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竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
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第87話 邪龍との因縁


 地面に這いつくばる勇者たちが燃香の魔術によって魔法陣の光に閉じ込められて転移していくのを見届けると、自分の肩の力が自然と抜けていくのが分かった。あんな数の勇者が1ヶ所に集まっていて、しかも自分がその集団に攻撃を仕掛けていたなんて正直生きた心地がしなかったのだ。


 今回俺が呼び出した竜は3体。

 1体目はバハムート、ステルス機みたいな形状の竜で、使ったのは『基底崩し』という重力を操る能力、その能力で勇者たち全員に重力攻撃を仕掛けた。

 しかし、『基底崩し』は使用範囲と対象の数が増えるほど効力が弱まるので、勇者1人ならなんとかなるかもしれないが、バハムート単独であの人数を制圧するのは不可能だ。さらに、重力攻撃は消費する魔力も大きく、今回のように出力全開で使うと十数秒しか持たない。

 2体目は今回初めて実戦で呼び出した竜、ケツァルコアトルスだ。この竜には『暴風』で上から押さえつけるような強風を吹かせてもらった。

 実はこいつ、俺の言うことをほとんど聞かない。聞いたとしてもその指示といえば、破壊か、特攻か、殲滅だ。さらには、敵と味方の区別をつけて攻撃してもくれないという、完全に制御不能の暴れ馬なのだ。今回は味方の人数が少なく、目の前に分かりやすく敵の集団があったからこそ味方への誤爆がなかったが、敵と味方が入り乱れる空間では使えない竜だ。なお、これでもティフォンなどの味方の竜には攻撃しない。むしろ援護とか連携を普通にする。だが俺には攻撃する。なんで?

 3体目にはヨルムンガンドという竜を呼び出した。何気に使うのは2度目だ。1回目は俺の意思とは関係なく出てきた。あのコープスっぽくなってた竜の炎から俺を守り、庇うために。

 今回、ヨルムンガンドは雲の中に密かに呼び出しておいた。なんとこの竜の全長は呼び出した直後だと僅か数センチほどで、他の竜とは比較にならないほど小さいサイズなのだ。だが、それも『星覆う円環』という能力で無限大に成長し、時間をかけるほど巨大になっていく。そして巨大化に伴い貯まったエネルギーを『咆哮』で解き放つのがヨルムンガンドの戦い方だ。今回はその解き放ったエネルギーを圧力にして勇者の動きを阻害した。


 だが、たとえ竜の力を総動員できたとしても、数秒というごく短い時間だけであっても、勇者たちの動きを止めることは実力的に不可能だ。しかし、俺は1人ではない。ニオンと燃香と、あと高沢がいる。

 ニオンは、セミの姿で勇者相手に猛威を振るったという振動波攻撃を、複数人に《分身》した上で使用した。ニオンの分身体は《分身》のランクが低いせいか、ほとんど実体を持っていないので偵察だけならともかく攻撃をすることはできない。しかし、高沢の《拡張》のスキルで《分身》を一時的に強化したことで、4人に分身の人数が増えて実体を持ち、攻撃することも可能になった。

 さらに事前に《不浄体質》が込められた黒い粉末をカントリ林中に撒いておくことで魔力への耐性を下げ、さらに追加で黒い霧と呼べるほどの濃度の量の粉末を飛ばした。しかもこれらの粉末には直前までバレないようにするため、ニオンの本気の《隠匿》が付与されている。


 ニオンの分身4人と竜たちに攻撃を任せることで俺たちは大樹になんなく辿り着き、勇者たちが動けなくなっている隙に大樹にニオンが触れてその力を借り、燃香に供給することで転移を発動できた。

 これがニオンが話した作戦の全容だ。かなり無茶なものだったが、なんとか実現できた。この4人が揃っていなければ、1人でも欠けていれば不可能だったに違いない。

 そんなわけで今、大樹の、引いてはカントリ林に住む魔昆虫たちの危機はニオンらによって救われた。ぶっちゃけ俺なにもしてなくないか? 撹乱は竜たちに任せてたし。いや、《不浄体質》の粉末撒きまくってたか。しかし、問題はそこではない。


「(なぜか分からんが、ありえない空気が悪いんだが? だが!?)」


 ともすると沈黙という冷戦の終結と同時に全面戦争が始まりかねないほどの空気、思わず思考がアサッテの方向へ逸れてしまうほどに険悪だった。

 大樹の地下から出てきた魔昆虫たちは皆計ったように俺を横目で窺っているような気がする(魔昆虫に表情とかがあるわけではない。なので視線を感じるだけ)し、なぜか分からないが、サソリっぽい魔昆虫は燃香に熱視線を送り、高沢は、居心地悪そうにその視線をチラチラと俺とニオンの間で右往左往させていた。(なお、高沢の服はボロボロになっていたので作戦実行前に同じ執事っぽい服に着替えて予備の仮面をつけた)つまるところ、なぜかその場のほぼ全員が挙動不審な有り様だ。


「あなた方が言わんとしていることは分かっています。彼はユウリ・ハザクラ。私の仲間であり命の恩人で、決して邪悪な存在ではありません」


「ではその彼が纏うそれはなんだ? まるで邪竜そのものではないか? それに『飛翔』よ、君に限って彼の持つ《邪竜回帰》の特性を気づいていないわけではあるまい。その特性は彼がかの邪竜の縁者であることを指し示しているのではないか?」


「……」


「確かに『結界』の言う通りです。『飛翔』、邪竜が我々にとってどういう存在か、あなたが理解していないはずはない。もし知った上で行動をともにしているのなら、理由を聞かせていただけませんか? でないと私はあなたを庇えません」


「……答えられません」


 やや尊大な口調と態度でニオンを問い詰める魔昆虫の『結界』。彼に続けてニオンに話しかけ、その身を心配するチョウの魔昆虫の問いにもニオンは答えなかった。その答えないという、返答に魔昆虫たちはにわかにざわつきだした。

 故郷の仲間にすら答えられない理由とは、ここに俺たちがいるから話せないのか、単純に彼らには明かせないことなのかは分からない。だが、状況を悪くしてまで隠さないといけないということは、余程重大なことなのだろう。


「それはなぜだ?」


「それも答えられません」


「なにかの契約が原因で答えられない、ということか?」


「ええ、その通りです。契約内容を明かすことはできませんし、たとえユウリが許可したとしても私は話せません。無論、ユウリも他言できません。そういう契約なので」


「(えっ、アレ? そんな契約したっけか? 《血書契約》を結んだ時、読み飛ばさずにちゃんと全部確認したが、そんな契約内容自体を秘匿するような文言なんてなかった。それに今は《血書契約》の特性自体消えてるし、これは一体、どういうことなんだ……?)」


「……全て承知の上、ということか?」


「無論です」


「そうか……」


 『結界』のさらなる問いにもニオンは頑なに口を閉ざす。さらに俺に覚えのない契約によって、ニオンは理由を口外できないと魔昆虫たちに言い放った。その契約に若干動揺し、表情がアーマメントファフニールの鎧で隠れていてよかったと思っていると、『結界』がなにやら重い雰囲気を醸し出しながら問いを発した。微塵の迷いもないニオンの肯定の言葉にさらに魔昆虫たちの動揺が大きくなる。


「1つ聞いても?」


「どうぞ」


「彼は、ユウリ・ハザクラは仲間か? それとも?」


「(……そういうことですか。『幻覚』は私が『邪竜であるユウリに取り入っている』と考えている。そしてそれが事実でないなら、もし私が後者でなく前者だと答えれば、彼らに対してこれ以上ないほどの明確な敵対宣言ということになりますね。なにせ邪龍は私たち魔昆虫にとって不倶戴天の敵ですし、なによりこういった閉鎖的なコミュニティは、1人が自分たちの足並みを乱すような行為をとても嫌いますから……)」


 ガの魔昆虫はかなり意味深な、多分身内にしかなにを問うているのか分からない問いをニオンに投げかけた。ニオンは熟考しているようだったが、俺にはなにを考えているのか想像のしようがなかった。


「ユウリは私にとって、いえ、私たちにとって大切な仲間です」


「『結界』の問いに重ねて問おう。それがどういうことか理解しているんだな?」


「はい。……今までお世話になりました」


「そうか……」


 ニオンはそう呟き、セミの姿で器用に一礼すると、魔昆虫たちに背を向けてその場を去る。俺たちはなにが起こっているのか分からず、取り敢えずニオンを追うも、その背からは悲しいのか、それほど堪えていないのかを察することはできなかった。






 大樹付近を離れ、魔昆虫たちの視界から外に出るや否やニオンは《人間化》を使い、見慣れた人間の姿になった。以前とは異なり、人間の姿でいることに躊躇いがなくなっている。

 ニオンは結構慎重で、今までは寿命の関係上、元のセミの姿になることは俺の知る限りはなかった。本来の姿になると1日で寿命が尽きてしまうからだ。それなら半日で戻ればいいと普通は考えそうなものだが、人間の姿に慣れるためなのか、あるいは時間制限という要素が不安なのか、それは分からないが、拠点で会った日からこの日までニオンの本来の姿を目にすることはなかった。

 これまでは仕方のないこと、という要素が強かったが、今は別の理由でもあるのかむしろ積極的にすら見える。


 人間の姿になってからも一言も発することなくカントリ林の外へ向かって歩みを進める。先程までの魔昆虫との会話がもたらした重たい雰囲気とは打って変わって、帰宅の際のニオンのその足取りは軽快なもので、あんな真剣そうなやり取りを同一人物がしていたとは思えない。それに心なしか上機嫌のようにも見える。

 しかし、拠点に戻るとすぐにニオンは自室に入り、時間が経って夜になっても、ニオンは窓の外の空を黙って眺めるばかりで部屋から出てこようとはしなかった。燃香の提案で高沢も一緒に夕食にしようということになっても反応が全くない。のんびりしてないで速く地方都市ランドに帰るべきと言うかと思ったのだが、変わらず無言。さすがにニオン抜きで夕食にするのもよくないので、代表して俺が話をしにいくことになった。


「……ニオン、入ってもいいか?」


「構いませんよ」


 ニオンの自室に向かうと戸は開きっ放しで、そこからその様子を窺うことができた。窓の外を見つめ、物憂げな表情を浮かべるその横顔に少しドキリとした。しかし、「あまりにも綺麗で見惚れてました」とは絶対に言えない。ニオンは女性扱いをされるのを嫌う。かと言って男性扱いも嫌がるが。

 ニオンは俺が部屋の前に立つと、来るのを待っていたと言うように和やかに微笑み、入ってくるよう手招きする。


「ありがとう。……俺のことを大切な仲間って言ってくれて嬉しかった」


「本心ですからお礼を言われるようなことではありませんよ。そもそも、ここには聞きにきたんでしょう? なぜ久しぶりにあったはずの故郷の仲間と碌に会話もせずに去ったのかを」


「話したくないならそれでも構わないんだが……」


「ユウリ、あなたにはぜひ知っておいてほしい。なぜ彼らがあなたを危険視したのかを」


「……」


 俺はニオンの隣りに座ると、昼間、魔昆虫たちに言ってくれた言葉を思い出して微笑んだ。ニオンは優しげな眼差しで俺に問う。

 実際は違うことを、一緒に夕食にしないかと聞こうと思っていたのだが、単刀直入過ぎるのはどうかと思って聞かないつもりだった。しかし、本来質問される側の人が逆に単刀直入に聞いてきたので、聞かないという選択肢がなくなった。


 知ってほしい、その言葉に俺は無言で頷くとニオンは語り語り始める。


「……かつて西大陸と北大陸には、カントリ林とは比べ物にならないほどの数の魔昆虫が、楽園と呼ばれるほどの規模で生息する場所がいくつもありました。しかし、800年前、北大陸にて邪龍が誕生し、その力の余波で魔昆虫たちは北大陸から姿を消した。それだけに留まらず、邪龍はさらに魔法を打って西大陸の一部を吹き飛ばし、その際の急激な気候変動が原因で西大陸からも魔昆虫は絶滅しました。カントリ林にはその当時、逃げ延びた魔昆虫たちが作った最後の楽園なのです。なので邪龍のことを目の敵にしているんですよ」


「そうだったのか。……なにやってんだ、あの邪龍」


 またしてもどこかでミルの高笑いが聞こえたような気がした。



知性のある魔昆虫のコードネーム的なものと種類の紹介

『結界』 クモ種

『舞踊』 チョウ種


 未登場

『斬首』 クワガタムシ種

『七天』 テントウムシ種

『不全』 ハチ種

『絶壁』 ムカデ種

『??』 ???種(ニオンの親友)


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