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俺は猫として事件を防ぐ  作者: 旅猫ふらり
~幼なじみの死を回避せよ~
3/3

事件の5日前


腹の虫が鳴る音で、目が覚めた。


猫用に用意された小さなベッドから上半身を起こし、ドアの横に隣同士に吊るされたカレンダーと壁時計を見て、日付と時刻を確認する。


10月5日土曜日 午前7時42分 ミノリが亡くなる5日前


2人の寝息のみが聞こえる静まり返った部屋に、再度、ぎゅるぎゅると自身の腹の音が鳴った。

よく考えると、猫になってからまだ何も口にしていない。


俺は、大きな欠伸をしてから立ち上がり、そのまま半開きになっているドアから、1階にあるリビングへとのそのそと向かった。


この家は、全てのドアが、コットが自由に出入りできるよう、いつも数センチ分開いている。この家族の、猫へ対する思いやりが伺える。


階段に差し掛かった辺りで、香ばしい匂いが微かにした。顎を少し上げ、すんすんと小刻みに息を吸い込み、中に漂う匂いの元を確認し、そちらへと向かう。ダイニングテーブルの横にガラス製の皿が2つ置いてあり、匂いはその食器の片方からしていた。


(猫の嗅覚って凄いな。2階に居たのに、この匂いを感じていたのか…。)


匂いの正体は、ドライタイプのキャットフードと、猫用のスライスされた乾しカニカマだった。物の正体が分かると、口の中で唾液の分泌量が一気に増した。


人間の頃の俺は、キャットフードを食べるという選択肢なんて全く頭に無く、他に食べ物がない状況だったとしても、食べる気なんて絶対に起きなかったのに、猫になった俺の身体は今正直に反応をしていて、何とも皮肉なものだ。


俺は皿の前まで来て立ち止まると、意を決してごくりと唾を飲む。


(キャットフードはやはり抵抗があるが、猫用とはいえカニカマなら…。)


恐る恐る、舌の先でちろりとカニカマを舐める。


(…これはいける!!ただの乾燥したカニカマだ!!)


一度味が分かると、身体も本当の意味で安心したようで、更に空腹の波が押し寄せて来た。

俺はガツガツと、カニカマだけを綺麗に平らげ、その隣の皿に入ってあった水を勢いよく飲んだ。

猫として初めての食事なのに、食べ方飲み方なんて分からないはずなのに、口元はスムーズに動いた。


胃がある程度満たされると、俺はしょりしょりと口の周りを舐め、その場に座った。

そして、ミノリの死の原因をどうやって突き止めるのか、思考を巡らせた。


(昨日も遅くまで考えたが、ミノリは数ヶ月先の未来のことまで話をしている。数日で気が変わった可能性もあるが、やっぱりどうしても自殺を考えているとは思えない。

そして、遺書が引っかかる。遺書があったということは、偶発的な事故とも考えにくい。

となると、考えたくはないが。自殺に見せかけた他殺の線も視野に入れないとな…。

でも、どうやって遺書を用意したんだ?みのりの筆跡で書かれていたことに、間違いはない。

ひとまず、何でも良いから、何か糸口になるような手がかりを見つけないと…。)


俺の胸中は、依然として絶望感に満ち溢れたままだった。


「テスト後初めてのお休みなのに、どうして学校に行かなくちゃいけないのよ…。」

「マナ、それは委員会だからだよ~。」


ペタンペタンと階段を下りて来る足音と、2人の話声が聞こえてきた。


「美化委員の仕事が、まさか土曜日にあるなんて…。ミノリ、知ってた?」

「うん、まぁ。むしろ、そのこと知らなかったのって、マナくらいじゃないかなぁ~。」

「うっ、そんなに有名なことだったの…。」


うな垂れた様子のマナと、その頭をよしよしと撫でているミノリが、リビングに顔を覗かせた。


「にしても、生徒会は大変ねぇ。美化委員の仕事を今日一緒にしてくれるんでしょ?」

「大変かもしれないけど、でも、私は今日マナが一緒だから楽しみだよ~?」

「ミノリ、なんて良い子なの…!!天使、いや、女神様の生まれ変わりなんじゃないかしら。」

「いやいや、マナは大袈裟なんだから~…。」


俺らの学校ではいつも、美化委員が当番制で、放課後に学校の清掃を行っている。

ただ、落ち葉の季節ということもあり、決まった時間だけでは清掃が追い付かないためか、今月と来月の第一土曜日だけは、美化委員全員と生徒会メンバー総出で大掃除が行われることになっている。


マナは美化委員、ミノリは生徒会に所属をしているのだが、この様子だと、マナはそのことを知らずに委員会へと入ったようだ。


「にしても、集合時間が少し遅めの時間で良かったね~。」

「そうね…。それだけが唯一の救いかしら。」

「あ、コットちゃんおはよう~。」


会話をしていたミノリが、俺の存在に気が付いた。マナも続けて俺の方を見る。


「コット、あなた昨日全然ご飯食べていなかったでしょ。今日はちゃんと食べた?」


マナはこちらに近づいて来て、俺の真横で屈み、皿の中を覗いた。


「カニカマしか食べてないじゃないの。」


しかめた顔をすると、ダイニングテーブルの上に置いてあるカゴの中へと手を伸ばし、何かをごそごそと掻き分け取り出した。そのまま俺の隣にしゃがむと、取り出した物の正体が分かった。カニカマの袋だ。


「もう、マナはコットちゃんに本当に甘いんだから~。まだお皿にカリカリが残っているのに、カニカマをまたあげるの~?」


ミノリはやれやれといった表情を見せると、そのままダイニングテーブルの席へとついた。


「だって、今のコットの気分はカニカマみたいなんだから、仕方がないじゃない。餓死でもされたら困るもの。」


マナはぷくっと頬を膨らませながら、乱雑にカニカマを皿の中へと入れる。そして俺をひと撫ですると立ち上がり、ミノリと同じようにテーブルの席へとついた。


(カニカマだけを食べていても、無くなればまた入れて貰えるのか…。俺としては非常に有難い。マナがコットに甘くて助かった。)


俺はもう一切れだけ、今追加されたばかりのカニカマを食べた。入れたばかりでも放置をしていても、味が変わることはないようだ。口元をもう一度舐めると、そのまま2人の部屋へと戻ることにした。




続く)

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