アタシが教育を学んだわよ
「何で? アナタ、クソ集めなんてやったことないでしょう?」
リンタロウにそう話し掛けていると横からドーラがやれやれと言った口調で言った。
「そりゃあこの数日アンタがクソ集めやってんのを見てたんだからその真似をすることもあるだろうよ。ガキは親の真似事をするもんだろ。アンタ、そんなことも知らないのかい」
モチロン知っていた。知っていたがそれは人間の世界でのことだ。それがこの世界、それも魔物の世界でも同じだとは考えてもみなかった。だがそうなのだ。魔物も人間同様知能がある。初めは分からないことも何度もやっているところを見せてやればそれを真似ることが出来るのだ。
――なんだ。簡単なことじゃない。こんな単純なことをやらないで悩んでいたなんてアタシ馬鹿なんじゃないの? ――
気分が一気に晴れ、喜びでリンタロウを抱きかかえた。リンタロウの体中が汚物で汚れているため自らも汚物まみれになることも今は気にならなかった。
「リンタロウ。ありがとう。アナタのお陰でアタシ希望が見えてきたわ」
抱きしめられたリンタロウは『キャッキャッ』と声を挙げてはしゃぎ喜んだ。
「アタシやるわ。少しずつだけどゴブリンに掃除を教えていくわ。リンタロウ。アナタもアタシを応援してね」
そう言うと操はリンタロウを肩車し、部屋の扉を開け、走り始めた。ゴブリン達を集めるために。だがその前にやることが一つある。
――先ずはアタシとリンタロウの身体を洗わなきゃ――
ゴブリンに掃除を教え始めて2日が経った。
ゴブリン達は見事に掃除を覚えていった。
初めは1番賢そうなゴブリン1匹に掃除を教えることにした。操が掃除をやっているところを見せてそれをゴブリンにやらせた。出来なければ再び操がやって見せてまたゴブリンにやらせる。これを根気よく行い出来た時は大げさに喜びゴブリンを煽てた。
これが効果てきめんで気分を良くしたゴブリンは操のやることをしっかり見て真似をするようになっていった。
1匹がある程度できるようになったら後はそのゴブリンが他のゴブリン達に教えるようにさせた。その中で操は間違って覚えているゴブリンをフォローする役に徹した。そうすることで初めに教えたゴブリンをリーダーとして育て、ゴブリン達の指揮管理を任せよう考えたのだ。
これが効果覿面だった。ゴブリンのリーダー(ゴブ男)からはリーダーシップと責任感が生まれ、積極的に他のゴブリン達へコミュニケーションをとるようになった。教育を受けたゴブリン達もゴブ男を信頼し、頼るようになった。
操はゴブ男や他のゴブリン達をとにかく褒めた。些細なことでも出来たときには大袈裟に褒めた。とにかく褒めまくった。そして、決して怒ることはしなかった。
「まったく、あんな単純なこと出来てあたりまえじゃないか。褒める必要なんかないだろ?」
ドーラが理解出来ないとでも言いたげに操の横でボヤく。
「いいのよ。誰だって褒められて悪い気はしないでしょ。これはアタシがオカマバーで働いてたときにチーママに教えてもらったのよ」
そう。操が夜の世界に入って間もない時のことだ。
「褒められたほうはもっと褒められるように積極的に頑張るわ。そして、ミスをしても怒られなければ正直に報告してくれる。お互いの信頼関係も向上するし良いことずくめよ」
「ふん。ミスをしても誤魔化してもグーパンだよ。信頼関係なんて糞っ喰らえだね」
「何でも暴力で解決なんていかにも野蛮で陳腐な発想だわ。もっと――」
ドン!
「いった~! 何すんのよクソオーガ! そういうとこが野蛮なのよ」
「ウッサイわね。アンタの講釈なんて聞きたくないんだよ。ホラ、あそこのゴブリンが呼んでるだろ、サッサと行ってきな」
「まったく何なのよ……」
頭を擦りながら操はゴブ男の元へ歩いていった。
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