1000文字後に死ぬ魔王
「ふはははは! 魔王よ、これでも食らえ!」
そう言い放つと、勇者は後衛にいる魔法使いに向けてアイコンタクトをする。
すると、魔法使いは誰にも聞こえないように詠唱し、魔王に向けて攻撃を放った!
「うぉぉぉ!?」
魔王はぎりぎりかわしきれずに攻撃をくらってしまう。
「……む?」
しかし、特に痛みも感じず、怪我もしていない。魔王は目が点になる。
そんな呆けた魔王に勇者を指を差した。
「魔王さんよ、今の攻撃……なんだと思う?」
「ふん。どうせただの初級魔法だろう? 我を舐めてもらってはこま……」
「1000文字砲……だっ!」
「な、なんだその技は!?」
魔王は魔法が当たった胸を抑えながら眉をひそめた。
「そのまんまさ。この物語の文字数が1000文字になると、お前が死んじまう上級魔法だ」
「そ、そんな技、我は知らぬぞ!?」
「だって今思いついたんだもん」
「貴様らチートすぎるだろう! どうなっとるんだ!」
吠える魔王に、勇者一行は武器を置いてあぐらをかいた。
「そんなに叫ぶなって。ほれ、もう半分行きそうだぞ? 俺たちはもう攻撃しないから、最期くらい話でもしようぜ」
「貴様ら……!」
そう言って魔王は両手から魔法を放とうとする。しかし、すぐ間近に迫る死の恐怖も相まって、上手く魔法を生み出すことさえできなかった。
「ぐうっ……」
やがて魔王は観念すると、勇者一行の真似をしてあぐらをかいた。
「……で、お前本当に魔王なの?」
「当たり前だ。五メートルを超える巨体に恐ろしい角。貴様らを足してもなお届かない魔力量。これを聞いてもなお信じないというのか?」
「いや、信じるよ。何となく聞きたかっただけだ」
しばらくの沈黙。数分後、勇者は口を開いた。
「魔王。あんたは本当に世界を自分のものにしたかったのか?」
「むぅ……」
魔王は勇者から目を逸らし、しばらく唸ると、やがて目線を戻した。
「しなければならなかった。……貴様ら人間のせいで、我ら魔族は土地を、食を、民を奪われたからな」
「復讐ってわけか」
「しかしもう手遅れだ。我らは……負けたのだ」
「……」
魔王は勇者の剣を魔法で浮かばせ、自分の元へ持っていく。
そして。
「ぐおっ……!?」
残り22文字の所で、自らの喉を突き刺した。
ごぼごぼと流れる鮮血。いくら魔族の頂点を君臨する魔王であっても、致命傷は免れない。
魔王は力なく倒れ、部屋には砂埃が舞った。
勇者は魔王の喉に刺さった剣を力一杯に抜き、床に落ちた王冠を被る。
己の力を強める冠。ーー別名、レクトルクラウンを。
「レクトルクラウン……よろしくね」
勇者は唖然とする仲間たちに向けて、別空間から数本の矢を放ち、殺した。
「ふはははは! ふはははははは!」
勇者はひとしきり笑ったあと、魔王城から外へ瞬間移動。そして、空に無数の剣を浮かべた。
「これからは俺が……魔王様だ」
勇者は……魔王は恍惚した顔を浮かべ、世界を我が物にするのだった。
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