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竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
94/103

第90話 名剣の誕生


エタってたこの5ヶ月での『竜の如き異様』の変更点

・これまでに後書きで説明してきた一部のスキルの効果を変更。

・73話の後書きにスキルの詳細説明が追加。

・1話から89話までの加筆修正。

・18話を前後編に分けて再投稿。

・1章の最後に閑話を追加で投稿。

・26.5話を追加で投稿。

・28.5話を追加で投稿。

一度読んでくれると嬉しいです。これまでなかった話や、補足があるので。



 火にくべられている木の枝は時間が経つほどに燃えて炭化し、赤い光を放ちながら段々と色が白く変わっていく。高沢がここに来た頃には燃える物が少なくなってきていたのか、焚き火の明るさが目に見えて弱くなり始めていた。


「その剣は他のとなにか違うところとかあったりするのかな? 魔剣みたいな感じ?」


「魔剣?」


 高沢は、俺が《硬化兵装》の黒い鱗で覆われた手で微調整をしている黒い剣を指差して問うた。


「あれ、葉桜君知らないんだ。魔剣っていうのは、普通の武器とは比較にならないほど頑丈だったり、特定の属性の力が込められていたり、特殊能力が宿ってたりする剣のことだよ。類義語は魔槍とか魔弓、魔盾かな」


「へぇ、なんか珍しそうだな。高沢は持ってるのか?」


「うん、私は持ってたね。今回のカントリ林の戦いで折れた剣がその魔剣で、ダンジョンで偶然見つけたんだよ。詳しい人に調べてもらったらすごく珍しい物だって言われたんだよねー(チラッ)」


 彼女は意地の悪い笑みを浮かべながら俺をチラチラ見てくる。そこに下心は感じられなかったが、からかう意図があることはありありと見て取れた。


「マジかぁ……。悪かったな、巻き込んだ上に武器を失う原因まで作って」


「いやいや、葉桜君は悪くないって。カントリ林に着いてったのは私の意思なわけだし」


「けど、それじゃあ高沢が一方的に被害を被っただけになるよな? それはあんまりな気が……」


「別に葉桜君が責任を感じることなんてないんだよ? 私はこの通り元気だし、精神的にも復調してるから魔剣の1つなんて問題ないにならないって」


「……」


「……」


 き、気まずい……。


「じゃあ俺がその魔剣の代わりになる物を補填するってことで、この話は終わりにしよう」


「えっ、いいの? なんか申し訳ないねー」


 補填するという俺の言葉に少し驚く高沢。その様子から察するに、最初からなにかを要求するような意図はなかったようだ。本来なら彼女は誰にも魔剣云々のことを言う気はなかったはず。しかし、先程までの会話がもたらした変化がそれを俺に話させるきっかけになったのだろう。

 おそらくニオンにも燃香にも魔剣のことを言っていない。剣が壊れた云々を言うのは高沢のプライドが許さなかった、ということだろう。そりゃ、俺だって嫌だ。自分が不甲斐ないばかりに迷惑をかけただけでなく、助けられた時に武器が壊れたから弁償してくれなんて、恥知らずもいいところだ。

 けど、貰えるなら貰おうとか、強かというか、なんというか……。


「店じゃなくてダンジョンで見つけたって言ってたよな? やっぱり、条件に合ってるからってなんでも魔剣、ってことにはならないんだよな」


「そうだね。どれだけ性質が似てても人工の剣は魔剣にはならないね。そもそも、今の技術力じゃその手のレベルの性能や性質の代物を作れないから、そう呼称できないだけなんだけど。ちなみに、伝説で語られる『桃髪の聖人』が持つ武器は魔剣を凌ぐ力があると言われてるけど、本人が作った物だから魔剣とか魔杖じゃないんだよね」


「あいつそんなこともできたのか……」


「アイツ?」


「い、いや、なんでもない」


「ふーん。ま、誰しも聞かれたくないことはあるだろうから詳しくは聞かないよ。あと魔剣の類のことで言うことがあるとすれば、よくダンジョンや古代遺跡で発見されるから先史文明のオーパーツだっていう考古学者も結構多いかな」


 桃髪の聖人が拠点の中に入ってこれたり、アイリアルのことに詳しく、ゼロリアルを(多分)たやすく倒せるところから、聖人と呼ばれるに相応しい実力があることは分かってはいたが、まさかそんな特技があったとは。

 そんな驚きに俺がふと零してしまった言葉に高沢は疑問を覚えたのか、詳しく聞きたそうな表情をする。すぐに誤魔化したが、どう考えても彼女にいろいろと察してもらったと言わざるを得ない。


「結構多いって、多数派じゃないのか?」


「全体の4割がその考えだね。1割がその他。そしてお待ちかねの多数派、つまり残りの5割がこの世界のとは全く違う文明がもたらした代物だっていう主張かな。なんでも、魔剣やその類の武具は見つかる場所に規則性がなかったり、先史文明の遺産って考えるとそこで既に発見されてる別の文明と年代がダブって不自然らしいんだよね。しかも、どれだけ探しても肝心のその先史文明の証拠は発見できてないとか」


「この世界とは違う文明? 地球のってことか?」


「いや、それは私も詳しくは知らないかな。で? その剣はどんな代物なのかな?」


 全く別の文明、か……。もしかしたら異星人がもたらしたものだったりするのかもな。それにしても、ステータスにダンジョン、魔剣、どんどん分からないことが増えていく。


「これか? これは誰でも使えて、それで使うほど使用者に最適化されていく、そんな感じの武器だ」


「そんなのが作れるんだ。すごいね」


「まあ、すごいのは確かなんだが、まだ試作品だし、実践に耐えられるほどじゃないんだけどな」


「マジ? 仮にそうでもこのレベルの剣は十分すごいと思うよ。魔力の質とか満ち方が普通の物とは違うし、普通に気づくくらいには魂が込められてるのが分かるんだよね」


「そうなのか? 確かにこの剣が会心の出来なのは間違いないが、魂とかはサッパリだな」


 ここに来た時から俺の持つ無骨な剣に興味を惹かれていたのか、高沢はやっとこの話題を切り出せると言いたげな声のトーンだ。


「どうすれば完成するとか、ある?」


「そうだな……」


 そこから高沢に剣についての情報を伝え、それが終わると、互いに意見を出していく。俺だけでは感覚的な部分が多かった《硬化兵装》での武器作りに、彼女の魔力操作への深い理解がもたらすアドバイスが加わったことで俺の武器製作スピードが飛躍的に上昇する。


 黒い剣の調整や改造をああでもないこうでもないと試し始めて結構な時間が経ち、剣が完成した頃には夜が明けてかけていた。


「……やった、ね」


「あぁ、とうとう完成したぞ。間違いなく最高傑作だ」


 手に持った感触で傑作なのは分かっていたが、試し切りをしてみて実感した。これは業物なのだと。

 完成した剣は、色は鈍い輝く黒色で、片刃の大剣だ。刀身は洗練され、ある種の美しさがあり、1つの黒い岩石から切り出したように刀身、鍔、柄が一体化している。

 試し切りに使った岩は、実際に製作した自分たちでも驚くほどに綺麗な断面で両断できた。


 高沢からのアドバイスと協力でなんとかなんとか完成したこの剣は、《硬化兵装》を材料として全体を作り、彼女の力と5体の竜の力が込められている。

 夜刀神の《刀神》で手にしているだけである程度は剣技が強化される機能を付与。ザッハークの《融合邪竜》で刀身の形を変える機能。ル・カルコルの《舗装》で摩擦をある程度操る能力。ヨルムンガンドの《星覆う円環》で成長機能。ファフニールの《邪血装甲》で強度を上げた。《硬化兵装》で作った剣にとはいえ竜の力が付与できているのは純粋に俺が成長したからからだと思う。魂云々はよく分からないが……。


「そういえばなんでこんな複雑そうな物作ろうと思ったの?」


 岩を真っ二つにした際に剣に問題が起こっていないか、なにかしらのミスがないか剣の具合を確かめていると、高沢は太腿に頬杖をつきながら問うた。

 山の頂上付近を彼女が訪れた時に見たであろう黒い武器群の改良ではなく、なぜ一点物を作ろうとしていたのかが不思議なのだ。その武器自体の半数近くが不完全な失敗作ばかりなのにも関わらず、ということだろう。


「俺の持ってる《毀れの手》ってスキルは相手が接触に使うもの、拳や剣やら矢や盾やらを破損させやすくするって効果があるんだ」


「へえ! すごいスキルだね。けどそれと剣になんの関係が?」


「それが、そのスキルは武器を手にしてる時しか発動しないから今まで使ったことなかったんだよな」


「だから剣を、ね。なるほどなるほど。……つまり、今まではガチの宝の持ち腐れだったってことかな」


「ほっとけ。……それで? ステータス見たいってのは今も変わらないのか?」


「うん。今なら後ろ向きな考えにはならなさそうだし、今後の参考にもしたいからね。もちろん私が葉桜君のを見るだけじゃないよ? 私のステータスも葉桜君に見せるからね」


「分かった。……こうか?」


「そうそう、そんな感じ」


 頭に2人分のステータスが浮かぶ。きっと高沢の方にも同じように表示されているだろう。


————————————————————————


 葉桜結理 入門? 男性 ■■才


 LV.110


 HP 1609/1609

 MP 203/672


 筋力 879

 耐久 1247

 魔力 853

 魔防 699

 俊敏 1065


 スキル 聖なる献身:B

     察知:A++

     闘魂:SS

     俊足:S

     隠匿:A

     背水:S

     毀れの手:S+

     不和:EX

     不浄体質:EX


 融合能力 柔装甲:C++

      先読み:D

      武辺:C

      勇壮:D+

      点火:C+


 適性 火:A

    水:B

    土:B

    風:B

    雷:C+

    無:B++


 特性 ・硬化兵装:C++

    ・邪竜回帰:E+

    ・邪眼:S

    ・混血:C

    ・竜鬼の誓い:C

     ??化:E


————————————————————————


 高沢来 人間 女性 18才


 LV.100


 HP 1156/1156

 MP 890/1003


 筋力 664

 耐久 649

 魔力 1008

 魔防 925

 俊敏 703


 スキル 剣技:S+

     察知:S

     閲覧:D

     心の眼:A

     集中:A+

     備蓄:D

     千里眼:A

     捜索:S+

     転移:S

     拡張:S

     浮遊:E


 適性 水:A

    雷:S


 特性 ・剣神:S++

     光剣術:A+

    ・魅了:E


    【言語理解】

    【成長補正】


 特殊機能【アイテムボックス】


————————————————————————


「入門ってなに?」


「それは俺が聞きたい」


 さらに種族名と年齢が謎になっていた。間違いなく、段々と人間じゃなくなっている。このまま行けば確実に……。けれど不思議なことに恐怖もなにも、この変化を忌避する感情は全くと言っていいほどに湧かなかった。まるでこうなることが自然なように、ただあるべき姿になるだけなのだという納得と、奇妙な誇らしさだけが俺の胸にあった。

 まるで洗脳でもされたみたいに、どこから出てきたか分からないこの感情に薄ら寒いものを覚える。だがそれも、この変化はおかしいと思う理性がギリギリのところで感じさせているものであり、いつかはこの危機感すら消えてしまうという予感さえあった。


「……葉桜君ってやっぱり強いね。《成長補正》持ってないのに」


「まあ、……うん」


「これは葉桜君の努力の結果だから、そんな申し訳なさそうな雰囲気出さなくてもいいんだよ。それにさ、度を越した謙遜は嫌味になるよ?」


「悪かった、これからは気をつける」


「うん、それでよし。自分で言うのもあれだけど、私も一応勇者の中では平均以上の強さなんだよね。そんな私より強い、君レベルで強力な勇者はそういないよ。勇者としてこの世界に呼ばれても、ついこの前まで戦いや荒事とは基本的に無縁の世界にいたんだから無理もないんだけどね。一般人なわけだし、命の危険があるような場所には行かないし、ギルドの依頼や勇者の仕事も極力本人の実力と照らし合わせて怪我はしても絶対に重傷は負わない場所を選ぶ。そもそも、そういう場所しか許可降りないんだよね、勇者って。結構な召喚コストを支払ってて貴重な戦力なわけだし、勇者を死なせたら国のメンツ保てないし。そこそこの実力で落ち着くのは当然といえば当然なんだよ。……けど、ほんのごく一部だけど、Sランク冒険者を超える実力を持つ人はいる。全員葉桜君みたいな命知らずだけどね」


「いや、俺は命惜しいんだが?」


「……へえ、明らかに自分の実力を超えてるワームに戦いを挑んだり、アイリアル蔓延る国に出かけたり、キャドン山でSランクに近い魔物と戦うのは命知らずじゃないんだ?」


「ぐ、ぐぬぅ……。と、ところで《備蓄》ってどんなスキルなんだ? 燃香も持ってたんだが……」


 ぐうの音もでない。その通りだ。元の世界の日本を探しても俺みたいな命知らずはそうそういない。……いや、蛇木がいたか。あの自称戦闘狂でちょっとヤバいヤツが。


「あ、逸らした。まあ、いいけどね。《備蓄》の効果は事前にHPMPを減らしたことで作った『ストック』を使っての即時回復だよ。ポーションと比べると、一々飲まなくてもいいし、徐々にじゃなくてすぐに高い回復効果が期待できるから結構使えるスキルなんだ。私はまだうまく扱えないんだけど、熟練すると回復量が上がったり、ストックの個数が増えたりするんだったかな」


「! それってどうやったら手に入るんだ!?」


 燃香が持ってるということはサバイバルに向いているスキルなのだろう。というか、それしか思い浮かばない、とは思っていたがかなり有用なものだった。しかも《不和》のデメリットで他者から回復も補助も受けられず、自分アジ・ダハーカではその系統の魔術が使えない今の俺にとってはまさに干天の慈雨のようなスキルだった。


「えっ? えっと……食いだめ?」


「食いだめ?」


「そうだよ。一時期スランプになってた頃によく食べ物をたくさん食べてストレス発散してたことがあってね。その時獲得したんだ」


「……それ、どう考えてもやけ食いじゃないか?」


「そうとも言うかな」


「そうとしか言わんだろ」






「葉桜君って『派生特性』を持ってるんだね」


「派生特性? 特性の斜め下に表示されてるヤツのことなら高沢もあるじゃないか」


「まあそれもそうなんだけどね。さすがに私のにはハテナはついてないかな。どうやって手に入れたの? 自分でも分からない特性ってことなら、やっぱり邪竜に貰ったとか?」


 最初は俺が一方的に高沢のスキルのことを聞いていたが、さすがに長時間かつ一方的というのは悪いだろうと、途中で切り上げて交代した。俺もスキルのことを根掘り葉掘り聞いたが、高沢も負けじと同じくらいの時間をかけて聞いてきて、その問いを聞き終えてみると自分の問いがどれほどの時間かかっていたかを実感した。反省。


「いや、少なくともこの特性は違う。というか、派生特性ってなんだ?」


「派生特性っていうのは、特性から派生する別の特性……つまり読んで字の如くかな。獲得する理由は人それぞれだからなんとも言えないけど、その特性の名前とか効果が分かればいろいろと推測することはできるよ」


「……特性の説明が空欄ってことあるのか?」


「私の知る限りそういう例はないね」


「……」


「……」


「…………この話はやめにしよう。キリがない」


「そうだね」


「……」


 少しの沈黙のあと、本当になんとなく、突拍子もなく思いついたことを高沢に投げかけた。


「……この剣、いるか?」


「えっ! くれるの?」


「ああ、手伝ってくれたお礼と折れた魔剣の代わりだな。大事に……まあ、多少雑に扱っても壊れないから安心してくれ」


「ありがとう、大事にするね。って、あ、とれた。こ、こここここれ、どうすればいい!?」


「大丈夫だ。元々幾つかに分離できるように作ってある。高沢、元々細身の片手剣使ってたわけだしその辺もちゃんと考えてたからな」


 俺の言葉に高沢はやや遠慮がちに、けれど結構嬉しそうに答え、無名の黒剣を受け取った。触っているうちにギミックの1つを起動させてしまったのか、剣が縦に2つに割れて二振りのやや細身の剣に変わる。


「あ、戻った。よかった、貰ったばっかりで壊したのかと思った……」


 何回か試し、コツを掴んだのか、二振りの細身の剣から元の大剣に戻る。


「一応使い方は教えておいた方がいいよな?」


「そうだね、手取り足取り教えてくれるかな?」


「そーだな」


「あー! 普通にスルーした! そこはドギマギするところじゃないのかな!?」


「知り合いに今の高沢以上のからかい力のある人がいるからな。その程度じゃドキドキできない」


 使い方を教え終わった頃には空は青くなり、朝日は俺たちを照らし始めていた。しかし、戦乱はまだ終わっていない。


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