乗車券を見せた。快速餅鍋温泉行きに乗車。あいにくタオルは持ってきてないんだ。運用サイトを見ると、橋本駅から来る電車が、ウォーターズ選手列車だ。「橋本から、各駅停車になる橋元口行きだ」俺らは次の橋本駅で各駅停車を待つ。大和がやきゅーを投げるポーズと同じポーズをして写真に映る。2両編成で、大和が先頭車の壁に書いたというサインを見せてもらう。「甲斐大和」フツー。なんやなんや、もっとみんなみたいにかっこよく描けなかったのか。
橋元口行きに乗車し、電車が走る区間に気動車が走ってる面白い列車だ。撮りたい物は済んだから、元口で折り返す。
「そう言えば、やきゅー選手名鑑の写真撮りの時、ボール持たせてもらったが、いつもの癖でカメラに投げちゃった」2人は笑う。あいにく選手名鑑は家にあるようだ。まー大和にボール持たせても、窓ガラス割りそう。南新津えきに移動。「ねーハルト、西熱海駅になんて投票したの?」新熱海。へーって顔をする。俺らはバードフェニックスのホームグラウンドの北熱海球場に来た。やきゅー、ライブ開催時以外は無人駅。俺は、バードフェニックスのホームに来て、歴代やきゅー選手の展示を見た。そこにあったのはーーー
なんで大和があの選手展示に貼ってあんの?と言ったが、わからないと言われた。歴として、覚醒剤を使ったことまで書いてあった。3年のブランクがあるけど、優秀で、チームのエース。
こんな彼氏がいて、幸せにならないのがおかしい。俺は、自販機で喉をうるおす。やっぱり、野球場の中の料金と一緒で、500mlのお茶は300円で売ってる。今更だが、大和はメチルフェニデートを飲んだ。やきゅー場を一周する。「ハルト、明日から練習が続くから、先に帰って待ってて」俺は、うなずいた。やきゅー場の野外喫煙所で、3人はタバコをふかす。
「そろそろ帰ろっか」南新津行きフツーに乗り、熱海駅で後続の快速に乗り換え、神殿駅まで戻った。カイトさんも一緒だ。
部屋に着いたら、俺は選手名鑑を見せてもらう。背番号1番甲斐大和。愛称、やまちゃん。得意なこと豪速球。160キロ毎時。「特急電車かよ」よくバッテリーな子キャッチできるわ。もう一個得意なことがかいてある。センターにホームランを打つ。苦手な事。ナイトゲーム。わかる。
選択したユニホームを着せて、モフッターに上げる。#山田川ウォーターズ、甲斐大和くんが遊びに来た。すぐにリツイートや、いいねがたくさん飛んでくる。バズったので、大和のモフッターのリンクを貼り付けた。「ねーいっぱいフォローくるんだけど。まー人気者だし。アイコンはバットとやきゅーボールだ。俺のモフッターはお立ち台に立つ大和だ。
「じゃ、お邪魔虫は帰るね」とカイトさんが帰ってった。「兄さんまたね」俺はお昼寝の為に、布団を掛けた。おやしみ。「ふー」
寝てたら鼻息をかけられた。なんでや。「起きた?」いつもの服を着た大和が立っている。俺は夕食の準備に取り掛かった。「郵便でーす」なんか縦長のダンボールが届いた。山田川鉄道と書かれている。なんだろうって開けると、大和の等身大パネルが入っていた。サイズが大和サイズなので開封に時間は取られなかった。
テレビ横にたてて、毎日眼福。
気がつくと朝だ。先にキッチンで朝食を作る。やきゅー選手のじぶんなぐさめとか見てみたいが、大和なら進んでやってくれそう。俺らは仕事に行く準備をした。朝のタバコタイム。
「じゃー昼に会おう」俺らは制服に着替え、駅員に化けた。
俺らはご飯を食べる。お立ち台は疲れるし、乗客の安全も考慮しないといけない。出発信号ドア閉めと、発車メロディを流すのも俺の仕事だ。基本1と2番線だ。
仕事が終わり、橋本の練習場に来た。ウォーターズの本拠地は、橋元口のやきゅー場だ。橋元口野球場って路線がある。ずーっと昔から。ケイスケとか、ダイキは元気に運転手やってるかな。橋元口野球場の開催日は、ウォーターズ列車は固定として、海佐中央から球場までの運転になる。山田川から3時間はかかるが、大勢の客がやってくる。とーきょーとやらからくる客もいる。アウェイ戦だと、野球用のビザが発行され、ニホンとやらに出向く。ハルトも一緒に来る。
やきゅーの練習が終わり、橋元口野球場から快速急行に乗り、神殿で降りる。たまに寝過ごしする。八雲行きだったら目も当てられない。まー帰りもユニホームを着て帰る。
やきゅー場に乗り入れる列車は定期だと快速急行だけ。俺らはそれぞれいろんな場所に行く。俺は彼氏の待つ家に向かう。
ーーー大丈夫、君ならメジャーリーグデビューができる。
ーーーそうだといいな。