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4.異世界と交流する難しそうなお仕事


「ま、またまた、そんなご冗談を」


 どのくらい時間が経ったのか、しばらく無言の時が続いたが、その静寂を破ったのは蓮だった。


「最近そういうアニメや小説なんかが流行ってるからって、そりゃないですよ~」


 へらへらと作り笑いで言ってみせるが、何だか弱々しい声になってしまう。


「冗談じゃなくてね、本当に異世界との交流があって……」


 懸命に説明しようとする白井だが、こちらも声が小さくなってしまっている。この人は意外と押しに弱いタイプなのかもしれないと蓮は思った。よし、このまま冗談ということで押し通そう、とも。


「いや実は僕もそういうアニメ見たり」


「蓮、話聞きに来たんでしょ? 何へらへら笑ってるの? 失礼じゃない。ちゃんと聞きなさい」


 現実逃避に余念がない蓮の言葉を遮り、さくらの一声がかかる。ドスの効いた鋭く強い響きだ。こうなるともう逆らえない。


「は、はい」


 蓮はよくわかっている。こういう時のさくらへの返事は「はい」か「イエス」しか許されないのだ。言い訳などしようものなら、それはもう大惨事になる。心なしか、返事をしながら背筋までピンと伸びた気がする。そんな蓮を見てふっと笑みを作ると、白井は気を取り直して説明を再開した。


「えーと、ごめんね、びっくりしたよね。僕が話すことは全て本当のことだよ。異世界との交流があるのも、もちろん本当」


 さくらはもう何も言おうとしていない。あとは蓮ががんばるしかない。何はともあれ話を進めないといけない場面だ。


「はい、質問です。異世界とは一体何ですか? あの、ライトノベルやアニメで見るああいうのですか?」


 今度は早口になってしまう。さくらは普段明るくて優しいが、怒ると怖いのだ。


「うん、そう。この日本から若者が異世界に転移させられたり、非業の死を遂げてしまった人が別の世界に転生したりするアレだね」


「なるほど。では次の質問です。どうやって交流を図るんですか?」


「いい質問。深い部分はシークレットだから答えられないんだ。蓮くんにしてもらうのはモニター越しになる。商品管理と言っていたけど実際には相手への交渉や販売、あとは買付かな」


「そうですか、わかりました。しかし違う疑問が湧きました。言葉はどうなってるんでしょうか。まさか同時通訳つき……?」


 相変わらず早口になってしまっているが、スムーズに質疑応答を進められていると思う。そう、蓮はさくらが怖いのだ。本当に。当の彼女はお茶菓子のクッキーに手を出そうとしているけれど。


「そのまさかで、AIがやってくれる。やっぱり、向こうで使われているのはこちらの世界の言語ではないんだ。AIは重宝してるよ。けど、AIにプラスして人間の言語センスが必要なんだよね」


「言語センス……」


「蓮くん、言語学専攻だよね」


 蓮は言語センスを要求された!


 逃げますか?

 →はい[ピッ]

 いいえ


 蓮はソファからほんの少しだけ腰を浮かせた!


 クッキーを頬張るさくらに睨まれてしまった! 逃げられない!


「え……っと、はい……そうです……」


 また声が弱々しくなってしまった。



**********



 白井が説明したことを要約すると、こうだ。異世界人から注文が入る。その注文に沿って品物を買い付けてくる。金銭の受け取りには銀行を介する。受け取れたことを確認できたら品物を送る。ちなみにアフターフォロー付き、だそうだ。注文受付と品物買付には特に注意が必要らしく、時間がかかってしまうこともある。今は自分が行っているが、三ヶ月後くらいからあまり時間を取ることができなくなってしまうため代わりの者を探していた、と。


 ”誰にでもできる簡単なお仕事”ではなさそうだということが判明したわけだが、非常に断りづらい雰囲気になってしまっている。なお、さくらはクッキーを食べて満足したのか、眠そうにソファに体を預けている状態だ。


「さっきも言ったけど、蓮くんにはまず注文受付と品物買付をお願いしたい。週に十五~十八時間、日数は二~三日を考えてるんだけど、いいかな?」


「まず、ですか?」


「未来って誰にもわからないんだよ」


 にっこり微笑む白井の中に、ダークな何かが見え隠れしている。これまで優しくしてくれていたが腹黒い面もあるのかと、蓮は彼に対する認識を少々改めた。


「正直、僕に務まる気がしないです……。一応言語学はやってますが、それがどのように役に立つのか全然わからなくて」


 白井のダークさに押され気味だったが、素直に心情を吐露しておくことにした。不安なのは当たり前なんだという開き直りでもある。


「実際に触れてみればいい」


 胡散臭い微笑みを崩さない白井。とうとう初出勤日が決まってしまった。


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