ふかふかな布団
私はこっそりと家に入る。
(今日は父さんも母さんも遅くなるって言ってたから、、、)
玄関を確認する。
父と母の靴は、、、
無い。
(良かった、やっぱりまだ帰ってきてない)
私は家に誰もいない事を確認すると、さささっと、少年の服を脱がせ、体を拭き、
父のバスローブを掛けて、私のベッドに寝かせた。
私「ふう〜」
少し落ち着いた私は息をつき、寝ている少年を見る。
、、、体はまだ冷えているけれど死ぬ事は無いだろう。
熱もない。
少年の額に触れ、熱くないのを確認してホッとする。
(良かった)
ベッドで寝ている少年を見ながらニヤニヤする。
(けど、人間を里に連れて来ちゃったのがバレたらヤバイなー)
(流石に問題でしょ)
自分が仕出かした事ながらそう思う。
(うーーーん、どうしよっかなーー)
少年の寝顔を見ながら考える。
その少年の寝顔はとても可愛くてちょっと意地悪したくなる。
(つん、つん、、と)
ふふ
いつの間にか少年を里へ連れて来た事へ不安は遥か彼方に飛んで行ってしまっていた。
とにかくその人間の少年が可愛くて寝顔をいつまでも見ていたかった。
(本当に、人間って私達と何も変わらないんだ)
(でもひょろひょろっとしてる)
ふふ
(まあ、それは個人差あるよね)
(でも凄い軽かったなーー。ちゃんとご飯食べてるのかな?)
(後は、何も変わらない)
唯一違うとすれば額の、、、、、
と
「ただいまーーー」
と、母が帰ってきた
(あ!やば!!)
「ナナミーー?帰っているのーー?」
母の大きな声がする。
私は慌てて少年に布団を頭まで被せ、部屋を出た。
「あーー、うん、帰ってるよー。
ママ、お帰りーーーー」
、、、、
、、、
、、、
さて、どうやって里のみんなにバレないように、少年を人間の里へ連れ戻せばいいかな、、、、
私は母と喋りながらその事で頭をフル回転。
させていたのだった、、、
暗闇の中、、、
あーーーーん、あーーーーん
僕が、、、泣いている。
あーーーん、あーーーーん
皆んなにいじめられて泣いている。
えーーーん、えーーーーん
いくら泣いても許してくれない
えーーーん、えーーーーん
誰も、助けてはくれない
えーーーーん、えーーーーん
皆んなは楽しそう
えーーーん、えーーーん
僕が、、、何したっていうんだ、、
えーーーーん、えーーーーん
なんで、、そんなに僕を、、
いじめるんだ、、、
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はっ、、、
気がついたら見知らぬ部屋の中にいた。
そして、ふかふかの布団、の中にいた。
(何これ、、凄い、、あったかい、、)
こんなふかふかな布団、初めて見た。
僕の薄っぺらな布団とは大違いだ。
(ここは、、、何処だろう、、、、、)
(僕は、、、何してたんだっけ、、、)
僕はここが何処、よりもまず自分が何をしていたのか、思い出す。
(、、そう、僕は山に来ていた。たくさん採れて、、それで)
(僕は斜面を滑り落ちたんだ。)
(それで、、足を痛めて、、、)
(そこから登って戻る事が出来なくて)
(それでずっと助けを求めて声を出していたんだ、、、、)
順々に、今日の1日を思い出してゆく。
(あの後、、、、、)
(あの後は、、、、)
(あの後は、、どうなったんだっけ、、、)
、、、
覚えて、いない。
覚えていない、、、、、、が。
僕は
(助かった、、、、のか?)
さもなければ今僕は天国にいるか、のどちらかだった。
(、、、、、、、、)
(助かった、、、、?)
周りを、、、見る。
木で作られたしっかりした部屋。
気密性が良いのか全然寒く無かった。
部屋はほんのりピンク色で
何やらいい匂いがした。
何処か異国に入り込んだ様な、、、、
いや、正に異国に僕はいるんだ、と感じた。
(そして僕は生きている、、、)
胸に手をやり、鼓動を感じる。
夢では、、、無い。
僕は
その布団からのそっと、起き上がり、立ち上がって、辺りを見る。
窓、、、しっかりとした造りで、そして外は暗い
(今は夜、、、、)
戸棚、、、本や、何やら工芸品が並んでいる。
(見た事の無いものばかり、、、)
そして、「戸」。
(しっかりした、、造り)
それは引き戸ではなく、前後に開閉する「戸」だった。
(こんな「戸」もあるんだな)
と、その「戸」から光が漏れている。
そして、その先から声が聞こえる、、、
(誰か、、、いる。)
人がいる。
それは僕にとって良い人なのか、悪い人なのか。
(こうして助けて貰ってるわけだから)
「戸」の向こうにいるのは良い人に決まっている。
(助けてくれてありがとうって言おう)
僕は、そう思った。
、、、そう、思ったんだけど、
足が、動かなかった
何か躊躇われた。
(なんで?)
自分でも、分からない。
何となく、気軽に「戸」の向こうに行ってはいけない気がした。
(、、、、、、、)
「戸」の向こうから声が聞こえる
(、、、、、、、)
(、、、そうだ)
僕は思った。
(少しだけ、覗いてみよう)
そうだ、そうしよう。
もしかしたら、「戸」の向こうではお婆が包丁を研いで、僕を食べようと笑っているかもしれない。
そうだったら、僕は音もなくその窓から逃げなくてはいけない。
(助けて、くれた人が、良い人だとは限らない)
昔話には良くある、人を食べるお婆。
他には狐や狸に化かされている、という可能性もある。
(とにかく、その「戸」の向こうを見てみよう)
そう思い、「戸」の側に近づき、その「戸」をそっと、、開けよう、とした
その時
ガチャッ
と、その「戸」が僕の方へ開いてきた。
僕「わっ」
急に「戸」が開いて僕がびっくりして
思わず尻餅をつきそうな程よろめいてしまう
(うわっ、おっとっとっと)
すんでの所を堪えて前を見ると
そこには
僕「、、、、、、」
僕の目の前には
1人の
女の子が、
立っていた、、、、。
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「ちゃんと連れ戻しなさい!」
「戸」の向こうからするその声に
「分かったから!ママ!」
と、大きな声で返す声。
次に、ドタドタとこちらへ向かってくる気配
そして
ガチャッ
と、「戸」がこちらに開いて来た。
僕「うわっ」
僕は思わず声を出し、驚いてしまったが
見ると、
そこには
1人の女の子が立っていた
僕「、、、、、、、え?」
僕は想像していたお婆とのギャップに心底驚いてしまった
(お、、、おんな、、、の子???)
僕が呆気にとられ、固まっていると、その女の子はにっこり笑って
女の子「起きたんだ、良かった」
と僕に声を掛けてきた。
そして、畳み掛けるように
女の子「ごめんね、ママが連れ戻せって言うから」
女の子「もう君は出て行かないといけないんだ」
女の子「ごめんね」
と、言って、女の子は僕に目隠しをして、そして、
僕を、ひょいっと持ち上げた。
(え???)
そして、そのまま走り出し、
ダダダダダダ
女の子「行ってくるーー、ママーーー」
と声を出す。
「ちゃんと目隠しさせたーー??」
という声に
女の子「させたーーーーー」
と大きく答え、女の子は外へ出る。
女の子「行ってきまーーーーーす」
僕は、、、
その、風切り音に
(う、、、)
(うわああああああああ)
驚いていた
跳ねている
飛んでいる
上下に、、揺れている
女の子は、僕を抱え
凄いスピードで走っている!?
ダダダダダダ
(な、、、、なんだこれ、、、、)
目隠しをされていて外の様子が分からない。
分からないけれど
僕は何処かへ連れて行かれている、というのは分かった。
そして
女の子「これ、持って」
僕「えっ?」
女の子の声になにやら布の集まりを、がさっと渡される
(え?え?え?、、、ふ、、服??)
それは服、、、だと思った。
そして、女の子は最後に付け足した。
女の子「それで、前、隠してね」
僕「えっ?」
そういえば、今気付いたが僕は白い布を一枚羽織っていて、下には何も着ていなかった。
(うわああああああ)
僕は顔が赤くなった。
僕はその服で前を慌てて隠す
僕は裸同然でこの女の子の前に立っていたのだから。
(ぜ、、、全部、、、見られた、、、、)
女の子「ふふふふ、大丈夫だよ!緊急事態だったからね」
女の子は僕の赤い顔を見てクスクスと笑っていた。
ぴょーーーーん、ぴょん!ぴょん!!
女の子は僕を軽々と抱えて走っている。
僕は目隠しをされてなされるがまま。
何か、話したい気持ちがあったのだけど何も言葉が出てこなかった。
目隠しをしながら、、、
僕はこの女の子の顔を思い出していた。
、、、一瞬だけ、、見た、
この女の子の、顔を。
(す、、、凄く、可愛くなかったか??)
僕は、、、
そんな事を考えながら、僕は、どこぞに運ばれていた、、、、
私は、人間の子を抱えながら走っていた。
(ママ、、、怒ってたな)
それは当然だ。だって人間を里に勝手に入れたのだから。
そして母は、その事を大ごとにするのでは無く、少年をさっさと村に連れ戻す事で見なかった事にすると決めた。
(なんだかんだ言って、ママは優しいんだよなー)
私は少年を抱えながら一人、母の優しさを嬉しく思っていた。
と、
(ん???)
じーーーーーーー
何かが、揺れている、、、
それを見て私の時間が停止する
(、、、、あ)
今、気付いた。
少年は、裸同然だった。
(う、、、うあああああああ)
しょ、、、少年の裸をまじまじと見てしまった。
(うあああああああ)
思わず顔が真っ赤になってしまう、、、
(ど、、、どうしよう、、、)
気が付いてしまったら、気になってしょうがなくなってしまう。
ついつい、チラチラ見てしまう。
(う、、うあああああああ)
(さ、最低だ、、、)
と、
私は自己嫌悪に悶える
と、
(あっ!)
と、思い出す。
(灯台下暗し、、ってね!)
私は(照れながら)、持っていた少年の服を少年にばん!!と渡して
「これ、持って」
と、簡潔に言う。
(顔赤くなってるとかバレちゃいけない!ク、、、クールビューティーにいかないと!)
あくまでクールに。
そう。
クールに。
悟られてはいけない。
君の裸を見て私が焦っている、などと。
断じて、間違っても、絶対に悟られてはいけない。
私「ふふふ、大丈夫だよ。緊急事態だったからね」
と、先程の言葉の続きを少年に笑顔で言う。
照れてる少年にお姉さんが上からモノを言う感じ。
(大人ならば、こんな感じ、、でしょ)
我ながら自分の演技力に酔いしれる。
少年の顔が更にみるみる赤くなっているのが分かる。
私は
(勝った)
と、思った。
ふふ
私はそんな風に一人で勝ち誇り、自分の焦りがバレていないのを安堵した。
(ふふふふふ、なんか、楽しいな)
この何でもない時間。
それさえも、楽しいと感じた。
何となく、この少年とは仲良くなれる気がした。
(でも人間の村の近くに下ろしたらもうサヨナラなんだけどね)
私はもう少しだけ、この時が続くように、少しだけ、スピードを緩めて、走っていた、、、、