表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の如き異様  作者: 葉月
3章 愚かなる者たちの戦争
84/103

第80話 混成魔物小隊 その2


 映像の中に現れた邪悪の化身たる漆黒の竜の姿は、戦争を起こして罪悪感なく人や町を焼き、戦いの最中にも緊張感なく笑う勇者たちなどとは比べ物にならないほどの異様さだった。


 全身は黒い鱗で覆われ、その鋼を思わせるほどの強靭さは鋭利な刃物のような無機質さがありながらも、こちらにその脈動が伝わってくる生物的な質感を持っていた。フルプレートメイルにでも身を包んでいるように見えるが、おそらくあれは地肌なのだろう。だが、胸部から腹部、肩、二の腕から肘、脛から膝、それらは色が黒であることに変わりはないが、他の地肌と思しき鱗の皮膚とは雰囲気があからさまに違った。

 それは端的に言えば鎧だった。ツヤのない鈍い風合い、1つの金属の塊から丁寧に削り出して作ったような継ぎ目のないシンプルさ、まるで巨岩でも目にしているように錯覚するほどの重厚感、いずれをとっても見かけ倒しでないことは明白だった。

 頭部は確かに竜を模したものではあるのだが、どこか機械的で非生物感が強い。青色に輝く三日月のような形のバイザーは、本来目があるべき場所を覆い隠していてその存在を確認できない。裂けた笑みを浮かべる口元からは1本1本が剣の先端のように鋭い歯が覗いていた。


 魔昆虫たちはその存在を竜と言ったが、鱗で覆われていることと手足の爪が鋭い以外の竜らしい要素はほとんどない。翼は生えてないし、尻尾も角もない。しかし、見る者を威圧し、恐怖させる正しく邪竜と呼ぶべき存在がそこにいた。


「なぜ奴がここに!? それになぜ『飛翔』は奴と行動をともにしているのだ……?」


「……『飛翔』が連れて来たと考えるのが妥当だろうな。それに救援は竜だけではないようだぞ」


「あれは! ……なんだ?」


 映像の中では4人(?)が勇者たちを睥睨するかのように岩の上に立っており、漆黒の竜が真ん中に陣取り、その右側に空中にホバリングする『飛翔』(ニオン)が、左側にはさらに2人がいた。1人は長い黒髪を後ろに束ねて執事のようなタキシードを身に纏い、ひたすら真っ白なだけの仮面で顔を隠して一歩下がった位置に控えている。もう1人は長い金髪が特徴的な少女だった。しかし、こちらもその顔は同じ仮面で隠されており、素顔は確認できない。黒く、レースのついた日傘を差し、黒い手袋を身につけ、徹底的に地肌が出ないように、日光に触れないように気を配ったような格好をしている。

 金髪の少女の服装は、服を着ない魔昆虫から見ても妙と思える格好だったが、それを無視できるほどに、その服装に反応した仲間の魔昆虫の方が妙だった。


「なんだ? あの珍妙な服装は?」


「あ、あれはまさか!」


「知っているのか、『毒針』!?」


 妙な服装に一同は困惑する。しかし、その中にあからさまに目を輝かせる者が1体。『毒針』、つまりサソリの魔昆虫だ。


「ああ、知っているとも、『蛍光』。あれは異邦人がこの世界にもたらした叡智の1つ、ゴシックロリータ、すなわちゴスロリだ!」


「ゴ……!? な、なんだそれは!?」


「私も詳しくは知らないが、少女的、つまりロリータなイメージの服装に退廃的、耽美的なゴシックのイメージを加えたコーディネートだと、小耳に挟んだ」


「……なにを言ってるのかサッパリ分からないが、あれにどんな意味があるんだ? なにか特殊な効果のある品物、ということか?」


 沈着冷静、時に仲間すら切り捨て、感情の欠落したような判断を容易に下せる思考から、冷酷な印象を周囲から持たれていた『毒針』は、普段とは比較にならないほど興奮した様子で金髪少女の黒尽くめの服装を熱く語る。しかし、周囲の目は戸惑いつつも、冷ややかだ。もっともそれを気にするような者なら最初から語ったりはしないが。


「ファッションだッ!」


「……は? いや、それになんの意味がある!?」


「カッコいい!!!」


「バカか!」


「……バカどもは放っておこう。それより彼らが敵なのか味方なのかを確かめる必要がある。地上に向かうぞ」


 『蛍光』と『毒針』の漫才をスルーして魔昆虫たちの会議は続く。役に立たない2体に変わりリーダーシップを発揮したのは『幻覚』だ。


「しかし、相手は邪竜だぞ? まともな会話が通じるとは思えないのだが……」


「そこは『飛翔』を頼る他ない。なんの因果か、邪竜とともに行動しているが、聡明な『飛翔』のことだ。将来我々と敵対し、かつ最も危険な存在になるであろう邪竜に取り入ることで、その危険性を排除しようとしているのだろう。そしておそらくそれは完了している。ゆえにその力を利用し、今こうしてこのカントリ林の危機から我々を救うために現れたのだ」


「なるほど……!」


「では行くぞ、一応警戒は怠るな」


「「「……」」」


 『幻覚』の推測に魔昆虫たちは一応の筋は通っていると判断したのか、その地上に出るという選択に沈黙をもって肯定した。素早い決断ののち、彼らはすぐに地上への移動を開始する。なおも漫才を続ける『蛍光』と『毒針』は置いて行かれた。






 魔昆虫たちが地上へ向かおうと移動を開始するおよそ30分前、拠点での準備を終えた俺たちは勇者たちに気づかれないよう慎重にカントリ林に転移していた。

 俺は進化したファフニール、アーマメントファフニールを見に纏い、ニオンは寿命問題が解消されたからか、超久しぶりにセミの姿に戻り、燃香はどこからか用意したゴスロリ、高沢は燃香が自室から持ってきたタキシードを着用している。高沢はその服に着替えた際、すごく恥ずかしそうにしていた。


 正体バレを防ぐ準備は完璧、俺たちは襲いかかってくる勇者がいないことを確認すると、まずは勇者の強制転移の下準備を開始。俺は腕を空に掲げると、掌から肉眼では一粒一粒を視認できないほど微細な粉末(作った鱗を粉末状にして、《不浄体質》を発動させた物)を宙に放つと、すかさずニオンが翅を羽ばたかせて粉末を上空にまで巻き上げる。ちなみに《硬化武鎧》から《硬化兵装》に進化したことで鱗が体から離れても自分の意思以外では自然消滅しなくなった。なお、鱗は元々体の一部であるので《不浄体質》は進化前から普通に発動する。それに《不浄体質》は呪いのときとは異なり、制御できるので味方には悪影響を及ぼさない。

 その粉末はとても細かく、上空にまで行ってしまうと生成した俺自身の目でも見えないほどだ。もっともその位置は、《硬化兵装》を通して分かっている。そしてこの場の4人の中で天高く舞っていく粉末が直接見えているのはニオンだけだろう。だからこそニオンにはそれらをこの林一帯に満遍なく撒いてもらう役割をお願いした。燃香も目がいいが、さすがに顕微鏡レベルの視力はもっていない。

 その間、燃香には転移魔術の発動準備に入ってもらっている。粉末を出し終えた俺と、《拡張》での転移魔術をスムーズに発動させるためのスキル補助を終えた高沢は、勇者たちが俺たちの存在に気づいて戦闘を仕掛けてくる事態になるまで出番がない。しかし、することが全くないわけではなく、辺りを常に警戒していなければならない。


「……ところでさ、いつのまに片手だけ日焼けしたの?」


「俺の右腕の肘から下のことを言ってるなら日焼けじゃないぞ」


「ならなにかの呪い? 解呪してあげようか?」


「いや、これは義手だ。日焼けでも呪いでもない」


 勇者の奇襲を警戒し始めて数分、さすがに無言で辺りを《察知》全開にして捜索するのも、精神的疲労から緊張感を維持するのも限界が近くなってきた。《察知》の性能のそれそのものは上がっているのだが、ニオンや燃香のように呼吸をするレベルで使いこなせるようにはなっていない。

 一方の高沢も既に集中力が切れているようだった。だが、彼女の場合、俺とは原因は違うだろう。その不安げな横顔は、本来なら自分たちと一緒に戦ってくれるはずだった頼もしい1人の勇者が敵になった事実、打倒すべき敵として現れる可能性があることへの憂いを暗に物語っていた。その嫌な想像から気を逸らそうとしているのか、無理して作った表情で問いかけてきた。


 もし俺が彼女の立場なら、ここに久喜正輝がいたら自分は一体どうすればいいのか分からなくなるだろう。しかし、俺は特になにも気負うことなく彼を殺してしまいそうだ。そう思うと葛藤できる高沢が若干羨ましい。


「義手? でもそういうのってもっと機械的じゃないかな? 葉桜君のは見た感じ黒いだけだったし、どの辺が?」


「アニメとか映画の見過ぎだろ……。元の世界の義手だって見た目は普通の腕に近づけて作られてる物が多いはずだぞ?」


「む、確かにそうかも。じゃあその腕が義手って証拠を見せてよ」


「なんでだよ」


「いいじゃん。私たち友達でしょ?」


 高沢よ、言い方が同級生をカツアゲする不良生徒のソレだぞ……。


「別に構わないが……」


 義手だってことの証明を見せるのは、別に友達と言われたのが嬉しかったからではない。俺は友達云々を言われて舞い上がっちゃうような、そんなありふれたぼっちではない。ちゃんと元の世界にはたくさん友達いたし、彼女は……いませんでしたね。でもまあ、嬉しかったのは事実だ。高沢に打算やら悪意といった邪なものを感じなかったことが。

 俺は異世界に転移する前、学校で友達は普通に回りにいた。さすがに磁石に引き寄せられる砂鉄のように大量にはいなかったが、便所飯を体験するようなことも、休み時間や放課後に1人きりということもなかった。その環境が当たり前にあることが普通ではなく、自分でもかなり恵まれている存在なのだという自覚は当然あった。


 高沢との会話の中で、実はそこそこ彼女のことを信頼していると、今ここでニオンたちに言われること以外で初めて自覚すると、気恥ずかしい気分になりながらも右腕の肘から下を取り外す。本当にあっさりと外れるのだ。大仰な効果音も金属がこすれるような音もしない。俺の意思さえあれば冷蔵庫の表面にくっつく磁石みたいに簡単に付けたり外したりできる。逆に言えば、俺の意思がないと普段通りのまま、体の一部と化したみたいに強固なものとなる。


「うわ。本当に外れた。それ、どうなってるのかな? 作り物じゃないのは一応は分かるけど……」


「《硬化兵装》を、いつも鎧やらブレードやらに使ってる鱗を塊にして腕の形に整えたんだ」


「この前、私と青葉君に武器を見せてくれた時は《硬化武鎧》って言ってなかった?」


「よく覚えてるな。あれが進化した特性が《硬化兵装》だ」


「でも作るのに苦労しなかった? ゼロから作ってるわけだし」


「まあ、それなりに苦労したが、本物の義手を作ってたわけじゃないからな」


 そうは言ったが、よく思い返してみると実際は本来の腕、つまり生身と大差ない義手の方が作製難易度が高いような気もする。その時を振り返るとだいぶ雑に解決したよな、アレ。


「へえー。2人が気にしてる素振りがなかったから、てっきり日焼けしただけだと思ってたよ。本当に義手なんだね。……でも義手ってことは腕を失うようなことがあったってことにならない?」


「そうだな。まあ、いろいろあった」


「どんなこと?」


「別に語って聞かせられるような面白い話でもないぞ?」


「面白くなくても聞いておきたい。もしかしたら私も同じ事態を体験することになるかもしれないし、なにより仲間として友人として葉桜君のことを知りたい」


「分かった————」


 いつになく神妙な表情の高沢に、俺は右腕を失うことになった経緯をかいつまんで話した。依頼を受けて魔物を討伐した帰りに竜と遭遇したこと、戦闘の末に敗北したことなどなど。話し終える頃にはニオンは粉末をカントリ林中に撒くのを終えており、転移魔術の準備をしている燃香を守る担当に移っていた。


「えっ、カッコ悪っ! 自分の能力の反動で動けなくなってる時に片腕失った、っていろいろと大丈夫?」


「ぐはっ! 確かにカッコ悪いのは否定できないな。けど、そんなストレートに言われるとさすがに傷つ————ッ!?」


「「「っ!!」」」


「貴様ら、そこでなにをして……な、何者だ!?」


 ふと、魔昆虫でない、しかも感じたことのない気配が急に出現したこと、それがいつのまにか視界に現れたことに俺たちは息を呑んだ。こんな近くに接近されるまでその存在に全く気づけなかったのだ。只者ではない、と俺たちに緊張が走る。

 そこには既に勇者と思しき人間が8人いた。全員が品質良さげな装備に身を包んではいるが、格好が統一されているわけではないことから、おそらくそれぞれに適した装備を着用しているのだろう。


「おい、貴様ら! 聞いているのか!? 所属を答えろ!」


 俺たちを発見するや否や、勇者たちは喚き始めた。そんな彼らに黙るよう指示したのはリーダー格らしき20代半ばの男だ。彼は敵味方の判別のためか問いを発した。

 しかし、俺たちにそんなことが答えられるはずもない。戦闘は避けられないことを悟ると、アイコンタクトでそれぞれがすべきことを確認しあい、俺はティフォンを呼び出して炎の渦を、ニオンは風神剣(トルネードサーベル)を勇者の足下に向かって放った。


「プッ、見かけはすごそうだったが、外しちゃ意味ねぇよなぁ!」


「き、消えた……!?」


「バカ者! 奴らは仕損じても消えてもいない! 追うぞ! 所属を名乗らなかったということは奴らは侵入者で間違いない!」


「「「「「「「了解!」」」」」」」


 勇者の1人が炎と風が地面に着弾したことで起こった砂埃を風魔術で吹き飛ばすが、既にそこに4人の姿はなかった。慌てる勇者たちを叱咤し、リーダー格の男が周囲を注意深く観察すると、外見から邪悪さが滲み出ているかのようなフルプレートメイルと、セミ種の魔昆虫が二手に分かれて潔く遁走している姿が目に映った。あの脇目も振らない逃げ方からして、事前に打ち合わせていたのだろう。おそらく、姿を確認できなかった2人も同じように別方向へ逃げたのだ。今は姿を確認できる敵を追うべき、そう判断した勇者のリーダー格の男は仲間の勇者たちに指示を下した。


「我々も二手に分かれる。行くぞ!」


「「「「「「「了解!」」」」」」」



前話に続いて魔昆虫紹介


『毒針』 サソリ種

『蛍光』 ホタル種

『幻覚』 ガ種

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ