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アタシが作戦を実行してやったわよ

――日はすっかり暮れ、月が黄色味を帯び始めた頃、空には数十匹の魔物の群れが羽ばたいていた。先頭には操とアンデットが跨ったグリフォンがいる。


「ヒャッヒャッヒャッ。全て上手くいきましたね操様」


アンデットの名はグライス。その体は骨だけの存在だ。魔王軍参謀の肩書を持ち、操の計画を行動に移して成功に導いた功労者だ。


「そうね、これもあなたのお陰よ。感謝してるわ」


そう言いながら腕の中にいるゴブリンの赤ちゃんを見た。ミルクを飲み終えスヤスヤと眠っている。ゴブリンでも人間でも赤ちゃんの寝顔は愛おしいと心の底から思う。


「ヒャッヒャッヒャッ。もったいないお言葉です。これも操様の計画があったからこその結果ですよ」

「そんなことないわよ。あなたの魔法と常に変化する状況への的確な指示が無ければこんなにスムーズに事は運ばなっかたわ」


グライスの対応は実に見事だった。理性を失った野生の魔物たちを相手に、操の要求した『村人をだれ一人死なせない』という難題をやってのけたのだ。怪我人は何人か出たが、その人間を魔王軍が必死に庇い助ける様子は、助けられた者からすれば魔王軍を信頼することに絶大な効果を生んだことだろう。

そしてその後のグレイスの対応も見事だった。村人へ魔王軍の意向を伝え、不満無く納得させその上でこちらの要求した食料の定期的な供給を約束させたのだ。


――アタシが指揮してたらこうはならなかったわ。魔王軍参謀は伊達じゃないわね――


「ヒャッヒャッヒャッ。これが私の仕事ですからね。それを言うならば操様の村周辺にいる魔物たちへの威嚇も素晴らしかったですぞ。あそこまでの殺気を向けられた魔物はたまったものではないでしょうな」


今回の計画で操が行ったことと言えば、大声で村周辺を走り回り森に住む魔物たちを怯えさせ村へ誘導することだった。


「やめてよ。あんなの、でかい声を出して走り回ればいいだけなんだから誰だって出来るわ」

「いえいえ、野生の魔物とは感が鋭いもので、自分より強いものを敏感に察知します。あの役は魔物たちが絶対に敵わないとわからせるだけの実力があって初めて成立するのです。それを簡単にやってのける操様の実力は魔王軍でもトップクラスでしょう」

「ありがとうグライス。お世辞でもうれしいわ。でも、実際アタシは魔王軍に捕らえられて今ここにいるのよ。そんなアタシがそんなに強いわけないじゃない」


お世辞でも褒められるのは嬉しいものだ。操は今まで褒められた記憶はほとんど無かったのだ。


「操様、魔王軍との戦闘の時、鎧を纏った騎士を覚えていますかな?」

「? ええ覚えてるわ。先頭にいて一番最初にアタシがぶっ飛ばした奴よね。今考えればアイツが一番強かったわ」

「あの方は魔王軍幹部の暗黒騎士デュアリス様ですよ。魔王軍屈指の剣士だった方です」

「え? ほんとに? そんなヤバい奴をアタシが倒しちゃったの?」


全く知らなかった。そんな大物を倒せるだけの実力が操には有るのだ。


「はい。我が軍の兵士たちも目を疑いました。まさかあなたのような人間の小娘に魔王軍でもトップクラスの剣士がやられたのですから。だから、その後には魔王軍幹部が複数名であなた様を取り押さえたのですよ。でなければこちらの被害はさらに甚大なものだったでしょう」

「そうだったの。なんかごめんなさいね、そんなに強い騎士倒しちゃって。でもこっちも仲間を殺されちゃってるしお互い様よね」

「ヒャッヒャッヒャッ。ご自分の仲間が殺されたのにお互い様ですか。あなたは面白い方ですなぁ」

「そう? ぶっちゃけあのメンバーとは会ってそんなに経ってなかったし、そこまで深い絆があった訳じゃないのよ。まぁイケメンが減ったのは残念だけど……そのイケメン達より更にイケメンな魔王様に会えたし、結果オーライよ」


――このクソみたいな環境を除けばね――


「ヒャッヒャッヒャッ。本当に面白い方だ。このグライスがもう300年若ければあなたに恋の一つでもしていたかもしれませんぞ」

「あら奇遇ね。アタシもあなたが死んでなければワンチャンあったかもしれないわよ」

「それは残念ですなぁ……操様、もうじき魔王城に到着しますぞ」

「そう、それは残念。もう少しあなたとのナイトドライブを楽しんでいたかったけど仕方ないわね。帰ったらアタシも色々しなきゃ」


操はゴブリンの赤ちゃんを両手で持ち上げた。


「そう言えばあなたに名前を付けてなかったわね。何がいいかしら……」

「操様、ゴブリンに名前を付ける者などいませんよ。いくらでも増えるし短命。そんな者に名前を付けていてはキリがありません」

「アタシが付けたいんだからいいのよ。それにこの子はアタシが初めて育てる子なんだから名無しの権兵衛じゃ可哀そうじゃない」

「操様がそう言うなら止めませんが、つくづく面白い方だ」


グライスはそう言っていたがその顔はどこか嬉しそうに見える。まぁ顔は骸骨なのだが。


「う~んどうしようかしら……ゴブリンの子供でしかも男の子。アタシの初めての子供……って産んでないけど……そうだ! ゴブリン太郎、略してリンタロウよ。リンタロウ……うん良い響きだわ。グライスどう? 素敵でしょ?」


そう振られたグライスはフッフッフッと笑いを堪えている。


「何よ。変だって言いたいんでしょ」

「いえ、とても良い名前だと思いますよ。とても安易で分かりやすい。操様らしい名前の付け方です」


笑いを堪えながらグライスが言った。


「あなたそれって褒めてないじゃない。どうせアタシは馬鹿で単細胞ですよ」

「いえいえ、アナタは我々魔物とは違い、柔軟で独創的な発想の持ち主です。決してそのようなことは思っていません」

「本当に?」

「えぇ本当です。ですが、初めは人間のしかもこんな小娘に指示を受けて正直憤慨いたしました。ですが今回の計画を行い、このように操様と話をすることで操様は尊敬に値する方だと考えるようになりました」

「そうなの? なんか急に褒められてチョット気持ち良いんですけど。ならいいわ許しちゃう」

「ありがとうございます。さぁ魔王城に着きました。着地の衝撃に注意してください」

「分かったわ。リンタロウ、アンタはシッカリ抱きしめててあげるからね……ってアンタまたおしっこしたわね! チョットアタシの服がおしっこ臭いんだけど。グライス着地は待って。近くの綺麗な河にアタシを連れてってよ。アタシとリンタロウを綺麗にしたいの」

「ヒャッヒャッヒャッ。あなたは面白いだけでなく中々騒がしい方ですなぁ」

「いいから河へ連れてってよ。うわクッサ! リンタロウ、アンタのおしっこ臭すぎるのよ。もう最悪よ」


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