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竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
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第84話 光剣術


 勇者の男性は燃香からの魔術攻撃を警戒して、戦う場所を変えるべく高沢と燃香から距離をとる。高沢も転移魔術発動に集中する燃香に邪魔が入らないよう場所を変えるのは都合がいいとその姿を追う。2、3秒で100メートルほどの距離を2人とも走破し、邪魔が入らないことを確認すると、再び己の武器を構え合う。先に攻撃を仕掛けたのは高沢だ。


「(燃香さんは転移魔術に集中しているから援護には来れない。それに日光に触れないようにするためにあの黒い格好と、日光を遮断する闇属性魔術を付与した日傘を差してる。そもそもあの格好で、しかも日光に当たらないように気を配りながら戦闘なんて無理だよね。私が頑張らないと……)」


 高沢の使った魔技は激流剣(ウェイブスラッシュ)。Aランク水魔術、激流砲弾(フロートウェイブ)を魔技として使用しての剣撃だ。その荒れ狂う津波の如き一閃は屁理屈丸出しの勇者の意識を一瞬で奪い去るほどの威力と勢いがあった。

 しかし、勇者は両手に持つダガーで苦もなくその斬撃を受け止める。加えてその様子に焦りの色はない。高沢は勇者の不敵な笑みに応えることなく剣にさらに魔力を込めてダガーを勇者諸共切り裂こうとする。彼女の魔力が高まると、同時に魔技も呼応するようにしてそれまで互角だった均衡が崩れる。

 それを好機とみた高沢は剣を押し込み、鍔迫り合うお互いの武器がより一層激しく火花を散らす。どちらの武器も高い性能を持っているが互角、あとは使い手次第。圧された勇者は逆転の目を狙い、同じく魔技を繰り出すべくダガーに魔力を込め始めるが、間に合わずダガーの方が先に限界が来たらしく、ヒビが入る。しかし、その瞬間、刀身が伸びて曲がったのではと錯覚してしまうほどの絶技が勇者から繰り出された。魔技が入ると確信して油断していた高沢は咄嗟のことに対処できずにダガーが首を掠ってしまう。


「ッ!」


「チッ」


 さらに追撃の絶技が高沢の首を襲うが、彼女はそれを予期しており、ダガーが首を掠った時点でその場を飛び退いていた。


「こんなものか。どうやら君は私たち選ばれし勇者ではないようだな」


「選ばれし、勇者……?」


「そうだ。選ばれし勇者である私たちは皆、《不可逆論理》の特性を持っている。まあ、その反応から察するに君は持っていないようだ。それに知る必要はない。ここで死ぬからな」


「!!」


 その声だけを残して、ついさっきまでそこに確かにいた勇者の姿が幻であったかのように消えた。高沢は直感と察知系のスキルを頼りにその場から横に跳び、先程までいた場所にCランク雷魔術の雷波(ショックスパーク)を叩きつけた。その電気の束が地面に到達すると同時に勇者が片手のダガーを振り切った状態でその場に現れる。

 雷波(ショックスパーク)は勇者のダガーの斬撃で散らされたようだった。向こうは躱されることを織り込み済みだったらしく、ダガーを振るったのは高沢の首を狩るためではなく魔術を弾くためだった。しかも高沢の回避位置まで読んでいたのか、翳した手のひらは丁度彼女の方を向いており、直後、魔術が放たれ、さらにまたしても勇者の姿が幻であったかのように消える。


暗鬼の斬撃(デモンズセイバー)


「ぐッ! うぅぅ! 雷神槌(ライトニングハンマー)ッ!」


 高沢は身を捻り、直撃コースに飛来した毒々しい黒紫色の矢のような斬撃、Bランク闇魔術である暗鬼の斬撃(デモンズセイバー)に脇腹を抉られながらもなんとか致命傷を回避し、一命を取り留める。彼女は意識を手放してしまいそうなほどの激痛に耐え、既に発動準備を済ませていたAランク雷魔術雷神槌(ライトニングハンマー)を8つも宙に出現させると、姿を消した勇者がいそうな場所に手当たり次第に打ち込んでいく。その槌は直径1メートルほどの円形のネオンサインのような形で、青白い輝きを眩しく放っていた。


「ぐはっ!?」


 地面を容易く砕き、陥没させるほどの槌が鳴らす地響きと、電気の激しく散る音を響かせながら打ち込み始めること数撃目、空間の揺らぎとともに勇者が姿を現した。なにかしらのスキルでも使っていたのか、勇者はカメレオンのように風景に溶け込んでいたようだ。

 雷神槌(ライトニングハンマー)から受けた衝撃に彼は吹き飛ばされて大木に叩きつけられ、電撃に麻痺でもしたのか、呻く声は聞こえるものの、その場で硬直して動かない。


「……あなたの考えてることは勇者の総意だと、そう言いたいのかな?」


 高沢は抉られた脇腹に上級の治癒魔術であるハイチャージをかけて瞬く間に治癒させる。傷口は完全に塞がって痕もないが、負傷の鈍い痛みはまだ残っている。相手が動かないとはいえ、まだ戦闘の最中であることに違いはないため、まだ気は抜けない。脇腹を抉られるという今までに受けたことのない激痛をなんとか抑えつけて、糾弾するように、大木に力なく寄りかかる勇者に問う。


「なにを当たり前のことを。お前のくだらない問答に付き合う気はない。さっさと殺せ」


「なっ!? 殺すなんてそんなことできるわけない!」


「なにを言うかと思えば。私は敵だぞ? その敵が動けず無防備な姿でいるというのに殺さないとは。私も随分舐められたものだな。そもそもこれは戦争だぞ? 戦場にいる兵士が死なない戦争などあるわけがない」


「戦争……? 兵士……? 一体なにを言ってるの? 私たちが兵士ってどういう意味!?」


「この戦いに参加している時点で誰もが皆平等に兵士だ。兵士が人を殺すのは当然のことだ。まさか、その自覚もなしに剣を振るっていたのか? だとしたらお笑いだな」


「そんな……」


 今、初めて高沢はこれが戦争なのだと気づいた。勇者の軍勢と国の戦い、彼女はテレビ越しにしか聞いたことのない、戦争という人間の欲深さと罪深さを体現するどうしようもなく低俗な行為に自分が加担していると突きつけられ、愕然とする。

 しかし、こと一瞬を争う戦闘の中、勇者がそんな隙を見逃すはずもない。彼は袖口から無数の銀の、針金のように飾り気のない鉄針をボーガンの矢のように放った。動揺から復活した高沢は咄嗟に身を逸らすも、それらは隙のできた彼女の頬、腕、肩、脚、脇腹を切り裂いていき、背後の林に消える。


「お前は本当に愚かだな。戦闘の最中に敵から意識を外すとは」


「……私は殺さない。人間として正しくあるためにこの戦争を終わらせる。そのために今はあなたを止める! (ひかり)一閃!」


 鉄針に切り裂かれてできた複数の傷から血を流しながらも高沢は自分の信じる正しさのために戦う覚悟を決める。すると、それに呼応するかのように剣から大量の光が溢れ出し、彼女はオーラを纏うようにしてそれに身を包んだ。


 高沢の持つ勇者としての特性の1つである《剣神》の効果は、剣技の習熟速度の強化、剣を使っての攻撃での威力の上昇、剣を扱うことに関しての精密さにプラス補正、剣を手にしている間、身体能力を向上させる。

 さらに彼女はそれを発展させた。魔技の仕組みを《剣神》に取り入れ、独自の技を作り上げたのだ。それが『光剣』。高沢に無属性適性はなく、彼女が操る『光剣』の光にも属性はない。ただ魔力を純粋なエネルギーの状態で使用しているのだ。普通なら魔術を伴わない魔力でできること、出せる威力も限られる。しかし、高沢の《剣神》と絶え間ない努力により鍛え、練り上げられた『光剣』という技はいつしか《光剣術》というスキルに変化していた。

 《光剣術》は発揮と同時に白光のオーラを纏う。それは鉄壁の守りであり、周囲の魔力を吸収する回復手段となり、さらにそのオーラを体から放つと斬撃として敵を討つのだ。


「ぐっ!? これはっ!」


(ひかり)二閃!」


 勇者は白く輝く斬撃を紙一重で躱すも、流れるような自然な動作で放たれた二撃目の2つの斬撃は躱せなかった。輝く斬撃は、勇者を切り刻む直前で爆ぜると、彼を細切れにすることなく数メートル吹き飛ばすにとどまった。


「私は殺人を肯定しない。たとえ誰が相手であっても、どんなことをしていても」


「……少し優位に立った程度で勝ったつもりか?」


「そんなつもりはないよ。それに油断なんてしてない」


 光を見に纏う高沢は再び剣を正面に構える。勇者はヒビの入ったダガーをアイテムボックスに仕舞うと、代わりに別のダガーを取り出し、彼もまた臨戦体勢をとる。

 構えをとったまま動きを止める2人の間に、時間が止まったと錯覚してしまうほどの沈黙が訪れる。呼吸すらも忘れてしまったかのように微動だにしない2人だが、この時点で既に戦闘は始まっている。お互いが呼吸、視線の動かし方、体の僅かな動き、さまざまな要素から相手の行動を、1秒先を読み合っているのだ。


 高沢は脚に集中させたオーラで加速して地を蹴り、勇者は自身に身体強化をかけ、互いが相手の行動を見切ると、全く同じタイミングで動き出していた。高沢は戦う覚悟とともに勇者の懐に飛び込み、剣を振るい、勇者もまたダガーで高沢の喉を狙う。お互いがお互いの攻撃を見切っていたがゆえにどちらの攻撃も不発に終わるが、それだけで終わりになるわけがない。さらに2人は一撃必殺たり得る技を出し惜しむことなく繰り出し続ける。

 高沢は纏う白光のオーラをより強くし、斬撃の威力を強めていく。彼女が剣を振るう度に発せられる光の余波で地面は削られ、大木は深い傷を作っていく。だが、《光剣術》のその見た目の派手さとは裏腹に勇者に決定打を与えることができない。しかし、彼女の放つ光に触れた際のダメージは無視できるレベルにはないらしく、勇者は接触を避けているせいか接近戦に持ち込めずにいる。高沢もそれは理解しているらしく、接近戦に持ち込まれないように広範囲に、しかし、それを諦めて遠距離攻撃に移られれることのないように光の斬撃にギリギリ回避できるような空白を設けつつも余波で少しずつ負傷を負わせていく。


 勇者も攻撃されてばかりではないと時折鉄針を投擲するも、悉くがオーラに阻まれてしまい、ダメージを与えられない。状況は一方的だが戦力そのものは勇者の方が数段上を行く。撤退や、遠距離から魔術で攻撃するなどの戦略を駆使しないのもまだまだ余裕があるからだ。だが、ステータスで優位に立つ勇者をして《光剣術》は厄介と思わせるほどだった。見に纏う白光のオーラは鉄壁の守りと強化魔術(ブースト)を用いない筋力や俊敏の強化をもたらし、大量に放たれる光の斬撃は辺り一帯に大量の魔力を溢れさせるせいか《察知》が思うように働かない。

 本来は魔力で場が満たされても、《察知》が多少の影響を受けることはあれど、ほとんど役に立たない状況に陥ることはない。込められた魔力が特殊なのか、なにかしらの妨害工作が行われているのか、勇者にそれを判断する材料はなかった。


「(愚かで自覚が足りないとは思ったが、しかし、これほどの逸材とは。どうにかしてこちら側に引き込めないものか……)」


(ひかり)風穴! ……戦いの最中に余所見なんて、随分余裕なんだね」


「(問題は向こうにその意思が全くないことか。多少手荒になっても話し合いに応じてもらうしかなさそうだ)」


 一般的な勇者よりも高いステータスに、自ら編み出した戦闘スキルに技、日々の鍛錬が窺える技量と身体能力。高沢のスペックの高さに注目した勇者はなんとか勇者集団の仲間に引き入れられないかと思案し、彼女から視線を逸らし、《千里眼》を使って100メートル先で瞑目する燃香を観察する。なにかしらの魔術やスキルでも発動させようとしているようだが、ただならない雰囲気に人質に取れるような相手ではないと判断する。

 剣から放たれた光の旋風は、燃香に注意が逸れた勇者を狙う。しかし、まるでそれが来ることを予期していたように危なげない動きでもって躱された。さらにはまるで高沢のことなんて眼中にないと、自身の後方をちらりと振り返った勇者に嫌な予感を覚えて焦った彼女は、嫌な予感が現実のものとなる前に決着をつけるため、見に纏う白光のオーラを剣に集中させてその輝きを一層眩いものにすると勇者めがけて解き放った。


「……(ひかり)轟嵐!」


 その白光の爆発は自らの視界をも、目が眩むほどの光で白く染め上げた。少しして視界が戻ると、辺りが光轟嵐の直撃で立ち上った白煙で、霧がかかったように高沢の目には映った。


「はぁ、はぁ……」


 大量の魔力を消費し、維持できなくなった《光剣術》は解除され、衝撃で割れた仮面が地面に落ち、高沢は剣を地面に突き立て膝立ちになってしまう。しかし、彼女には気がかりなことがあった。それは勇者の生死だ。もし光轟嵐が直撃しても戦って分かった感覚から推測するなら戦闘不能な重傷にはなっても死にはしないはず。だがそれ以上に問題なのは……。


「……もし先程の攻撃が直撃していたら危なかったな。しかし、余波ですら十全に動けなくなるほどの負傷を負わせる技とはな。いや、その光の剣技、むしろ余波で負傷させることに重きを置いた技なのではないか?」


 躱された時のことだ。

 この光轟嵐は高沢にとっては正しく必殺技と言えるほどの火力があるが、同時に魔力を多大に消費してしまう諸刃の剣なのだ。今までしくじったことはなかったが、今回は発動前の焦りに加えて勇者の回避能力がずば抜けて高く、相手が悪かったというのも大きい。おまけに敵味方問わずに視界を奪ってしまうのも欠点の1つだ。


「しかし、この勝負、先程の技が当たっていたとしても私が勝利していたようだ」


「どういう、意味……?」


 さらに悪いことは続く。魔力を大量に消費し、立っていることもままならない高沢に、大木の枝の上に立ち、彼女を見下ろす勇者は無慈悲は告げた。


「援軍の到着だ」


「なっ!?」


 カントリ林の空を覆うほどの大量の魔昆虫、その軍勢が現れたのだ。



スキル《察知》 自身の回りの一定範囲内の人などの動きや存在を感じ取る。ランクが高いほど範囲と性能が上昇し、察知できるものの種類も多くなる。

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