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サツマイモとリンゴをレモンを加えて煮ましょう

 ラフィーネに通された調理場はこじんまりとしたもので、コンロはひとつ、オーブンもひとつ。

 石で作られた作業台は組み上げポンプのついた水場の横と、中央に大きな台があるけれど、大きい方は他の机と同じく物でいっぱいになっている。

 自然と使用することになった水場の横は、まな板を置いたらあまり余裕がない。


 あるものは何でも使っていいと言われ、選んだ材料はサツマイモとリンゴ、干しぶどうことレーズンにレモン。

 ラフィーネはフェンリルと仲が良いと言っていたから、アーヴィンが気に入っていたスイートポテトに近い材料を選んでみた。


 けれど作るのはスイートポテトじゃなくて、お鍋ひとつで完成するレモン煮。

 まな板と包丁を用意してもらい、その間に選んだ材料を小さな籠に入れた私は、ラフィーネを振り返り、


「始めるけれど、本当にこのエプロンを使ってしまっていいの?」


 ラフィーネから渡されたエプロンは、城でアーヴィンから受け取ったものよりもさらに華美な花柄の生地で作られている。


 更には肩部分には大きなフリルがついていて、胸元とポケット部分のレースがなんとも可愛らしく――身につけたまま外出しても、ちょっとしたワンピースに見えるようなデザインのもの。

 ラフィーネは「いいのいいの」と手を振って、


「本来、アタシの服造りはただの趣味なんだ。どうせ着せるなら、好みをどっぷり詰め込んでやろうと作ったモノでね。想像以上に似合っていて、嬉しい限りだ」


 腕を組みつつ頷く、満足げなラフィーネ。

 彼女が良いというのだから、ありがたく使わせてもらおう。

 私はよし、と思考を切り替える。


 まずは組み上げポンプを両手でシャコシャコ押して、流水で材料を綺麗に洗う。

 サツマイモは皮ごと使うから、念入りに。


 子供の手にはちょっと大きい包丁を気を付けながら、サツマイモは半月切りにしてしばらく水にさらす。

 その間にリンゴはくるくると皮をむいて、一口大に切っていく。


「へえ、慣れたもんだね。菓子でも作るのかい? それにしては、イモというのがよくわからないが」


「お菓子ではないけれど、甘くて栄養たっぷりな煮込み料理よ」


 サツマイモとりんごを鍋の中へざっと入れたら、かぶるくらいの水を入れて、砂糖をスプーンで大盛二杯ほど。

 リンゴが甘ければ砂糖が少なくてもいいのだけれど、この世界のリンゴは酸味が強いから気持ち多めにしてみた。


 半分に切ったレモンを鍋の上でぎゅうと握ってレモン汁を入れたら、落ちた種をスプーンですくい取って、レーズンを適量いれて。

 ラフィーネに火をつけてもらったら、煮立ったタイミングで蓋をする。


「しばらく弱火で煮込んで、サツマイモが柔らかくなったら完成よ。温かいうちはもちろん、冷やしても美味しいの」


「ほおー……甘いんだが酸っぱいんだが、想像がつかないね。それに、冷めた芋ってのはもそもそして、あまり好きではないんだが」


「ふふ、出来上がりを食べてもらうのが楽しみね」


 煮込んでいる間の火の番はしてあげるからと、ラフィーネに散歩の許可をもらった私はエプロンを外し、小屋を出た。

 寝ていたのか、伏せた状態で前脚に顔を預けていたアーヴィンが、顔を上げて私の側に歩を進めてくる。


「お料理が完成するまで、"星食い池"の散歩をしようと思って」


 そう告げた私に、アーヴィンがついて来てくれる。

 背丈の伸びた草をガサガサと踏みしめながら、池に近づいてしゃがみこむ。


「やっぱり、池というよりは湖のようね」


 濁りのない水面からは、私の手よりも大きな葉を広げた水草が茂っているのが見える。

 そのせいか、底がどれほどの深さなのかはよくわからない。

 アーヴィンはくわりと欠伸をして、


「湖は、もっと大きい」


(この世界の基準だと、これでも小さいんだ)


 立ち上がった私は、"奇跡の花"が群生している箇所に近づいてみる。

 白い花弁は五枚。先が尖っていて、星のマークのよう。

 大きさはティーカップほどで、想像していたよりは大きく感じる。


「綺麗な花ね。こんなにたくさん……丁度、開花の時期だったのかしら?」


「ううん。その花、いつも咲いている」


「いつも? 一年中ってこと?」


「うん。暑い時も、寒い時も。咲いてない時、見たことない」


「すごいのね……"奇跡の花"って呼ばれているのは"黒魔中毒"の解毒剤になるからだと思っていたけれど、一年中いつでも咲いているっていう特性からも来ているのかもしれないわね」


 うーーーん、さすがファンタジーの世界! なんて感心していると、


「フレデリカ。どうしてここが"星食い池"って呼ばれるか、知ってる?」


「いいえ? あ、もしかして、この花がお星さまに似ているから? お花が池に落ちちゃうのが、食べているように見えるからとか」


「ちょっと、違う」


 途端、アーヴィンはザバリと勢いよく池に前脚を入れた。

 揺れ跳ねた水が周囲に飛び散る。


「アーヴィン! 急に何を――」


「見て」


「え? 花が……!」


 アーヴィンが鼻先で示した所に視線を移すと、確かにそこに咲いていた花たちが、ごそっと消えてしまった。


(池に落ちた!?)


 急いで水面を見るも、花弁一枚浮いていない。


「ア、ア、アーヴィン……! まさか、花を食べてしまったの!?」


「食べない。この花、まずい」


(あ、食べたことあるんだ)

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