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竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
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第82話 未知(主に悪い意味で)との遭遇


 剣を振り切った無防備な格好の勇者に、蛇木の両手剣の斬撃が迫る。しかし勇者も容易くはなく、素早いバックステップで間合いから脱する。しかし蛇木に焦りはない。しかも外れる、誰にとっても全く意味のないはずの攻撃に彼は魔力を込めた。なんの意味があるんだと嘲笑う勇者を尻目に、当たるはずのない距離にいる彼にそれは命中した。


「ごばっ!?」


 勇者は、その腹から派手に血を噴き出した。彼はよろけながらも体勢を瞬時に立て直すが、こと一瞬の動作や判断が自身の命を左右する戦闘においてその隙は致命的だった。彼は返す勢いで放たれた蛇木の斬撃で胴を両断され、地面を赤く染めながら倒れ伏した。


「よくも!」


「っと……これはやらかしたかな」


 勇者に剣を振い、防御に隙ができた蛇木に勇者の1人が横槍を入れるように杖から火属性魔術を放った。背負っている弓で射るのは敵が遠距離にいる時だけのようだ。

 その炎の弾丸は速く、また、隙を見せた蛇木が躱せるほど距離に余裕があるわけでもない。ゆえに蛇木は咄嗟に剣を盾にして防御するしかなかった。それは確かに、砲撃じみた威力のある魔術から己の身を守った。だが、その剣に勇者スペックの攻撃を耐えるほどの耐久性はなかったのか、代償としてあっさり砕けてしまう。致命傷を回避し、自分の身を守ること自体には成功するが、今度は戦場で武器を失うという深刻な事態に直面することになってしまう。

 蛇木は迫り来る勇者の魔術攻撃をひらりひらりと躱すが、このままではいずれ炎の弾丸の前に餌食になる。回避し続けていられるのもスタミナのある今のうちだけだ。


「蛇木、受け取れ!」


「助かる! っと、これは中々……!」


 ヒュン! と風を切る音とともに蛇木に向かって結理がブレードを投げ渡した。それは形こそ従来のものと同じだが通常の物よりも刀身が長く、根元にあたる部分に柄があり、死神が持つ鎌を剣にしたようだった。持ち手はザッハークが使い、4刀流で戦う際に同じ物だ。

 蛇木はそれを振り向きざまにその柄を掴んで身を翻し、間髪入れずにブレードを振るう。その一振りで新たに放たれて迫っていた炎の弾丸は真っ二つに切り裂かれ消滅した。


「なっ!? 魔術を切り裂いただと!?」


「……これ、どういう物なんだい? 魔剣かなにかかな?」


「俺の特性を使って作ったただの試作品だ。とにかく頑丈で切れ味がいいが、結構脆いから気をつけろよ」


 ブレードの切れ味に驚く勇者と蛇木を尻目に、一方の結理は2人の勇者に応戦している。その両腕からはいつものように黒いブレードが生えており、どこからか飛来した矢を打ち払い、突き出される槍を受け流していた。1人は後方に下がり、そこから弓で狙撃しているのだろう。


「クソッ! 俺は選ばれし勇者なんだぞ!? なのになんでこんなわけの分からない連中に……! ありえないありえないありえないっ……!」


 渾身の一撃をあっさり受け流された勇者は、俯いてブツブツと周囲には聞こえないほどか細い声で何事か呟き、ふとなにか思いついたのか、勇者は濁った瞳を結理に向ける。彼は手に持つ槍に魔力を込めるとそれは再び青い光に染まっていく。


「くらえ! 水流槍(フラッドスティング)ッ!」


 勇者はその技の名前をありったけの気合を込めて叫び、勝利の確信とともにその技を、込められた青い魔力の刺突を繰り出す。同じ勇者であるにも関わらず自分たちと敵対し、その上、邪悪を具現化したかのような鎧を見に纏う愚者を屈服させるために。






 高速の接近から繰り出された槍の突きは先程使用された技と同じものとは思えないほど速かった。俺の直感と《先読み》が命中すればただでは済まないと危機感を訴え、自分の勘を信じて大袈裟と思えるほど距離をかなりの速度で後退した。それが実を結んだのか、後退した先、そこにいた俺の顔に当たる寸前で穂先が止まる。

 予想以上の、ある意味では予想通り、青い光に染まる槍の突きは凄まじく、一瞬、柄が伸びたと錯覚するほどだった。見ると、彼が握っている槍の柄の位置が真ん中辺りから後端へ移動していた。どうやら彼は突きの瞬間、ほんの一瞬だけ柄から手を離し、手放してしまう前に掴むことで刺突の射程を伸ばしたのだ。この技限定なのかは分からないが、かなりの射程の延長を実現する技術だ。腐っても勇者と言うべきか。

 しかもこの技、どこに名前を叫ぶ必要があるのか分からない必殺技みたく、派手な演出があるだけの酔狂なものではない。通常の刺突とは比較にならないほどの殺傷能力のある正しく必殺技で、槍の穂先に強力な魔術の発動を感じた。アジ・ダハーカが使ったことがあったから分かったがあれは水属性で、込められた魔力量と魔術の高度さからして鉄砲水流(フラッシュフラッド)くらいのランクはあったな。

 必殺技らしい一撃を躱された勇者は顔を驚愕に染めてさらに瞳を濁らせるも、槍を素早く自分の元へ引き戻すことは忘れない。


「バカなっ!? 俺のとっておきの魔技が!?」


「マギ?」


「ああ、魔術の武技と書いて魔技。魔術を行使する時、魔力を術として外に放出するのではなく、内側に留め、それを武器に込めることで発動するんだよ」


「でもなんか地味だったな」


「まあ、通常の魔術ほど正確に術を発動させたり、魔力を込めての維持の必要もない代わりに規模と派手さに欠けるのは仕方のないことさ。ちなみに前衛には必須技能だよ」


「武器に魔術を付与するのが魔技ってことか」


 蛇木は自身に向かって放たれたCランク魔術の圧縮版火矢(ヒートレイン)を、ブレードが両刃であることに気づいたのか鉈のように振るって切り捌き、魔技を外して動揺する勇者の隙をついてその横を過ぎって俺の元へ来た。勇者たちは警戒して今すぐに襲ってくる様子はない。会話するくらいの余裕はあるようだ。

 その間に聞いた蛇木の話から察するにニオンのあれも魔技ってことか。でもニオンの風神剣(トルネードサーベル)とか大地の剛拳(グランドステラ)に比べるとやはり地味と言わざるを得ない。魔術のランクを抜きにしても、規模もなにもかもが違い過ぎる。やはりニオンが凄いということなのだろう。


「いや、違う。それはかなりの高等テクニックだ。常に魔術を発動させ続けなければならず、加えて相当の集中力がいるし、それを近接戦闘と両立させられるほどの卓越した技能がないと成立しな————」


「ハイフィールド!」


炎渦(フレイムホワール)!」


「ッ!」


「む、これは」


 俺と蛇木が雑談してる間、勇者たちはただぼんやりと待っていたわけではなかった。着々と俺たちを始末する算段を整えていたのだ。その証拠に俺と蛇木の周囲に天井部分だけが開いた厚い障壁が張られ、頭上から炎の渦が迫る。油断していたのは否めない。しかし、蛇木、なんでそんな泰然としてるんだよ。


 次の瞬間、中空に出現した凄まじい熱量を伴う炎の渦が地面に直撃した。あまりの威力に障壁を軋ませ、地面をドリルのように削り、熱風を周囲に撒き散らした。バフでもかかっているのかと疑うレベルの戦闘能力を持つ勇者の魔術だ、その威力は最早Bランク魔術の域を大きく超えていた。


「やったな」


「そうだな。これをくらって無事でいられるはずもない」


「まぐれで勇者1人を倒して調子に乗ってたみたいだな。それに勇者はこの世界で死ぬことはない。彼も、今始末した彼らも元の世界に戻っている頃だろう」


「……そういえば、この前キャドン山に行った時、そこで出会った勇者も似たようなこと言ってたな。それ、誰に言われたんだ?」


「「「なっ!?」」」


 勝利を確信した彼ら勇者は、先程までの俺たちと同じように呑気に雑談を始めていた。障壁が内側からの衝撃で砕け、炎の直撃で起こった煙が吹き飛ばされる。そこにいたのはもちろん俺と蛇木だ。2人とも多少の負傷はあるが問題になるレベルではない。

 《硬化武鎧》が《硬化兵装》になって鱗が自然消滅しなくなったことに加えて、ブレード以外の形に変えられるようになったことに気づいた俺は、合間を縫って精度を上げるために練習を重ね、その甲斐あって、レパートリーが2つになった。1つ目が今回《硬化兵装》で生成した巨大な盾だ。アーマメントファフニールの胸部や肩のように艶のない黒で飾り気がない。蛇木に渡したブレードが2つ目、こちらは試作品で脆いので長時間の戦闘には向いていない。


「よっと」


 重いしこの体勢もキツいので頭上に大盾を掲げるのをやめて地面に突き立てる。 炎渦(フレイムホワール)の直撃に半壊こそしたが、耐え切ることには成功した。しかし、出現させておくのも邪魔なので魔力にして引っ込める。


「私が結界を張る必要もなかったね。さすがバトルジャンキー」


「違うわ。そもそもなんで俺をそんなにバトルジャンキーにしたいんだよ?」


「この傷」


「傷?」


「さっきの魔術で飛び散った君の盾の破片、それが刺さった傷なんだ」


「それは悪かったが、なんでこのタイミングでその傷を見せるんだ?」


「この傷の1つ1つが……与えられる痛みの1つ1つが私を強くしてくれる。君と出会い、勇者たちと戦うことでまた私は強くなれる……!」


「「「「エッ」」」」


 話しかけられている俺だけでなく周りにいた勇者たちの口からも、若干恍惚としている蛇木の言葉に驚きが溢れる。こいつ、まさか……。


「勇者4人と1人で戦う無謀ぶり、一目でピンときたよ。君も私と同じバトルジャンキーだとね!」


「ドM?」


「違うよ、バトルジャンキーさ」


「「「「えぇっ……」」」」


「さあ、私をもっと強くしてくれ!」


 俺と勇者3人の動揺を知ってか知らずか、油断した勇者に、蛇木がさっきまで戦っていた杖を持って背中に弓を背負う彼に突撃する。俺もそんな蛇木に便乗して戦闘を再開し、両腕に生やしたブレードで槍を持つ勇者に切りかかる。彼はブレードが反射した光にハッとして槍を振るい、俺の斬撃を防ぐ。そこに遅れて矢が飛来するも、槍を振るう勇者との戦闘の片手間に弾き、さらに地を這うかのような低い姿勢で勇者に接近する。彼は俺の頭を目掛けて刺突を繰り出すが、右腕のブレードで容易く受け流されてしまう。槍を外し、隙が生じた勇者に左腕のブレードを振るった。日光を反射する一瞬の斬撃、そのあまりの切れ味に勇者の首筋に一周するように赤い線が現れるも、ソレが落ちることはなかった。






「大丈夫かい?」


「まあな」


 数分と経たないうちに戦闘は終わり、俺と蛇木は血生臭いその場から場所を移し、大樹に向かって歩きながら俺は木漏れ日を眺めていた。しばらくお互い無言で歩いていたが、なにもしないのは暇だと蛇木が言うので雑談に応じることにした。


「珍しいね」


「……なにがだ?」


「殺人を全く忌避しない精神性を持っている人がいることがさ。でもそれだけじゃない。殺人の是非を迷ってる割には殺すことに躊躇いがなかった。それも同格かそれ以上の相手を即死させるほどの腕前、どこで身につけたんだい?」


「もしかして責めてるのか?」


「いや、その問題は君自身が解決すべき問題であって、私が首を突っ込んでいいものじゃないだろう? それに君は既に答えを得ているようだし、その絶技を誰から教えてもらったのかを聞く方が有益だからね」


「……強くなるために魔物と戦ったり、仲間と模擬戦をすることはあったが、あれを誰かに教えてもらったわけじゃない」


 アイアスとシルドの2人から戦い方を学んだが、殺人術を教わったわけではないな。ニオンが眠っていて俺1人で活動していた時、一時期その技を真似ていたが、ニオンのあれは戦うための、あるいは魅せるための洗練された技であっても殺人のための技ではなかった。そう考えると俺は、あの「絶技」を誰かから教わるまでもなく、最初から使えたということか? ……絶対御三家に関係あるね。


「やはり君は……」


「なんだよ?」


「私と同じバトルジャンキーのようだね」


「だからなぜそーなる」


 蛇木は、人間の集団の中にいれば必ず異分子になる俺の異常性を全く歯牙にもかけず、終始穏やかに微笑んでいた。



 結理にとって自称バトルジャンキーの蛇木は未知。蛇木にとっても殺人に躊躇いのない結理は未知。


 ……そういえば、勇者、フラグ立てまくってましたね。

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