最後の一話
貧乏学生たちが屯するアパートの一室で、ひとりの少女がある感染症に罹って自宅療養を行っていた。
家族も誰も来ない寒々としたアパートのベッドに横になって、唯一の娯楽であった日本最大級のネット小説サイトに、日々細々と作品をUPしていた彼女だが、この日もほとんどPTは伸びずに0ptを更新していた。
「ゴホッゴホゴホ……ああ、もうダメだわ。今日書いたこれがせめて100ptになれば……ゴホッ……ジャンル別日間ランキングBEST5に入っていれば生きる希望が湧いてくるのに……でも、どうせダメよね。また0ptで終わる。……そして私の命もそれで終わるのよ……」
捨て鉢になった少女だが、最後の願いを託してその作品をなろ――日本最大級のネット小説サイトに投稿するのだった。
「そんなことはないわよ! あなた才能があるのですもの。きっと明日までに100ptなんて余裕で越えて、ジャンル別日間ランキングBEST5にも余裕で入るわ!」
たまたま見舞いに来ていた友人がそう励ますも、彼女はあきらめ切った顔で微笑みながらスマホを眺めるだけである。
◆
「――ということなの」
「なんてことだ! そんな馬鹿なことがあるもんか。たかだかネット小説サイトの評価で生きるの死ぬのと……!」
困り果てた友人が、密かに少女に片思いをしている男子生徒に事の次第を伝えると、男子は髪振り乱して地団太を踏んで悔しがった。
「でも、本人はそう信じ込んでいるわ……」
寂し気に嘆息する友人。
ちなみに公開後8時間が経過しているが、いまだに評価は0ptのままである。
「……ん? それって君もポイントを入れてないってことじゃ?」
素朴な彼の疑問に対して、彼女はあからさまに視線を逸らせて、
「ぶっちゃけ、面白くないし。あの娘の作品って……」
最低な言い訳を口に出す。
なお、心理学的に女性は同性が自分より上だと(顔がいいとか、スタイルがいいとか、モテる)判断した場合には、「だけど性格が悪いし」「だけどトロいし」と評価が下がる傾向がある。
「正直、奇蹟でも起きなければ、100ptとかランキング5位以内とか無理でしょうね」
「くっ――! ならば俺がその奇蹟を起こして見せる!!」
そう言い放った男子生徒は午後の講義をすべてブッちして、どこへともなく走り出したのだった。
3時間後、有人である女子生徒の目に飛び込んできたのは、友人の作品に一気に入った★★★★360ptの輝く数字である。
「やったわ! 奇蹟だわ。これで彼女も死のうなんて思わないはず……」
そうこぼれんばかりの笑みを浮かべた彼女は、明日早速ケーキを買ってお祝いしようと思いを巡らせるのだった。
◆
そして翌日、『複垢による垢バン』により、彼女の小説も何もかも消え去り、そのことでショックを受けた彼女は急速に容態を悪くして病院に緊急搬送された。
その頃、徹夜でパソコンのある漫画喫茶を巡って、彼女の作品に『いいね!』と最高評価を入れまくっていた男子生徒は、満足げな表情で沈没していたのだった。
3/8 9:30現在98pt「……あと、2pt……(ガクッ)」「ご臨終です」




